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タイトル未定2026/05/01 23:49

「今夜もまた森の中で寝るの?」


ワーンは両手を首の後ろで組み、頬を膨らませてぼやいた。村を出発してエイル市へ向かう道すがら、今夜も四人は再び森の中で夜を明かさなければならない。


「ミノタウロスに会ったことがまだ興奮冷めやらないわ」


「それにしてもファリス、あなたって魔獣の種類をほとんど全部知ってるのね!」


青い瞳の少女はアイテムボックスに手を突っ込み、大きなハードカバーの本を取り出した。色褪せた緑の表紙の古びた本を、彼女は答えの代わりにホクトへと差し出した。


女剣士はそれを受け取って開き、目次を確認した。EランクからSランクまで様々な魔獣の種類が載っている図鑑だった。中を開いてみると、挿絵や印刷された図版とともに、生息地・危険度・能力などが事細かに記されていた。


「こういう本って面白いわね!いつか機会があったらぜひ貸してちょうだいね、ファリス」


彼女は本を魔法少女へと返した。会話を聞いていたワーンが二人に近づいてきた。


「ねえファリス、一つ聞かせて!大量の本が置いてある場所ってどこかある?異世界からの旅に関する情報を調べたいの。私たちが元の世界に戻る手がかりが見つかるかもしれないから」


「一般の人も利用できる場所ということなら、冒険者ギルドの図書室になりますね」


ワーンの目が輝き、希望が胸に灯った。エイル市に着いたら、ほとんどの時間を図書室での調査に費やすことになりそうだ。


「ワーンってファイターよね」


ワーンはファリスの質問に首をかしげた。彼女の表情を見て理解していないと悟ったファリスは、ファイターとは攻撃系の職業で拳と脚を使う者であり、身体能力を強化するスキルで攻撃力を高められると説明した。


「似たようなものかな。私の拳術はどちらかといえば防御と急所への反撃が中心だから」


「まあ!防御重視だと戦闘で不利にならないんですか?それと急所って何のことですか?」


ワーンは頬を膨らませてファリスを見つめたが、彼女が理解していないようだったので、前を歩くホクトの後ろへと回り込んだ。名前を呼んで注意を引くや否や、隙を突いて両の拳でホクトの両脇腹を力いっぱい打ち込んだ。


「痛い!何するのよ、この馬鹿!」


ホクトは顔を真っ赤にして怒り、剣を抜こうと手を伸ばしたが、両腕がまったく上がらなかった。まるで麻痺したかのように力が入らない。


「こうして見せた方が早いでしょ。脇の下は神経が集中している急所で、強い衝撃を受けると一時的に両腕が上がらなくなるの。これが急所の一つ。私の技は大きな力は必要なくて、ただ正確に急所を打てばそれで十分なのよ」


ファリスがこくこくと頷いていると、ワーンの背後に黒い影がぬっと立っているのが見えた。ホクトは怒り心頭で、まるで猛獣のような恐ろしい形相をしていた。


「私だって剣だけじゃないわよ。合気道の黒帯も持ってるんだから」


ワーンが飛び上がって驚く間もなく、ホクトは跳躍して両足でワーンの首を挟み込んだ。二人は地面に倒れ込み、ホクトの足はワーンの首をがっちりとロックしたままだ。


息ができなくなったワーンが降参を求めて地面を激しく叩き続けたが、ホクトは止まらなかった。ワーンの顔が青くなってきたのを見たファリスが急いで二人の間に割って入り、ホクトはようやく足を緩めた。ワーンは大きく息を吸い込んで肺に空気を取り戻した。


「この狂人!ちょっとからかっただけじゃない。殺す気なの!」


「私だってからかっただけよ。死にはしないでしょ」

ワーンは歯を食いしばった。今日中にホクトと決着をつけたかった。ファリスがまだ先は長いのだからもう喧嘩をやめてくれと二人に懇願した。マリアはワーンとホクトの口喧嘩を見ながら、静かに小さく笑っていた。


「でもマリアさんだって相当なものですよ。あの大ネズミの群れを瞬く間に魔法で片付けて、あの大牛の鎧まで打ち破ったんですから」


「ただの普通の魔法よ」


ファリスはすぐにマリアを振り返った。少し目を伏せ、カーティア王国のエイル市へと続く道を淡々と歩く三十路の女性の横顔を見つめた。


「マリアさん、少し聞いてもいいですか?魔法の詠唱なしにどうやって魔法を使っているんですか?」


「別に不思議なことじゃないでしょ!いざという緊急の場面で詠唱なんてしてたら、呪文が発動する前に相手にやられてしまうわよ」


ファリスは呆気に取られた。マリアはそれを当たり前のことのように話している。魔法使いが詠唱なしに魔法を使えるというのは、決して普通のことではない。それができるということは、一般人をはるかに超えた魔法の才能を持っているということだ。


「やってみたくない?基礎から全部教えてあげるわよ」


ファリスが沈黙していると、ワーンが パン、パン と手を叩いてマリアの言葉を後押しした。ファリスが魔法の腕を磨くことができれば、将来きっと役に立つに違いない。


ファリスもマリアのような魔法の使い手と近くで学べることに興奮を覚え、迷うことなくすぐにマリアの申し出に頷いた。


「まず最初に皆さんに言っておきたいことがあるわ。魔法使いにとって最も大切なのは基礎魔法であって、上位の魔法ではないということよ」


みんなは歩きながら熱心に耳を傾けた。マリアは、基礎魔法の習熟こそが肝心だと説明した。基礎魔法をうまくコントロールして使えるようになれば、他の魔法を使うときの威力も上がる。ボールを例に挙げ、毎日練習してリフティングが上手になれば、誰かがボールを投げてきても簡単に受け取れるようになる。練習したことがなければ受け取れないし、受け取れたとしても思い通りに操ることができない、と語った。


「まず最初に、自分の魔力をスムーズに流せるようにしなければならないわ」


マリアは手を上げ、魔力をファリスへと流し込んだ。異世界からきた二人の少女の視線が集まる中、その魔力は生徒の体の中に染み込んでいった。ファリスは自分の体の中を巡る魔力を感じた。滑らかで淀みなく、規則正しく流れている。


「もう分かったでしょう?正しい魔力の流し方。あなたたちもこんな風に魔力を循環させる練習をしてみて、それから自分の基礎魔法を使ってみなさい」


マリアはファリスに、教えた通りに魔力を循環させてみるよう促した。金髪の少女はしばらく懸命に試みた後、詠唱をしながらマリアが教えた通りに魔力を流すことに成功した。基礎のヒール魔法を試してみようと手を伸ばすと、手のひらに大きな白い光が生まれた。


「えっ、マリアさんの教え通りに魔力を循環させたら、ヒール魔法が以前の二倍の威力になっています!」


手応えを感じたファリスはさらに練習を続け、だんだんとコツをつかんできた。

「どうかしら?魔法に変化は感じられた?」

歓声が、森を縦断して続く土の道に響き渡った。ファリスは自分の魔法の威力が以前よりもはるかに増したと感じていた。マリアはまず静かにするよう言いつけた。


「何度も練習しないとだめよ。最初は力みを感じて疲れるわ。機会があるたびにやること。魔力の流れが良くなり、循環の練習が楽になってきたら、魔力は増えていくし、魔法の効率も上がってくるから」


マリアはファリスに体の中で魔力を循環させながら歩く練習をさせ、夕方まで続けた。太陽が傾き、柔らかな光が差し込んでくると、マリアは今夜の野営に適した場所を見つけて焚き火をおこした。


「くたくたでしょう?」


「はい」


見習い魔法使いの声が返ってきた。体の中で魔力を循環させながら歩くだけで、休みなく山を走り続けたかのように息が切れた。マリアはファリスに回復魔法をかけ、疲労を完全に取り除いた。


「さあ、魔力を循環させてから、自分が一番得意な魔法を使ってみなさい」


ファリスはマリアの言葉に従った。その目に輝きが宿った。普段使うヒール魔法の威力が以前の四倍に跳ね上がっていた。


「だから魔法のランクを気にする必要はないのよ。炎魔法にはいくつかのランクがあって、ファイアボールよりも上位のファイアエクスプロージョンがあるわ。見てなさい」


マリアは頭上へと手をかざし、大きな火球を出現させた。これがファイアエクスプロージョン、ファイアボールより上位の火炎魔法だと説明した。これは魔力をきちんと練り上げることなく、通常の流し方で使ったものだ。


ワーン、ファリス、ホクトの三人は、普通レベルの炎魔法とは思えないその圧倒的な威力に、生まれて初めてといえるほど驚き固まった。マリアがそれを前方の草原に放つと、激しい爆発とともに広範囲が炎に包まれた。


「次はこれを見て。魔力を純粋に練り上げて循環させた場合の、同じ魔力量でのファイアボールよ」


マリアが頭上に手をかざすと、さっきよりもはるかに大きな火球が出現した。それを草原に投じると、最初の爆発を大きく上回る破壊と炎が広がった。三人はまるで正気を失いかけたかのように、生涯で最も凄まじい炎魔法を目の当たりにして呆然と立ち尽くした。


「だからランクは気にしなくていいの。この普通の炎魔法だけでも、十分に上級の魔法使いになれるわ。魔力の循環をうまく練り上げられるようになれば、詠唱なしで魔法を使う方法も教えてあげる」


「本当ですか!」


ファリスは驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべた。しかし一つ、心に引っかかったまま流せないことがあった。


「マリアさん、なぜそれほどの魔法の力を持っているんですか?あなたは一体何者なんですか?」


ファリスは揺るぎない眼差しで言った。たとえ失礼にあたるとしても、この問いを口にする勇気を振り絞ったのだ。マリアは大きく息を吐いた。


「私もあなたたちと同じ、ただの人間よ。この魔法は先祖が教えてくれたものなの」


ファリスの目がわずかに揺れた。信じきれていない様子だった。ふと肩に手が触れ、振り返ると、そこにはホクトがいた。


「アイテムボックスから食料を出してちょうだい。夕食を作るから」


張り詰めた空気は一瞬にして変わった。マリアが静かに笑いながら、用を足しに森の中へと歩き去った。ファリスは食料を取り出しながら、改めて良い機会を見つけてこの件を確かめなければと心に決めた。

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