きれいなだんごができました
「それはな……ハンネスは、自分の為だけに言った訳じゃないからだ」
ゆくっりと間を使って、副長のおっちゃんはそう語る。
しかし、ガキ大将君にはあまり伝わらなかったらしく、怪訝な顔で首を傾げておったそうな。
「何それ、意味分かんねえんだけど」
それから少し考えた後、やっぱりよく分からなかったらしく、不満気に唇を尖らせた。
まあ、多分ガキ大将君に考えさせる為だろうけど、副長のおっちゃんは正解の一部しか言っていないってこともあるっぽいし、そもそも今話そうとしてる内容が、利己と利他っつう、子供には理解し辛い内容だろうから、そうなるのもしゃーなし。
さて、それじゃあ副長のおっちゃんは、どうやってそれを教えるつもりなのだろうと、気にしながら傾聴する。
「ハンネスが怒ったのはな……自分の為でもあるが、ここに居る皆の為でもあり、そして……お前の為でもあるんだぜ?」
「オレの為……?」
「そう、お前さんの為さ」
「なんで?怒ったじゃん」
副長のおっちゃんの言葉に、ガキ大将君は心底不思議そうに首を傾げる。
恐らく、怒られるのは嫌なことだから、自分の為というのが結び付かないのだろう。おっこさまぁ。
そんなガキ大将君に、副長のおっちゃんは優しく笑いかけながら根気よく話し続ける。
「怒ったっつうより、叱った、だな。お前さんが大人になった時、悪いやつにならないように、止めたんだよ」
「オレ、別に悪いやつになんかならないし」
やはり副長のおっちゃんの言いたいことの裏は分からないのだろう。
ガキ大将君は無自覚な自分の行動を省みずに、自信満々にそう告げる。
そんなガキ大将君に伝わるようにと、副長のおっちゃんは方向を変えて話をする。
「そうか?ちょっと考えてみてほしいんだけどよ、人のことを馬鹿にする大人って、良いやつか?」
「そんなん、やなやつじゃん」
「だよな?じゃあ、さっきカイのことを馬鹿にしたお前さんはどうだ?」
即答したガキ大将君に、さっきの振る舞いはどうだったかと問う。
そうすることで、今の話題と結びついて副長のおっちゃんの言いたいことを理解出来たガキ大将君は、気まずそうに目線を逸らした。
「あれは……でも、本当のことだし」
「本当のことを言えば、やなやつでもいいのか?」
「……」
咄嗟に出たその言い訳は、何の正当性もない。
それを理解しているからか、副長のおっちゃんの追撃に黙り込むしか出来ないガキ大将君。
そんな彼に、副長のおっちゃんはやっぱり優しい笑顔で、優しい答えを差し出す。
「なあ、ディノ。やなやつになるんじゃなくてよ……どうせなら、かっちょいいやつになろうぜ?」
不意に掛けられた言葉に、予想もしていなかった言葉に、ガキ大将君はまん丸の目で、その優しい笑顔を見つめた。
「かっちょいいやつ……?」
「そう、なりたくないか?」
副長のおっちゃんの問い掛けに、少年は再び顔を逸らす。
どちらの方が良いのか、その答えを噛み締めるように数秒沈黙した後、ぽつりと呟くように答えた。
「……かっちょいい方がいい」
小さな子供の、溢れるような熱。それは隙間から漏れ出ただけだが、確かな熱を持っていた。
その熱を逃すまいと、副長のおっちゃんは頷きながら口を開く。
「ディノにとってかっこいいやつって、どんなやつなんだ?」
それは、起源の話。
誰でも一度はある、最初の一歩を踏み出した切っ掛け。
それを副長のおっちゃんは掬い上げる。
少年の胸の奥から掘り起こされたそれは、きらきらと眩しく瞬くその瞳に、身を焦がすような大きな熱を孕んでいた。
その熱い想いを、人は夢と呼ぶのだろう。
少年は今、夢を語る。
「すげぇ強くて、沢山の魔物に囲まれて、もう駄目だって時でも、笑いながら勝っちまう位の、英雄」
「……ああ、勇者セフィラムか」
副長のおっちゃんが、燃え始めた炎に薪を焚べた。
更に勢いを増したその炎の大きさは、弾かれるように副長のおっちゃんの顔を見た力強さで察せられた。
「!副長、知ってんの?」
「そら知ってるさ。大魔王ロレンスを倒した大英雄だろ」
「そう!勇者セフィラムはめちゃくちゃ強いんだ!最強なんだぜ!」
「いいじゃねえか、最強の英雄。男のロマンだね。かっちょいいじゃねえか」
副長のおっちゃんに肯定されたことによって、ガキ大将君改め、勇者大好き少年のディノは、完全に勇者セフィラムとやらのかっこよさを語り始めた。
それをうんうんと頷きながら話を聞く副長のおっちゃん。
ところで、ディノ少年が勇者を最強って言った時、何で副長のおっちゃんはこっちをチラ見したの?
あっし今回何もしとらんけど、どした?
「そうだなぁ……うん、そしたらな、超頑張んなきゃいけないな」
それから暫くディノ少年の話を聞いていた副長のおっちゃんが、何かを悟ったような表情でそう言いながら、またこっちを見て来た。
なんだね。あっしの顔に何か付いておりますかね。
それから、副長のおっちゃんは勇者だったらどうだと、巧みな話術で(当初の印象より)素直な少年の憧れを利用し、大人達に都合の良い振る舞いをさせるように誘導しましたとさ。
早い、綺麗、そして恐らく長持ちのまん丸ディノ団子の完成だ。
素晴らしい手腕。拍手です。




