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負けず嫌いのエルガン



「汝らの勇姿、篤と見届けようぞ」



という麒麟もどきの言葉と同時に、俺達はスタートを切った。


先ずは先行じゃい!と前に出る。

エルガンは抵抗する素ぶりも見せず、あっさりと後ろに並んだ。

随分と簡単に前を許すじゃない?と、ちらりと後ろを振り返る。

目線が合った瞬間、エルガンは右の口角を上げて、ニヤリと笑った。


ほっほう?敢えてペースを合わせると。真後ろからプレッシャーを掛けて来るつもりだな?

ならば喜んでペースメイクさせてもらいましょ。


元より様子見なんてこたぁするつもりもなかった俺は、1つギアを上げる。


しっかりついて来てご覧なさいな。




「ほう……開幕から勝負を掛けるか。資格者よ」



心無しか楽し気な声色の麒麟もどきの声が、横から聞こえて来る。

反射的にそっちを見たことを俺は直ぐに後悔した。



「お前……っ!勝負中の奇行は抑えてくんない!?」



あの落書き、スタイルチェンジしてやがった!

さっき出してた赤いミミズみたいなやつがわさっと出て、それが雲みたいになってて、その上に座ってるの。


なんだそのキッショい筋斗雲。しかも座り方香箱座りだし。

馬らしき輪郭してるのに、座り方猫で、猿の妖怪が乗る雲に乗るの止めて?

どれか分かんなくなるじゃん。何なん君?キメラか何かなの?



「より観測に適した形を追求した結果、この姿勢に落ち着いたのだ」



「そっちが落ち着いてもこっちは落ち着かないんだが!?」



本当に勘弁して……余計なことに脳のリソース割かせないでほしい。

これでも真剣にやってるのよ?普段全然声を荒げない俺が、思わず叫んじゃうようなことするのは本当に勘弁して。



「ふっ……くっ……精神攻撃を仕掛けて来るなど……ひ、卑劣な」



「これに関しちゃ俺のせいちゃいますやん?」



後ろで勝手にツボってダメージ受けてるやつおるし。

こんなんで体力消費すんの止めよう?いやお互いにね。



「分かった。ちょっとあーた我々の視界から外れといてくれる?」



「むう……致し方無し」



麒麟もどきにご退場を願うと、奴は渋々といった様子で俺達の頭上にスーッと移動していった。

いや動き!位置取り!だからツッコミ入れさすなって言ってるのにぃ!

もうやだコイツ……。



「……もう、あれは一旦置いとこ。難しいのは分かるけど、いいね?」



「ふっ……あ、ああ……異論は、ない」



ああ……もう、この人早速息乱れしもてますやん。

どうすんのよもう……。


とまあ、ね……ちょっとのっぴきならない事件がありましたけれどもね。

俺達は頑張って空気を引き締めました。

チラチラと見える雲みたいな影を極力気が付かないふりをして、真剣に勝負をする雰囲気を取り戻しましたとも。


そうして暫く。街の外周もそろそろ半分位を超える頃。ちょっと分かって来た。

多分体力お化けだわ。エルガン。


あれから更にペースを上げて、割と本職のマラソン選手位のペースで走ってるのに、まーピッタリと後ろをついて来るついて来る。

しかも姿勢も全然乱れてないし、呼吸もちゃんと鼻で吸って口で吐いてを維持し続けてる。

必死について来てる訳じゃなさそうなんすよ。



「へい、余裕そうじゃないのエルガンちゃん」



「ああ、余裕だね。もっと早くしてもらっても、構わないぞ?」



しかもこっちを煽る余裕まであると。

こりゃあ、もうちょい頑張らないとあかんかもしれん。

てな訳でもうちょいペースアップです。


残り半周も気合を入れて走るぞい。


後半になってくると、多少の疲れが出たのか呼吸がちょっとだけ乱れる。

が、姿勢は相変わらず綺麗。揺るぎねぇであります。


お……っとぉ。ちょっと観察してたら、隙あらば抜くと言わんばかりにポジションを変えて来た。

油断ならねぇ……。しっかりプレッシャー掛けて来るやん。

逃げろ逃げろー。


と、緊張感ありありの攻防を繰り広げながら、3/4を超える。

先頭は変わらず俺。その後ろ1mにエルガンが張り付いて来てるのも変わらず。


体感6〜7㎞走って、振り切れないっす。

いや、それあんたどうなんよ。ボディビルダーって程ではないにせよ、しっかりマッチョメンなのにそのスタミナどうなんよ。


こらしゃーないや。今振り切るのはもう諦める。最後の100mで仕留めます。

そう方針を固めて、抜かれないように走って残り2〜300m付近まで来た所。


それまで黙って俺らの頭上にいた麒麟もどきが、スーッと降りて来た。

なんじゃ。



「丁度一周した所が分かりやすいように、目印を(のこ)しておいた」



「お、さんきゅー。……“残して”くれた、ね?」



「うむ。(のこ)しておいた」



…………いや、ツッコミは入れない。今そういう空気じゃないから。エルガンがまたツボっちゃう。

スルーして走る。


と、その直ぐ後に、麒麟もどきが用意した目印が見えて来た。


それを見た瞬間。


珍しく純粋にありがたい気遣いだなって思ったのが間違いだったと知る。


だって、半透明の麒麟もどきJr.が、2匹並んで、ゴールテープ持って待機してたんだもん。

てか、あーたゴールテープって概念知ってるのね?



「だからもう本当に君はさぁ!」



ツッコミを叫ぶ代わりに、そのツッコミ力を両足に込めてラストスパートを切る。

ある意味これ麒麟もどきのアシストだ。業腹だけどありがとうと思っておく。



「……っ!」



エルガンも同時にスピードを上げて追走して来る。

しっかり並んで来ましたねぇ!でも抜かせないよ!


2人横並びのまま、ゴールは目前。


ゴールテープを切るのは俺じゃい!!!


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