第二十三話「戦闘開始!!」②
まさに鎧袖一触ってのはこう言うことかと、感心してしまう。
「コアを破壊すれば、こんなものじゃよ……。もっとも、普段は透明化していて、外からは見えんようになっておるんじゃが。今のように再生プロセスに入ると活性化してバレバレになるからな。そこを長距離攻撃で撃ち抜くのが一番早い……」
悠々と行った調子でプラドさんが戻ってくる。
あんな紙一重の回避を連発したくせに、汗一つかいてない……いや、動きに全く無駄がないんだ。
文字通り余裕と言った様子に、僕も返す言葉もない。
「さすがにやるのう……。少しは鈍っとると思ったんじゃがな。年寄りの冷や水は訂正してやろう、老いては、益々壮んなるべしと言ったところかのう」
「抜かせ……さすがに、今のを何度もやれと言われたら、キツいわい」
「ケントゥリ殿、一応言っとくが、今のヤツはレベル1とか呼ばれとる雑魚じゃぞ。上位個体……レベル2になると知能も高くなるし、外皮を装甲化したりするようになるし、あのコアを動かして、避けたりするようになるからのう。ちと厄介じゃな。多分、囲んどる奴らにも何匹か紛れ込んどるじゃろうが……。いきなりそんなのレアなのを出してくるほど、アホではないらしいな」
「まぁ、若いのに手本を見せるのには、手頃な相手であったがな……。だが油断するでないぞ、レベル3にもなると、女神の使徒相手に互角に戦ったと言う話も聞いておるからのう……。まぁ、そんなもんワシもお目にかかった事はないがな」
さすがに、僕もなんと言ってのか解らない……隣で見ていたリードウェイさんも呆然って感じだ。
これが本物の達人達の領域……僕なんかでは、絶対に及ばない領域だった。
アージュさんも、みかんでも投げるような感じであんな小さな目標をあっさり撃ち抜いてしまった。
まさに年季が違う……強いっ!
敵の方はどうするのかと思ったら、あまりにも呆気なく始末されてしまった為か、ますます怖気づいたらしく、包囲網が更に下がっている。
たぶん、あれだけの大型となると打たれ強さが自慢とかそんな手合だったのだろう。
それが秒殺……相手側の動揺が手に取るように解る。
けど、この反応ではっきりした。
敵は明らかに兵力を出し惜しんでる……。
「「ヘボ将棋、王より飛車をかわいがり」ってヤツだな」
敵は、自分たちの立てた戦術に拘り、このスライムだかなんだかを惜しんで、肝心な戦略目標。
僕たちの殲滅という目標から、目線が逸れてしまっている。
斥候すらも出し惜しんでるのか、斥候を示す点も100m位上離れた場所で、ウロウロさせるに留めている。
「意味はよく判らんが、言いたいことは何となく解るな。攻めて来ないなら、こっちはじっくり準備を進めるだけの話じゃ」
アージュさんがニヤリと笑いながら、肩を叩いてくる。
プラドさんも、今のうちとばかりに、リードウェイさんに攻撃の予備モーションの段階で避ける練習だかなんだかをさせている。
ミミちゃんもタマゴ爆弾を作る作業に飽きたのか、一緒に練習中。
正直なところ、ミミちゃんの参戦とか、止めたいんだけど……この子それなりに強いし、勝ちに乗ってるムードに水を指すのも何だから、好きにさせておこう。
そして、テンチョーの来援の予想時刻の10分前……いよいよ本格的に敵が動き出した。
「……ケントゥリ殿! きよったぞ! 今度は前より数が多いぞ……正面が5、左から3つ! 右から2! 全部で10匹ほどじゃな……正面は、我とプラドが受け持つ! 左はリードウェイ! 貴様らに任せた! だがこりゃ、ちと手が足りんな……ドワーフ共にでもやらせてみるか? 奴らの戦い方ではあまり相性は良くはないのだがな……」
アージュさんのボヤキが耳に入ってくる。
確かに、ドワーフさん達はどうみても力技の接近戦一辺倒っぽい。
正直、あの高速の触手相手に、相性は良くない。
「そう言う事なら、右側のは僕がやるよ! 任せて!」
ミミちゃんが名乗りを上げる。
なら、僕も手伝うべきだろう……高圧放水でも倒せるっていう話だし、僕でも役に立ちそうだった。
「なら、僕が後衛として、とどめを刺す役を引き受けるよ。どうせ今は手も空いてるからね、やり方もお手本を見せてもらったから、やってみるよ」
「ケントゥリ殿、それはいいのだが……本当に大丈夫なのか? お主、これが初陣であろう。これまで実戦らしいもんを経験しとらんのではないか? 日本人は戦いどころか、生き物を殺した経験もないものが多いと聞くが……敵に情けをかけたり、躊躇などしてみぃ、自分どころか仲間も死なせかねんぞ?」
耳が痛い言葉だった。
確かに、都会暮らしなんかだと、ゴキブリに殺虫剤かけて殺すとかそんな程度だろう。
アージュさんもその辺は理解してくれているのだ。
弱肉強食、殺し殺されるのが当たり前の世界の住人と日本人じゃ……メンタルが鋼と豆腐くらい違う。
戦場に、豆腐メンタルの日本人なんてお呼びじゃないんだよな……。
でも……。
「……さすがに、四つ足の動物とか、ゴブリンみたいな人って感じのだと躊躇うけど……。あれ……気持ち悪いと思う人は居ても、流石に可哀想だとかは思えないよ……。僕だって、ゴキブリとかネズミ位は殺した事あるから、それと一緒……害虫退治みたいなもんだろ。どうせ、近づいて戦うわけじゃないから、それくらいはやってみせないとね」
ここはちょっとくらいカッコつけるべきだった。
ここで逃げたら、僕はただの豆腐メンタルなおっさんだ。
アージュさんもじっと僕を見つめると、諦めたようにため息を吐く。
「解った! ならば、任せるぞ! おい、そこな猫娘っ! そう言うことだから、間違ってもケントゥリ殿の目の前で死ぬなどやらかしてくれるなよ!」
「大丈夫! 練習もさせてもらったし、どんな風に攻撃してくるのかとかも解った。なんとかなるよ! ジッチャンすごかったよ! ちょっと尊敬するよ! でも、お年寄りなんだから、無理しちゃ駄目だよ?」
「はっ! 小猫風情がいっちょ前にワシの心配なぞ、10年早いわ! 征くぞ!」
プラドさんとアージュさんの受け持ちは数が多い……さっきは僕らに見やすいように開けた所で戦ってたみたいだけど、プラドさんは森の中へと打って出ていっているようだった。
なるほど、サントスさんも言ってたけど、さっきの攻撃を見る限りだと、遮蔽物が多いほうが戦いやすいだろう。
けど、トドメはどうするのだろう? ある程度まとめてから開けた所に誘導? まぁ、ベテランさんのやることだから、任せておこう。
さっそく、森のなかで戦闘が始まっているようなのだけど、アージュさんはモニターを見ながら、動こうとしない。
「そこからだと、援護できないんじゃないの?」
「いや、このブンちゃんとやら、実に的確なサポートをしてくれるようじゃな……見てみろ。どうもコアは活性化すると温度が変わるようでな……青から緑……更には赤くなっておって、実に解りやすい。こやつ、先の戦いをしっかり観察しておったようじゃな。恐らく、この囲いは今なら狙い時と言う意味であろう? ……まったく、この場から、コアに当てててみせろとは、注文の多いやつじゃな」
画面上には、確かに五つの青い影がプラドさんらしきシルエットと等距離を保っているのが解る。
けれど、いずれも青い影の中に小さな赤い光点が浮き出ていて、ロックオン済みと言わんばかりに囲いが描かれている。
アージュさんも、今度は斜めに向かって先程同様のスポーク上の針を三本ほど打ち出す。
まるで明後日の方向に飛んでいくように見えたのだけど、それは唐突に真下へ向かって落ちていく!
直後、コアが赤くなっていたスライムのいた辺りが真っ黒に変わる!
「どうじゃー! プラド! 当たったか?」
「……ドンピシャじゃぞー! なんじゃ、お前さん……えらく器用な真似をしよるな! 一体どこから撃ってきよったのだ! いきなり真上から降ってきよったぞ!」
プラドさんが森のなかで怒鳴ってる……どうやら、今ので当てたらしい。
画面上でも3つの黒点が残っているものの……何も動く様子はない。
北側の大群は更なる追撃とばかりに、包囲網を狭めていたのだけど、怖気づいたように後退していく。
その様子を察したのか、残った二匹は、慌てて引っ込んいく……。
「すげぇ……」
感心している矢先に、更に二発の追い打ちを放つ……同様に、逃げていくスライムが黒点に変わる。
恐ろしく高精度の攻撃……いや、恐らくちょっとくらい狙いが外れてようがお構いなしなんだ。
おまけとばかりに深入りしすぎたスライム共に10発ほどの長距離間接射撃による追撃を加えている。
天敵ってのも納得だ……そりゃ、敵もビビるわな。
「……こやつ、さっき我が試し撃ちしとったのを見て、我の実力を試しよったな。なかなか、小憎たらしい真似をやってくれよるわ……。リードウェイの方は上手くやっとるな……。敵の包囲網も我のこの視界の外から撃ってくる氷結弾に恐れをなしたのか、総崩れになりよったな。まったく、相変わらず根性が足りん奴らじゃな。ケントゥリ殿、そろそろネコ娘の方も攻め時みたいじゃぞ! ……上手くやってこい! 我がここで見守っていてやるから、存分に戦ってこい!」
見ると、ミミちゃんが柵のあたりにいる2mくらいのスライムから撃ち出される触手をヒョイヒョイと避けている様子が目に飛び込んでくる!
慌てて、そっちに向かって走り込む!
「オーナーさん! やっときたっ! いい加減、思い切って近づいて、一人でやっつけようかとか思ってたよ!」
言いながら、顔めがけて飛んできていた触手をヒョイと躱しながら、ミミちゃんがこっちへ振り向く!
「馬鹿! 前見てっ!」
思わず、叫ぶのだけど後ろに目が付いてるみたいに、軽くかがんで避けている。
そして、無造作にパシッと頭上を行き過ぎた触手を掴むと、そのままグイッと引っ張るとスライムがポーンと宙を舞うっ!
さっきのと違って、小型タイプだったのもあるけど、それはそのまま僕の目の前まで飛んでくる!
ベチャッ……なんて音を立てて、潰れながら、地面にぶつかるのだけど、地面にへばりついて、ウニョウニョと触手を伸ばそうとしている!
反射的に尻尾を両手で構えて、圧力を目一杯高めて放水!!
「食らえっ! ウォーターシュートッ!」
僕の場合、別に呪文やら技の名前を口にする必要もないんだけど、口にした方が効率が良くなるような気がする。
ランシアさんによると、僕の尻尾は魔力器官としては、破格の高性能らしく、魔力だけで物質を生成する錬成術に近いものらしい……。
今の所、氷とかお湯とか水しか、作れないんだけど……まだまだ全然発展途上なんだよなー。
なお、例の足の間に尻尾を挟み込む、立ちションスタイルは……かっこ悪いから、卒業している。
高圧放水ともなると、それなりに反動が強いけど、僕だって、連日の筋トレでパワーアップしてるんだ!
この程度の反動なら、どっしりと重心を落として、踏ん張ればどうということもない……筋肉バンザイッ!
スライムは高圧放水を浴びて、あっという間に潰れたようにまっ平らになるんだけど、赤く光るコアだけは盛り上がってるから、そこを重点的に狙う!
けれど、ちょっとヘコんだくらいでダメージを与えてるように見えない!
もう一歩踏み込むと外皮が破れたらしく一瞬膨れ上がって穴の空いたビニール袋に水でも入れているかのように膨れ上がって、あっちこっちから水をピューピューと吹き出し始める!
更に水を当て続けると、更に外皮が裂けて、水圧で赤いコアだけが飛び出していく……。
それはコロコロと転がっていき、放水を止めると、本体の方はもう打ち上げられたクラゲのような有様で、ピクリとも動かなくなっている。
「やったのか!」
思わず、フラグっぽいをセリフを呟くのと同時に、様子を見ていたサントスさんが走っていて、転がってたコアを踏み潰し、念を入れて何度も何度も踏みにじる!
「……おいおい、ちゃんと念入りに潰さねぇと……こっからでもコイツら再生するんだぜ?」
「す、すまない……サントスさん!」
うーん、放水が効くってのは確かみたいなんだけど……思った以上に頑丈だった。
なんかビニールみたいな表皮があって、それで水が止められてたような感じだったなぁ……。
最終的に穴が空いて、中身が水で薄められて皮だけになっちゃったみたいだけど……。
物理衝撃に強いって話も納得、こりゃ剣や槍とかじゃキツい相手だ。
高圧放水っても……警察の機動隊が暴徒鎮圧用に使う放水銃とか、コンクリとかを破断するウォーターカッターくらいの威力がないと駄目なのかもしれない。
水魔法も人間相手には十分だけど……こんな化物相手だと、やっぱり心許ないな。
あ、そうだ……そう言う事なら、いっそ熱湯でもかけてみたらどうかな?
……試しにやってみるか。




