祝、馬小屋脱却
ちょいちょい、ちょいとセリナさんや。
さっき、あーたこの人めっちゃ良い人って言っておりましたやん。
だって言うのに、こりゃあどーした。何があったのこれ。
目の前に銃口突きつけられるより怖いんだけど。これ本当にヒト科が出せる威圧感なの?やっぱり霊長類最強なの?
え、俺何した?本格的に訳分からんよ?
「え……何って、泊まりに」
困惑しながら、今質問されたことに答える。
我ながら、端的過ぎる答え方だなって。
だってこう答えるしかないじゃん。その通りなんだもん。
てかさ、本当に。ごめんなんだけど、ちょっと、セリナさん助けてほちぃんだけど。
分かんないんだもん。
何でこうなってるのかこれっぽっちも分かってないんだもんさ。
何か知らない?初手いきなり威圧される理由。
「ほほう?泊まりに、ねぇ?」
そう思ってセリナの方に視線を向けようとしたら、ミテラさんから飛んでくる威圧感がましましになっちゃったんですが。
なんでぇ?
………………うん。
いや、もう。考えても分からんもんはしゃーないか。
聞こう。もう。本人に。
「うん。駄目?よく分かんないけど、拒否案件かなこれ?」
てな訳で、お伺い立ててみた。すると、ミテラさんはぽかんとしてしまったとさ。
いや、何言ってんだみたいな顔されても。どっちかってーと、そうしたいのは俺じゃない?
別の意味で困惑するわぁ。
なんて思ってたらですね……。
「あっはっはっはっはっは!」
ミテラさん、次は笑い始めちゃった。爆笑。右手で顔を押さえながら、天井を向いて大笑い。
何これ、どういう心理状況なんです?
あたい、よく分からんよ。
「はぁ……」
隣から呆れたような溜め息が聞こえたので、そっちを見る。
セリナが俺を見てた。溜め息の調子と同じく、呆れたような顔で。
何だい。俺が何をしたって言うんだね。と、視線で問いかけてみる。
いや、実際、何が起こってるのか分かってるなら、説明して欲しい。全然理解出来てないの、多分俺だけじゃん?
「……いえ、違うのよ。改めて感心しただけよ」
「そういう表情には見えないんすけど?」
ジトっとした半目でセリナのことを睨む。
肩を竦められた。解せぬ。
「いや、すまないね。ツバサ」
「ほん?」
セリナとそんなやり取りをしていたら、呼ばれたのでそっちを見る。ミテラさんはさっきまでとは打って変わって、爽やかな笑顔を浮かべておった。どーした急に。
そんで、何の謝罪なのこれ?
「ミテラさん……」
それに反応したのはセリナだった。
名前を呼んでるだけだけど、その声には咎めるようなニュアンスが含まれていた。
それを受けたミテラさんは、気まずそうに苦笑を返した。
「すまないねぇ。あんたが面白そうな男を連れて来たもんだからね。揶揄いたくなっちまったのさ」
あ、俺揶揄われてたの?お茶目さんじゃん。でも、心臓に悪いからもう勘弁ね。
「やり過ぎですよ、もう……」
セリナは、仕方のない人……みたいな溜め息を吐いた。
その態度を見て、ミテラさんは数度瞬きをした後、ニヤリと笑いながらこっちを見た。何でっしゃろ。
「やり過ぎだったかい?」
「いや俺に聞かれても……?」
そんなの、俺に聞かれても分かりやせんがな。そもそも、何をもってやり過ぎって言われてるのか、全然分かってないんだもの。
揶揄われただけらしいし。いや、何で揶揄われたのかもよく分からんけど。
何でなんだろうなぁと首を傾げていると、正面ではくっくっくと笑われているし、横ではまた溜め息を吐かれてた。何よあーたら、あたいが何したって言うんだね。
「庇い甲斐のないことだね」
「全くですよ」
「……おん?」
そして、最終的には、2人が頷き合う展開に。
俺だけ全く着いていけてない。2人で納得してないで、ちゃんと説明をして頂きたいでござるなぁ。仲間外れいくないよ。寂しいじゃん。
そう主張した所、呆れられたのですが、何故でしょうか。
悲しみの向こう側に到達しそう。
そうやってぐだを巻いていると、ミテラさんが楽しそうに口を開いた。
「うんうん、あんた面白いね。気に入ったよ!好きなだけ泊まっていきな!」
よく分からないけれど、気に入られたらしい。晴れて無制限に宿泊する権利を貰えたようだ。
成し遂げたぜ。
「ウチは黒髪だろうが、白髪だろうが、獣人でも、ドワーフでも、エルフが来たって構わないのさ!だからツバサ、あんたを歓迎するよ」
「あざまーす!」
宿が決まりました。
これでもう馬小屋で寝ることもないね。やったぜ。
しかも、なんか今の口振りを鑑みるに、ここは色んな種族が泊まってる宿っぽい。
つまりファンタジー世界まっしぐらなお宿ってことかな。わくわくするぜ。




