やたらとテンションの高い麒麟もどき
暖かな街灯を眺めながら、そう振り返っていた所に。
ふと立ち上がった麒麟もどきが、ゆっくりと弧を描く様に、俺の前を闊歩する。
静かに街を眺めながら、ぽつりと呟くように、口を開いた。
「資格者よ。この街並みを観て、其方は何を想う」
緩やかな街明かりを背に、ビーズのような目で、俺を一直線に眺めながら、そう問うた。
「何を……」
麒麟もどきの質問を受けて、俺は一度空を仰いだ。
前世と比較して、決して多いとは言えない街明かりの影響か、記憶にあるそれよりも鮮やかに見える星々を眺めながら、俺はその答えを探す。
それを見つけるのに、決して長い時間は必要としなかった。
「まあ、俺って人が好きだなって。そんな感じのことをね」
滲んだものは。湧き上がった気持ちは。
発露したその思いの元は……それは、人のことだった。
門ジィのこと、副長のおっちゃんのこと、ミリアのこと、ギルド長のこと、セリナのこと、エルガンのこと、ミテラさんのこと、ガーネのこと。
これまでに出会った、ひと。
それから、これまでに出会うだろう、ひと。
そんなことばかり、思いを馳せていた訳で。
街を見ていて、そんなことばかりを考えてるってのも、変な話だったな、なんて思いつつ。
それを止めるつもりが起きない位には、心地良い時間に思える。
「ふむ……」
麒麟もどきは、俺の答えを聞いて、考え込むように首を傾げた。
まあ、そうなるよな。繋がりが分からないよな。
もうちょい詳しく説明しようかと思ったけれど、麒麟もどきが話し始めたので、中断。
「今一度、問おう」
勿体ぶるようにゆっくりとした動作で、麒麟もどきはそんなことを言う。
「汝、力を求める者か?」
「あ、間に合ってまーす」
やたらと深刻そうな雰囲気出して聞くから何事かと思いきや。
俺も今突飛なこと考えてたからあんまり言えないけど……こいつは本当に言も動も、全部いきなりでぶっ飛んでるんだよなぁ。
ね。本当、何なん君?何でついて来るん?
「左様也、資格者よ。汝は求める者ではなく、掴みし者」
「おん?」
いつもの流れ——また謎の斜め上からの好意的解釈が返ってくると思って、ツッコミの準備をしていたのだが、それは無意味に終わった。
何事かねと、麒麟もどきの顔を改めて眺めた。
基本的に、ニュートラルな状態のこいつには、表情らしきものはない。
それは無表情ともまた違って、表情が無と言うのが1番近いと思う。そう、こいつ基本虚無顔なんだよね。
そして、今も麒麟もどきの顔に、大凡表情というものは無い。
しかし、それもまた、無ではなく。だが、纏う空気が微かに変わった。
あえて言うならば、威圧感に似た説明の難しい凄みが、麒麟もどきから感じられる。
……え、急にどした?
やば、何かのフラグ立てちゃったこれ?やだ、巻き込まれたくない。
「え、待って。これ何か始まる?どうしたの?おたく、何をしようとしてるの?」
「汝のその技量は、然し、耐え難き欲求の発露とはまた一線を画すものである」
焦って止めようとするも、お構いなしに話し続ける麒麟もどき。
ちょいちょい、何でよ?何がフラグだったの?あーし、分かんない。何をやらかしてこのイベント進み出しちゃったの?
リセットボタンはどちらに?ロード画面まで戻らせて?
「では、汝の望むものとは、何か?」
「いやないよ?」
「資格者が、ヒトを求めるその、根源は?」
「ねえ、めっちゃぐいぐい来るじゃん?」
どんどん近付いて来る。ちょ、圧が。圧が強い。
何で何で、何処が琴線に触れたの?どーしちゃったのあーた。止まんないじゃんぐいぐい一気の勢いじゃん。
「此れ程迄に、人類の、一個人へと、感興をそそられた事なぞ、例がない」
「近いなぁ。ちょっち離れてくれないかなぁ」
現在、あーしと麒麟もどきの距離、マジでキスする1秒前。咄嗟に両手を顔の間に挟んでブロック。押して引き剥がす。初回遭遇時と比べて、抵抗する力が明らかに強い。何でそんな前のめりなのよ。
止めてくださぁい……。
麒麟もどきの顔を押して寄せられてを数度。
ようやく諦めてくれたのか、ふと抵抗が弱まる。
おろ、と、逸らしていた目線を、麒麟もどきの顔に戻す。
俺を、真っ直ぐに見ていた。
その、陶器のような瞳の中に、確かな感情の光を宿らせて。
熱……と、表現しても良いのかもしれない。
熱く、激しい感情が、俺に対して向けられているではないか。
「——我は、観測せしモノ也」
「あ、へぇ。そうなんだ?」
「——此れは、逸脱した行為に他ならぬ。故に、問うのは一度のみ」
「あ、俺?それ俺に対しての質問?」
「然り」
つまり、今回答えたら、以降こうやってぐいぐい来ることがなくなるってことやん?
え、それならやぶさかじゃない。それどころか大歓迎。
俺は即座に頷いて、麒麟もどきの質問を待った。
「資格者よ。其方が成す偉業の、その根源には、何がある?」
そうして、聞かれたその質問は……。
ひっっっっ………………じょうに、答え辛いやつぶん投げて来たねぇ!




