翼の欲しい“もの”
つまりですね……もはやお馴染みとなりつつある装飾過多な言葉を取っ払って、意図を要約すると、その質問。
お前、何考えて生きてるん?
ってことだよね?若干翻訳に不安はあるけど。大きくは食い違ってないと思う。
それも踏まえて、俺の思ったことは。
何じゃその質問は。
答え辛いにも程がある。
です。
え、そうじゃない?
誰に対してとかでもなく、誰に対してもだけどさ、凄く言い辛くない?
ぶっ込んで来るじゃん?
………………マジ?
え、まあ良いけどさ。
別に後生大事に墓に抱えていく程のことでもないしさ。
でもねぇ……答え辛ぁ……。
と、若干の気まずさを覚えている俺は、左手で頬を掻きながら答える。
「俺はねぇ……楽しく生きたいの」
難解な問いに返す答えは、とってもシンプル。
楽しく、生きたい。
たったそれだけ。しかし、たったこれだけのことが全て。
それが存外難しいものなのですよねぇ……。
純粋に楽しく、気楽に生きる為には、人間てやつは障害と弊害が多いと俺は思う訳。
人間だけに限らずとも、それは多々あることだろうけど、人間程ややこしい生き物も中々に少ないよね。
もう、本当、言いたかないけど、その為には努力を重ねて重ねて、何重になるかも分からない位に連らせるのって、かなり大変。
その為の努力は、惜しんだつもりも、今後も惜しむつもりもないけれど。
次から次へと問題が出て来て、嫌になるね。
でも、仕方ない。
そうやって生きたいと、そう生きると決めたのだから、頑張りますよそらぁ。
と、深く溜め息を溢す。
「……故に、力を求めず、されど掴んだ……と?」
「その通りだね。ま、それだけじゃなかったけどさ」
俺の強さに関しては、それが楽しかったからって側面もあるから、またややこしい所よね。
でも、これは大丈夫なやつだ。
だって、魔法ってのは、この世界の人間が誰しも使える。ありふれた当たり前のものなのだから。
人間の範疇に留まれる。
けれど、麒麟もどきの言う、権能とやらは、そうじゃないだろう。
だから、要らない。求めない。
俺は、人間のままでありたいのだ。
「ヒトのままで在りたい……?其れは、何故か?」
麒麟もどきは、俺の考えを聞いて、首を傾げながら問う。
その質問が——それを理解出来ていないからこそ、麒麟もどきがどうしようもなく人間ではない証明なのだろうと、こいつに対しての理解が深まったような気がした。
だから、俺は、麒麟もどきに1つ常識を説いた。
にこやかに、そう告げた。
「人間ってのはさ……基本、同じ人間としか、仲良くしてくれないんだよ」
人間が大好きな俺が楽しく生きる為には、人間と一緒に生きて、仲良くなって、共に笑い合うことが、必須条件なのだから。
だから、俺は人間でありたいのだ。
「…………っ」
麒麟もどきが、息を呑んだ。
俺の言葉に……では、ない。麒麟もどきは俺の表情を見て、目を剥いている。
俺は今、どんな表情をしているのだろうか。
笑ってる筈だと思うんだけど、そんなに驚くような顔になってるのかな?
分からないけれど、まあ、いいや。
「だから、まあ……そんな感じ。これで満足した?」
これが麒麟もどきの聞きたかった答えなのだろうか。それは分からなかったけれど、俺にとっての答えは、これ以外にない。
そう告げると、麒麟もどきはゆっくりと、力強く頷いた。
「ああ……申し分ない」
「そ。ならよかった」
どうやら大丈夫だったらしい。成し遂げたぜ。
何だか、ちょっとだけ、昔を思い出した。
けれど、それも思考の海に溺れて、流されてどこかへ消えていった。
「ん〜……なんだか、今日はちょっと疲れたかも」
今日も今日とて、イベントが大渋滞だった。
楽しかった分、疲労感もそれなりだ。
伸びをすると、背中の辺りが痛気持ち良い。
「俺はもう帰ろうかと思うけど……麒麟もどきは?」
まさか、まだついて来るつもりかな?と暗に聞いてみる。
麒麟もどきは、ゆるりと首を振ってから、どこかをぼんやりと見つめる。
「本日の目的は果たした。実に有意義な日であった」
「あ、そう?……えと、それじゃあ……また、になるの……かな?」
「無論。また混成の満ちる刻には、我は其方の傍に在ろう」
こいつ、また“刻”って書いて“とき”って読んでるなぁ……あんたも好きねぇ。
「……んじゃ、またね」
ゆるりと右手を振りながら、防壁から降りる。
後ろを振り返ることはしなかったけれど、多分、麒麟もどきはもうどこかに消えてるんだろうなって思った。
こうして、俺の異世界生活3日目は、なんか意味深なやりとりをしてから終わった。
明日からもまた、楽しい日々を過ごせるといいな。
「此れで締め括り。そう思ったか?」




