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72の中で巡り合った、今



「ん……ん〜っ」



と、背中を伸ばす。

軽く息を吐きながら、眼下に広がる灯火達を眺める。

朧気に灯る確かな光が、夜を彩っていた。



「——常夜の街に、何を見遣る。資格者よ」



そう雰囲気たっぷりに質問をして来たのは、犬のようにお座りをした麒麟もどきだ。

……まあ、実際に馬も似たような座り方をするらしいし、これは突っ込まないでおこう。



「ん〜……何って訳でもないけど……街並みを眺めてる」



口は麒麟もどきの質問に答えながら、目では3日前から住むことになったこの街の、夜の景色を追う。

最初に目に付いたのは、ギルド方面。

まあ、就職先だしね。それにあそこら辺は夜でも明るいし。

幾つか店が開いてるから、人の動きも多いや。

うぅむ……わらわらと動いて。

防壁の上からだとよく見えるなぁ。


と、都市を囲む防壁の上で、遮るものがない故に、遠慮をどこかに忘れて来た風達を肌で感じながら、考える。


…………え、許可?

それは大丈夫。

微妙に周囲から見え辛くなる『蜃気楼』と、さっき使った『静寂』を発動してるから、大丈夫。


麒麟もどきも、なんか半透明になってるけど、何でだろうね!



「街並み……であるか」



おや、麒麟もどきが話し掛けて来たではないか。これは会話をしなくては。話し掛けて来た麒麟もどきを無視するなんて、可哀想だ。

会話に集中しなくちゃなぁ。

別のことを考える余裕なんて、全くないなぁ。

という訳で、思考のリソースを会話に割り振る俺。



「おん。この街に来て、3日経ったからさぁ。完全にとは言わんけど、ここで生活する準備みたいなのは整った訳だし。ちょっと、改めて見ておきたくて」



たったの3日。時間で言えば72時間。

何だかんだ慌ただしかったし、こうやって見渡した所で、知っている場所の方が少ないのは一目瞭然。

てか、仕事中は森に居たし、今日は午前中に街の外周を走ってた訳だから、街の中に居た時間ってめっちゃ少ない。

だから、見覚えのある場所なんて、片手の指で数え終わる量しかない訳だけれども。


先ず、正門じゃん。

この世界に来て初めて会った人って、門ジィだったな。

あの人、門番やってるだけあって余所者には厳しい感じだけど、内側に入っちゃえば案外そうでもなさそうだった。

俺が絡みに行く時、嫌がる素ぶりは見せども、邪険に扱われたことはまだない。

多分、優秀な門番なんだろう。門を通る度に、誰かしらに声を掛けられてる姿をよく見るし。

……ああ、最初、明らかに怪しいってんで、俺のこと追い出そうとしてたのは、もはやいい思い出です。


その時、副長のおっちゃんが助けてくれたなぁ。

いや、あれが無かったら、実際街に入れなかっただろうし、助かったなぁ。

……うん、副長のおっちゃんって、良い人だよな。

いっつも胃が痛そうだけど。本当にフェリグラス草200本位持ってった方が良いんじゃ?


そんな副長のおっちゃんに連れられて、冒険者ギルドに連れてかれて。

ミリアが居て、一生懸命で初々しい説明を受けて……なんか、あの子ずっと一生懸命だよね。

ちょっと応援したくなる。最初のランク説明の時に、周りの冒険者が暖かく見守ってた理由が、今なら分かる。


ランク説明……てか、その直前の登録手続きと言えば。

ギルド長との初対面もあの時だ。

なんかめっちゃ笑うじゃん位しか思ってなかったけど、一流で、強くて、素早い人だってのはこの3日でよく分かった。

そんで、悪戯好き……てか、サプライズが好きそう。

明後日の新人研修とやらは、何なんだろう?どうしてそれに参加する話をするだけで、あんな悪そうな顔になる訳?ちょっと……怖いなぁ。

俺もフェリグラス草を持ってた方が良いかな?


フェリグラス草と言えば、セリナと取りに行ったな。初依頼で。

始めはめっちゃ真面目な女の子って感じだった。

……過去形で言っちゃうと、実際はそうじゃなかったって思ったみたいじゃん。

いや、真面目なのはそうなんだけど、それだけじゃなくて……ノクティナル草を見つけた時とか、ガルドボアの素材の採取した時とか、随所に年相応な可愛らしさがあって。

かなり、可愛らしいと思う。うん。


…………そう。その後、三日月堂にも行ったね。

そろそろ営業再開出来る頃かな?

……次はちゃんと節度を持って食べよう。

ただし、エルガンとの勝負になった場合を除く。

勝負となったら、いつ何時でも全力故、しゃーなしである。

絶対に勝つ。今日の勝負も実質俺の全勝みたいなもんだったし。

8勝8敗の14引き分けだけど。最初に勝ったのは俺だったし。最後に勝ったエルガンが似たようなこと言ってたけど、そんな訳ないし。

また会ったら、そこん所を奴に理解させないといけない。

基本的に毎日同じ時間に走り込みをしてるって言ってたし、突撃してやろうかな?


そしたら、もう宿に帰った方が良いかな?と、『翠狐のねぐら』を見る。

女将のミテラさんは、何と言うか…………すごくつよそう。どう見ても武人なの笑う。

ガーネは面白かった。あの何でも直球って感じの真っ直ぐさ、良い。



こうして考えると、3日間でそれなりの人と出会った。

面白い人、可愛い人、強い人、優しい人。良い出会いだったと思う。そして残念なことに、出会ったのは良い人だけでは当然なかった。

……いや、それ黒髪関連云々が関係していただけで、俺にとっては良い人ではなかったってだけだけど。


この街には沢山の人が居て、俺が出会ったのはその中でも極一部で、ほんの一握りだろう。

その出会いは、俺に様々な影響を与えた。様々な感情を呼び起こした。それが良いことでも、悪いことでも。

そのことが、俺はとても楽しい。

人との関わりが、俺は、酷く、途轍もなく、極めて、好きだ。大好きだ。


多くの人と……というのは、難しいかもしれない。

しかし、それでもより多く。

笑い合っていたい。


それが出来るだろうか。

そんなように、楽しく、生きることが出来るだろうか。


…………今の所は、それは、難しい話ではないような。

そんな気がしている。

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