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第二話

「ガチャッ」


重い。そう感じたのは趣味で筋トレをしている社会全般から見たら少し引き締まった体をした男子高校生の田村武だ。そんな彼が広背筋を刺激すらしない扉を重いと感じたのは今日が初めての塾の体験授業だからだ。


「こんにちは~」


 以前とも変わらぬ塾長である阪口の声が入り口に響く。

 以前は会釈だけで済ませたが、頑なにしゃべらない人間でもないので、挨拶を声でする。ただし、中学の頃の元気で、笑顔なそれではなく、無感情で消極的なものだ。

 席に着こうとしたが、授業はまだ終わってないらしく、生徒と先生が授業をしていない、端っこに立つことにした。特にすることもないし、かと言って先生や授業前の生徒に話しかけに行く技術を心得ていない武は手持ち無沙汰になってしまった。


 むしろ話しかけに行けないからこそ堂々と数分待っていると、ガチャッと音がした。扉が開いた音だ。もちろん、武は特にすることがないので、視線は自然と入り口に向く。入り口に近い席にいる先生や生徒も暇なのか、同じように入り口に視線を向ける。その先にいた主は、すらっとした首、そしてそれを強調させるために存在するかのような、きれいに一つに纏められた髪、ぱっちりとした目と、それに対し小さい顔をした少女であった。確か初めて訪れたとき、今回の武の授業を担当する角先生の右にいた子だ。

 彼女はこちらに気づくでもなく、黙々と靴を脱いで靴棚にしまう。そして、スリッパを履くと、こちらに向かってきた。しかし、彼女も武と同様やることがないのか、あまり広いとは言えない教室で、武の近くに立つ。そうすると、スマホをいじりだしてしまった。もしかしたら彼女も『こちら側』なのかもしれない。いや、どうせ普通に陽キャがやってるアプリで友達に返信してたり、女友達の恋の相談とか乗ってるんだろうな、と武は勝手に思った。まだ、同類認定は早い。


数時間後、、、


 学校と比べて、かわいいくらいのチャイム音が教室で鳴った。そう。武初の授業が終わったのだ。思っていたよりも短く感じた。集中していればあっという間なのかもしれない。最も、集中していたのは恐らく武だけだが。

 授業の概要はこんな感じだ。武は黙々と集中して問題を解き、解らないところを角先生に質問、そして解説を聞くのだ。そして、そこから更に解らないところができればツッコんで質問し、それにたじろぐことなく、角先生はすらっと答える。大学生だから、解説がすらっと出てくるのはすごいと見た。まあ多分、塾長(阪口)も初回だから配慮したのだろう。これで入塾したら、実は角先生が並外れて解説が上手いシゴデキ大学生なだけで、他の先生は解説ができるが、このレベルまで上手い解説ではないですよ~とかだったら、ちょっと残念だな。まあ、そのレベルで角先生はやる男だ。

 そして、重要な隣側に座る少女・陽菜のことについてだが、、、武が隣で真剣にしてるのをおかまいなしにずっと角先生と話していた。内容は色々で、学校であった楽しかったこと、むかついたこと、家族のこと、好きなものやこと、そして、もう疲れた~など、駄々をこねたりだ。見ているこっちとしては微笑ましいばかりだが、ずっと話しているせいで、なかなか、質問しずらかった。ポイントはすごく早口なこと。けど、角先生もこちらに気を遣ってくれてるのか、会話が切れたタイミングや、話している途中でも、チラッとこちらを見てくれて、悩んでいる仕草をしたら、話しかけてくれた。イケメンかよ。

 授業は解説がわかりやすいし、角先生挟み、隣の少女の我を曝け出す姿を見られるのは、目の保養になる。要するに神授業だ。




「また、来週来てね」


塾長の少し期待するような声が


「ガチャン」


という扉の閉じる音の前に聞こえたのだった。

 そんなこんなで、その日の授業は幕を閉じた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 入塾することにした。なぜって?そりゃあ、あんな授業受けさせてられたら通いたくなりますって。まあ、『体験が』あの子だった、だけだから、次回もそうとは限らないけどね。けど、環境自体は悪くない。授業を週1でとれば、自習室は毎日使い放題。問題集もレベル別、学年別であるから、やり放題。悪くないだろう。

 親が塾と連絡を繫いでるから、親がその旨を連絡し、あとは、塾側からいつに初回の授業になるのかの連絡を待つだけだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 初回の授業日は前回の体験授業と同じ、木曜の八時からだった。お?これはもしや?あるのではないか?と、少しだけ期待しのだった。

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