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軽くで2〜4時間は頭おかしい


エルガンは満面の笑顔の俺を見てから、背後の麒麟もどきも見て。俺も一緒に後ろを見る。

いや……お前、なんで首傾げてるの?エルガンを巻き込んだのは俺だけど、元はと言えば君の奇行が原因だからね?と、思ってたら、エルガンがまたこっちを見た。

そんな、何とかしろ、みたいな顔されても……それが出来てたら、巻き込もうだなんて発想に至る訳もなく。

……まあ、とりあえずウインクしておくか。パチンッとな。



「…………はぁ」



エルガンはしばらく何かを言いた気に口をぱくぱくと開け閉めしてたかと思うと、ふと、深い溜め息を吐いた。



「言っておくが、今回だけだぞ」



「あっざーす!」



仕方ねえなとでも言わんばかりに、ゆるく首を振りながらそう言われたのでした。

よっしゃ、許されたぜ。



「で、だ。一昨日も居たので、問題ないとは思うが、確認したい」



そう言ってエルガンはちらっと麒麟もどきの方を見る。

え、何を?麒麟もどきのことについてだったら、俺も知らんから、あんまり役に立たないよ?



「キリンモドキは、人に危害は加えないと考えて問題ないか?」



「ほよ……」



ああ、そういう……。

俺も後ろを見る。麒麟もどきはニヤリと笑ってから、こっくりと頷いた。



「我が積極的に人類に干渉することはない」



人類などという、無駄にデカいくくりで一纏めにされたことはスルーしよう。その気になれば、人類単位であれやこれや出来るの?とかそういうことを考えるのは駄目です。

という訳でこれはスルー。

何気ない表情を意識しながら、だそうです。と、エルガンに向き直ると、満足そうに頷いていた。

あ、人類がどうとか、そこら辺が気になったのはあたいだけな感じ?

非常に都合がよろしいので、このまま話の流れを見守ることにします。



「うむ、了解した。……いや、念の為なのだ。疑うようなことをしてすまなかった。キリンモドキ」



「赦そう。その問いで、我に不利益が生じることもない故」



「寛大な対応感謝する。改めて、俺はエルガンだ。よろしく頼む」



「うむ。其方に混沌の(いざな)いがあらんことを」



和やかに笑い合いながら、1人と1匹(?)は握手を交わす。

麒麟もどきの右前脚が曲線になって、関節がないなってる。台詞もいつも通り意味深が過ぎるし、これはどこからツッコんだものかな。

なんて考えていたら、エルガンは何も言わずに麒麟もどきの前脚を離した。まさかの全スルー。これは強い。

そのまま、すれ違う人々に麒麟もどきは珍妙な見た目だが危険はないと説明を始めた。これは偉過ぎる。

早朝で人通りは少ないとは言え、全員に説明しているエルガンを見て、そう思いましたとさ。



それから暫くはそうやって街中を走ってたんだけど、人とすれ違う度に丁寧に説明するエルガンが大変そうだったので、俺達は街の外周を走ることにした。

そうすることで、殆ど人通りはなくなり、負担のなくなったエルガンと雑談をしながら走っていた。



「いやぁ、俺、この街に来てまだ3日目だからさ。全然他の店とか知らないんよ」



「そうなのか。では三日月堂に居たのはセリナ嬢の紹介だったのか?」



「んにゃ。俺の嗅覚があの店は当たりだって囁いてね」



「ほう?匂いで判断出来るのものなのか?」



「いけるいける。やってみたら案外出来るもんよ?」



「俺にはかなり難しいように思うが……キリンモドキも出来るのか?」



「用いるのは嗅覚ではないが、同等の判断は可能である。人の子も習得可能だろう」



「なんと!因みにそれはどのような判別方法なのだ?参考までに聞いておきたい」



「美味なる食物には、清浄かつ豊富なオドの含有が必須である。それを感知すれば、自ずと良質な食事処の判別は可能であろう」



「…………?」



「ほへー、そんな判別方法が。今度試してみよっかな?」



「……なるほど。君もそちら側なのか」



「おん?」



「話していて退屈しないな。という意味だ」



とまあ、こんな感じで、当たり障りのない話というか、主にこの街についてを話してた訳ですよ。

その内の、特に意味もないその一言から、それは始まった。



「ツバサは、今日はどの位走るつもりなんだ?」



「ん〜?」



直前まで、エルガンはいつもこの時間に走っているらしい、という話をしていたので、流れでそんな質問をされた。

ぶっちゃけ、特にどの位とか決めてなかったなぁ。

なんて思いつつ、何となくどうしようか考える。



「まあ……軽く、鐘1つ分位にしようかなって思ってたかな?」



前世の基準で言う所の、大凡2時間程度である。

この世界では1日の時間を12に区切って読むらしく、その区切り毎に鐘を鳴らす風習がある。

そろそろ前世でいう8時になる。それをこの世界的に言うと、もうすぐ4の鐘の時間だ。て感じ。

そう言うと、エルガンは笑顔のまま、何度か瞬きを繰り返した。



「そうか……軽く、鐘1つ分、か……」



「おん。まあ、軽めにね」



何か聞き返して来るやん?どないした?と、思ってると、左腕を軽く回しながら、エルガンが口を開く。



「実はな、今日は元々の予定がなくなってしまってな。少し長めに走り込みをしようと思っていたんだ」



「へぇ?どんくらい?」



「流す程度だが、鐘2つ分程」



「ほぉ……?」



少し長めで、流す程度に、4時間位……ですか。ほうほう、なるほどなるほど。


脳内で、時間の鐘とは違う、甲高い音の鐘の音が聞こえた気がした。

エルガンは、変わらずの笑顔だった。

多分だけど、俺も同じような表情をしていた気がする。



「闘争の火が灯る……か。良かろう、定命(じょうみょう)の者よ。現在(いま)こそその実力(ちから)を示すが良い。我が見届けよう!」



背後で、絶対に訳知り顔してるだろう麒麟もどきが、何か言ってた。


あんまりちゃんと聞いてなかったけどさ……。

オタク“現在”って書いて“いま”と“実力”って書いて“ちから”って読んだよね?


後……審判は任せろって言った?

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