カオスな話はノーセンキュー
「しかしながら資格者よ。朝陽が登る直後に朝餉を取るとは、やはり何か成すことがあるのではないか?」
「いんや、思ったより早く目が覚めただけ。今日は街を見て回るつもりだけど、そんなに早く出るつもりもないかなー」
「左様か」
「左様よ」
なんて話をしながら、麒麟もどきと連れ立って階段を降りる。
案の定、この謎の落書きは当たり前みたいに着いて来たし、普通に話し掛けても来た。
何でそんなナチュラルに行動を共にしてくるんだろう。俺、君とまだ数回しか会ってないからね?前からの知り合いみたいな距離感やめてね?
てかこいつ、毎度時がどうとか言ってくるけどあれなんなん?何か目的があるっぽいよね。
いや、気になると言えば気になっちゃってるけど、依然知りたくはないのよ。
だってそれ聞いたら、謎のストーリーが始まりそうじゃん。
やたらと意味深なことばっか言うし。それ絶対面倒事だもん。
巻き込まれたくないでござーる。
と、あらがう決意を新たにしながら、食堂へ入る。
『翠狐のねぐら』は、一階は食堂になっていて、昼と夕方に営業しているらしい。
朝は仕込みの時間で、その前後に宿泊客の朝食を提供しているそうな。
昼と夕方に関しては、食堂として営業している為、宿泊客向けの食事の提供はしていないが、宿泊してれば格安で飯を食えるらしい。
「おはよーございまーす」
そう考えながら、キッチン部分に向けて声を掛ける。
が、返事はない。
およ?良い匂いはするからキッチンに居るもんだとばかり思ってた。
ちらりと中を覗いてみるも、人の姿は確認出来ず。
「不在のようだな」
「そーね。したらいったん部屋戻るか」
そんな話を麒麟もどきとしていると、入り口から覗ける範囲の奥から、ぬっと大きな影が出てきた。
「…………えぇ?」
奥から出て来たのは、ミテラさんだった。
両肩に、米俵みたいにデカい袋を、計4つ抱えた。
師範代とかそこら辺の、老練の武術家が残心を取る時のみたいな、無駄のない研ぎ澄まされた表情で、汗一つかかずに、何十㎏もありそうな麻袋を運んでいらっしゃった。
えっと……この人って名のある武将とかだったっけ?
その武勇は伝説として、後世に語り継がれたりするタイプの。
一振りで数十の雑兵共を薙ぎ倒す。とか語られるやつ。
「おや、ツバサじゃないかい」
ドン引きしてると、俺に気付いたミテラさんが、何事もなさそうに声を掛けて来た。
そんなごく自然に話せる状況じゃないと思うんだけど、気のせい?
そんな感じに話しかけようと思ってたら、ふと、ミテラさんが俺の背後を見て怪訝な表情をした。
「……そりゃ、何だい?」
……ああ、うん。そういえば俺も俺で、なんじゃそら案件を引き連れておりましたな。
どうしようかなとは思ってたけど、ついぞ答えは出ず。
何となくスルーしてくれないかな、なんて淡い期待を抱いてみたものの、そりゃ無理だよねと納得。
チラリと後ろを振り向くと、麒麟もどきはきょとんとした顔。お前のこと言われてんだぞ分かってんのか。
仕方なく、俺は前を向いてミテラさんの質問に答える。
「俺もよく分かんねえっす」
「……えぇ?」
ドン引きされました。超ウケる。
と思ってたら、ぬるんとした動きで麒麟もどきが首を捻じ曲げて、顔を俺の正面に持って来た。
不意打ちはやめい。動きもキモい。何なんだね。
「資格者ならば、我が使命を識る事を許そう」
「あ、結構です」
何か説明して来そうだったけど、面倒事の雰囲気がするので遠慮します。
そんな落書きの権化みたいな見た目の奴の使命なぞ、絶対に意味が分からないんだから、巻き込まないで、と、断固拒否の構え。
すると、麒麟もどきは一瞬沈黙の後、何故か意味あり気に小さく笑い出した。
「自らの命運は、自らが定めると云う事か……流石は資格有りし者。他の規律に染まらぬその粋や良し」
「解釈が好意的過ぎる」
満足気に頷く麒麟もどきの足の付け根辺りから、ひょろっとした赤い糸みたいなものが出現した。何あれ、ミミズか?お外に出すと乾燥しちゃうでしょ。可哀想だから早く土に返してやんなさい。
「我が権能、汝が欲する刻には、篤と奮おうぞ」
「大丈夫だからその赤いの仕舞って?」
何かひょろひょろしててキモいから。
ただでさえ見た目が落書きみたいで意味不明なのに、より一層訳分かんない感じにしないでくれる?
それからもテンション高めに謎のポエムを繰り返す麒麟もどきに、赤いやつを片付けさせるのに少し時間が掛かった。
何故だろう。こいつ、会話が通じなくなる瞬間がある。めっちゃ疲れる。
「……とまあ、こんな感じで、特に害とかなさそうなので、放っておいてと問題ないかなって」
「はぁ……いや、あんた、思ったよりも大物みたいだね。驚いたよ」
「おん?」
何故か、ミテラさんに関心された。
俺が何をしたって言うんですかい?




