第二十三話「戦闘開始!!」①
「そうなんだ……確か、ロメオ王国の国王がそんな名前だったような……。けど、今は行方不明だって話じゃなかったっけ?」
まぁ、僕の認識はその程度だった。
それもパーラムさんから聞いた話だ。
「そうじゃな……じゃが、アヤツとはもう二度と会うことはあるまい。奴は元々不治の病を患っておってな。女神との契約でいくばくかの延命と引き換えに、この世界を救済すると言う使命を帯びて、この世界にやってきたのじゃ。日本に度々戻っておったのも、病の進行具合の確認とその治療に僅かな望みを託して……と言ったところじゃな」
「そんな……! そもそも、あの女神なら病の完治程度、わけないんじゃないのかい? なんで、延命なんてケチな話に……」
「そうだな。リョウスケに言わせると、だからこそ女神の制約から逃れることが出来た……そんな風に言っておったな」
なんとなく、解ってきた。
大きな願いには、大きな代償がある……それは当然の話だ。
だが、小さな願いなら、代償もささやかなものだ。
だからこそ……死の運命をも受け入れて、細やかな願いに留めたんだ。
成すべきことの為に……!
けど、そうなると……僕らはどうなんだろう?
「……なんとなく、事情はわかったよ。結局、その人……リョウスケさんはどうなったんだい?」
「ある日、一人で向こうへ行くと言い残して、それっきりじゃ。アヤツは日本では一般的ではないらしいが、山の神とやらを信仰しておってな……。神の懐に抱かれて死にたい……そんな話をしておったからな。せめて最期は故郷で……そんな所であったのだろうな。実に惜しい男であった……出来れば、最後まで見送ってやりたかったのだがな……」
懐かしそうに遠い目をして、アージュさんが語って聞かせてくれるもうひとりの僕の同郷者……リョウスケさん……。
きっと、いい人だったんだろうな……残り少ない時間を使って、この世界を救おうとしていた。
不治の病を患って、このまま死ぬか延命する代わりに、この世界を救え……そんな風に言われたら、躊躇う理由なんて無かったんだろう。
もちろん、リョウスケさん本人も生きている間にそれが出来るとは思ってなかったんだろうな。
やれるだけの事を精一杯やって……クロイエ様って後継者にも恵まれて……。
きっと色んな人に愛されていたのだろう……それはアージュさんの今の表情を見るだけで解る。
無念だったのだろうか?
望み通り、故郷の山で逝けたのだろうか?
山岳信仰ってのは、僕も聞いたことがある。
人の魂は山から降りてきて、死ねば山へと還っていく。
地方なんかでは、そんな風習が残ってて、山の中に墓場があったりするって話だ。
だからこそ、異世界でなんて絶対死ねない。
自分が存分に死の恐怖を味わったからこそ、自分の手の届くところにいる人達を必死で守って、この殺伐とした世界で孤軍奮闘して、未来を切り開こうとした。
会ったこともないし、どんな人だったのか……今の僕には知るすべもないけれど。
何故か、手に取るように解ってしまった。
「一度くらい会ってみたかったな。ロメオ王国国王リョウスケさん……か」
「そうじゃな、お主とはきっと、さぞ気があったであろうな。ここだけの話じゃが、お主はリョウスケと何処か重なるところがある……きっと、クロイエもお主のことはすぐに気にいるであろうよ」
そこは不思議と僕もそう思う。
今の話も不思議なくらいリョウスケさんに感情移入して、柄にもなく声を荒げそうになったくらいだった。
「そうだね……。アージュさんそろそろ、お客さんが来たね」
まぁ、話はここまでだ。
やけに重たいものを引きずるような音……。
どうやら、かなりの大物のお出ましのようだった。
「であるな! さて、そろそろ話も終いじゃ! 敵も我らが動こうとせんから、いよいよしびれを切らしたようじゃな……。どデカいのがせっつきに来たようじゃ! さぁ、迎撃の号令を出せ! 迎え撃つぞ!」
……モニターを見ると、大きめの青い点がこちらに向かって、接近中だった!
大型種推定体長6mとか表示されてる……軽く乗用車くらいあるな……!
「皆! 北からデカいのが来るぞ! 迎撃準備! 非戦闘員は作業を一旦中断して、下がってっ! リードウェイさん、迎撃をお願いします! かなり大きいみたいなんで注意してください!」
「任せろ! 野郎共! 戦闘準備! 気ぃ引き締めろよっ! いきなりやられるとか、さすがにカッコ悪ぃから下手打つんじゃねぇぞ!」
リードウェイさん達が前に出る。
けれども、それを押し止めるようにその前にプラドさんが立つ。
「まぁ、待て……若造共。貴様ら、こいつらとやりあった経験はなかろう? ここはこの老骨が手本と言うものを見せてやろう! すまぬが、一番槍はワシがいただかせてもらおうぞ」
「ふむ、それもそうじゃな……まぁ、死んだら、墓くらい作ってやるぞ。墓碑銘はなんと刻んでやろうかの? 年寄りの冷や水とはこの事也……なんてのはどうじゃ? くっくっく……」
止めようかと思ったけど、アージュさん……むしろ、煽ってる。
まぁ、張り切ってるみたいだし、敵も一体だけが突出してきてるだけで……経験者ってのなら、ここはお任せ、お手並み拝見かな?
リードウェイさんが「どうすんだよ?」とばかりにこっちを見てくるから、お手上げだと言わんばかりに両手を上げる。
それで通じたらしく、ため息を吐いて、構えを解く。
どうやら、言われたように、お手本とやらを見学するつもりらしかった。
やがて、バキバキと木々をなぎ倒しながら、何やらデカいのが結構な勢いで突っ込んでくる!
「まったく、縁起でもないことを言いよる! では参るぞ! 若造共、片時たりとも、ワシから目を離すでないぞ!」
プラドさんが突っ込んでいくのと同時に、森の中から半透明の巨大ゼリーみたいなのがその姿を見せる。
敵もプラドさんを認識したのか、身体のあちこちがモコモコしたと思ったら、目にも止まらない速さで、10本くらいの触手のようなものが飛び出していく!
けれど、プラドさんの反応も尋常ではなかった!
向こうが触手を打ち出すより早く立ち止まると、年を感じさせない軽やかな動きで軽い連続バックステップで、まとめて回避!
音速の半分程度とか言ってたけど、もう影しか見えないくらいのスピード!
瞬きをしている間にもう地面に突き刺さっている程の速度!
更なる追撃の触手が次々と放たれるのだが、その触手を全て見切っているのか、上半身を軽く動かすだけで避けきって、更に大剣でまとめて薙ぎ払う。
地面に突き刺さった最初の触手も引っ込めるより先に、まとめてぶった切っていくっ!!
「いいか? まずは、こやつらの攻撃範囲を見切ること……間合いのとり方が重要なのだ。何より、触手のそのスピードに惑わされんことが肝要じゃな。奴らの攻撃は、見ての通りかなり複雑な軌道をとる上に、恐るべきスピードなのじゃが、触手を打ち出した時点ですでにそのコースはきまっておる上に、その長さには限度があるのじゃ。見るべきは触手ではなく、奴らの本体じゃ……打ち出した時点で、目標がいた場所を正確に狙ってきよるのだ。であるからこそ、見切るのは意外に容易いのだ!」
言いながら、首を動かすだけの動作で軽く見切って避けている!
……この爺さん、半端じゃねーぞ!!
そして、今も目の前で伸び切った触手を無造作に剣でなぎ払うと、邪魔くさそうに地面でのたくってる切れっ端を蹴っ飛ばす。
「そして、触手が伸び切った所で、カウンターで叩き切る……。これも一見、無意味のようじゃが……見てみぃ、これを」
……眼前に迫った触手を避けようともしない……と思ったら、その触手はプラドさん目前でピタッと止まっている。
「触手自体は、そのうち再生するのじゃが……それなりの時間が掛かるのでな。じゃが、自分の触手が短くなっておってもこやつらは、それに気付かず、攻撃してくるのじゃよ……間抜けな話じゃろ?」
無造作に目の前の触手を握ると、軽く引っ張って更にその触手をばっさりと断ち切る!
触手も上下左右から、弧を描くような軌道を取るのだけど、それですら意に介さず、躱し切るっ!
と言うか、間合いのとり方が絶妙なんだな……鹿島さん情報だと10m以内に近づくと危ないって話なんだけど。
そのギリギリの範囲で、スライムの触手を避けながら、ガンガン削っていってる。
スライムの触手自体は、とても見切れるようなスピードじゃないんだけど……言われたように本体を見てると、ちゃんと前兆がある。
プラドさんもその前兆を見切って、撃たれるより早く動いて、躱している。
……これは確かに、初見殺しだろう。
あんなスピード……僕の猫の目でも軌道がほとんど見えない。
撃たれたと思ったら、もう届いてる……これで射程が長かったら手に負えないだろう。
鹿島さんが接近戦は避けろと警告していたのも頷ける。
「さて……避けてばかりで勝てんと思うじゃろうが。ワシら前衛はこうやって、触手を避けてぶった切っとれば、仕事としては十分なのじゃ……見てみぃ……切られた触手の再生にやっきになっとるから、コアが活性化して場所が解りやすくなっとるじゃろ? アージュの婆さんや、お前さんの仕事じゃ。仕上げは任せたぞ」
言われて、スライムを見るとそれまで全部半透明だったのに、小さく赤く光る丸いのが見えてきていた。
ミミズの塊みたいな見た目で何とも気持ち悪いのだけど……あれが弱点って事なのか。
「誰が、婆さんじゃい……やれやれ、任されたぞ」
アージュさんが面倒臭そうに腕を振ると、自転車のスポークを長くしたようなものがまっすぐ撃ち出される。
それは寸分違わず、巨大スライムに突き刺さるとまっすぐにそのコアを貫く。
直後、コアから大量のツララのようなものが一斉に吹き出したと思ったら、スライムは動きを止める。
そして、そのままデローンと広がり、大きな水たまりのようになってしまい、それっきり動かなくなってしまった。
「……今ので死んじゃったのか……随分、あっけないね」
と言うか、ホントにチュートリアル……みたいな感じで解説しながら、無造作に片付けちゃったよ。
こんな自動車くらいあるようなデカいヤツ……もっと苦労すると思ったのに……。




