穏やか?な朝食
その後、呆れた様子のミテラさんから麻袋を半分奪い、荷下ろしの手伝いをする。
持ってみて分かったんだけど、この麻袋1つで10㎏以上あるっぽい。
いや重過ぎだろ。何でそれ1人で4つも持ててんのこの人。やっぱり化け物じゃん。
腰壊すって。壊す……よね?いや、この人だったら壊しそうもないなぁ。
ミテラさんはやっぱり歴戦の戦士なのでしょう。
それから、朝食を頂いた。
これがまた美味い。べらぼうに美味しい。舌が溶けるかと思った。いや、確実に溶けたね。危うく全身どろどろでツバサスライム爆誕だった。
先ず匂いが良い。多分ポトフ的な、コンソメ的なスープ。
野菜の甘さが溶け込んだような、旨味の匂い。胸に沁みるの。
そんで、具がほろっほろだったもん。何かの芋。じゃがいもみたいな見た目の芋、ほろほろなの。激うま。
これに焼きたての丸いフランスパンみたいな……あれ、外側が固くて丸いパンよ。これを浸して食うと、革命が起こった。めちゃうま。
ベーコンは塩気強めで、ふわっふわのオムレツと、林檎みたいな味の紫のジャム。何と合わせてもパンに合う合う。ばかうま。
何かのハーブティー的なやつもね、鼻を擽る香草の匂いと、優しい味がまぁ〜良いのよ。素晴らしい。マーベラス。
全体的に優しさが全身に染み渡るような、そんな朝食であった。
これぞお袋の味と言わざるを得ません。満点花丸大満足。
……ああ、やっぱり今日は良い1日になる。
だってこんなに朝飯が美味いんだもん。
もう麒麟もどきとかどうでもいいやん。好きにお話してなさい。何でも許そう。俺は今最高に気分が良い。
「なれば今こそ我が力を享受するか」
「あ、それはいらなーい」
うん。俺、嘘ついた。何でもは許せないや。いくら気分が良くてもそれは無理。
悪いけど、飯食い終わるまで黙っててもろて。
それから、この素晴らしい朝餉の時間をゆっくりと過ごし、ハーブティーを流し込んで余韻を楽しんでいた頃。
「んぎゃっ!?」
このゆったりした空気に似合わぬ騒がしい叫び声が、食堂の入り口から聞こえて来た。
どしたどした。急に象に踏み潰されたみたいな声出しちゃって。敵襲でもあったのかね。
そう思いながら声の聞こえた方を見る。
虎柄の獣耳と尻尾を全力で逆立てたちゃんねーが、背中の大剣の柄に手を掛けて、こっちをバチクソに警戒してる様子だった。
……何故そんな、エンカウント!みたいな空気を?え、本当に敵襲?
俺も戦うよ?この宿を守る為なら本気を出しても構わんぞい?
神代のドラゴンだろうが巨人族だろうが、くしゃっと丸めてポイするよ?
そう思って辺りを見回すも、それらしき影は無し。
じゃあ、何が起こってるのかと思ったら、虎の獣人らしきねーちゃんが俺の横を指さして叫び出した。
「何だそりゃ!魔物か!?」
チラリと虎のねーちゃんが指差す先を確認する。
黒と金で雑に描かれた麒麟の落書きみたいな生物が、キョトンとした表情で椅子に座っておりましたとさ。
あーね。確かに魔物っぽい。
でも、よく見てみ?
そいつ四足歩行のくせに、当たり前みたいに椅子に座って、前脚らしき線で器用にナイフとフォーク持って飯を食ってる最中なんだぜ?
確かに意味分からなさで言えば得点天元突破してるね。優勝です。
つまり、よく見れば見る程、擁護のしようが無かった。
とは言え、暴れられてもよろしくない。見た所、今にも大剣を抜いて襲い掛かって来そうな興奮具合。
何とか場を納めようと言葉を探していたら、良い台詞を見つける前に、ミテラさんが騒ぐ獣人のねーちゃんの方へ、ずんずんと歩いていった。
どーしたの。
「落ち着きな」
「ぎゃふんっ!?」
そして華麗に拳を脳天へ。おかんの拳骨が炸裂。
殴られてぎゃふんって言う人、本当に居たんだ。ちょい感動を覚えながら、そのまま経過を観察する。
火花が飛びそうな勢いで殴られた虎のねーちゃんは、頭を抑えて蹲っていた。
痛かっただろうね。ギルド長に副長のおっちゃんが拳骨された時と似たような音してたもん。可哀想に……。
「ったく……街中で剣を抜こうとするんじゃないよ」
「いや、だって姉御!魔物がよぉ!」
「あれは無害らしいから大丈夫さね。見な。大人しく飯を食べてるだろ?」
「……た、確かに」
と、同情していたのも束の間。獣人のねーちゃんは、ミテラさんの言葉であっさりと大人しくなった。
いや、あれがちょこんと椅子に座ってる事に疑問は湧かないの?
あーた達がそれで構わないなら、俺も構わないんだけどさ。
どうやら、俺が何か行動を起こさなくとも事態は収束しそうな気配なので、コップに残っているハーブティーを啜りながら、2人のやり取りを眺めることにする。
「で、ガーネ?この時間に起きてるって事は、またあんた一晩中呑んでたね?」
「おう、飯食ってから寝ようと思ってよ!だから姉御、朝飯頼むわ!」
快活に笑いながら、ガーネと呼ばれた獣人は俺の隣の机の席に着く。え、近くない?
ミテラさんは、やれやれと言いた気な表情で、彼女の肝臓を心配する旨を伝えてから、厨房へ引っ込んでいった。
そのやり取りの最中、俺は、一晩中酒を呑む虎の獣人の女の人、というワードから、ふと一昨日のことを思い出していた。
そう言えばこの人、一昨日の夜ギルド長と飲み比べしてた人だ。
どうりで見覚えがあると思った。




