15.再会
「じゃあレイラさん、早速なんだけど、異世界人についての情報をもらっていいですか?」
俺はレイラさんに質問する。
正直、これが分からないことには行動も取りようがないからな。
「いいわよ~。あの小娘が来たのは半年前ね。道路で倒れてるのが発見されてね。中々可愛い娘だったから、結構街中で噂になったりしたの。」
「え!?可愛い娘だって!?」
ディックが反応する。
ほんと、何にでも飛びつくな、こいつ。
「そうよ~、でも残念、ディックちゃんじゃお付き合いは出来ないわよ。」
「なんでだよ?まだ分からねーぜ!」
「いいえ、分かるの。だって、あの娘にはもう付き合ってる相手がいるもの。」
「そんな~!!」
ディックが泣きそうな顔でレイラさんを見る。
いや、そんな顔されてもレイラさんじゃどうしようも出来ないだろ。
そもそも、よく会ったこともない奴に対して、そこまで一喜一憂できるよな。
「あの娘も最初は街中で可愛がられてたんだけどね。特に男連中が、あの可愛い笑顔にコロッとやられちゃってね~。」
レイラさんが懐かしむ様に説明する。
一時期は街のアイドルだったってことか。
すぐにアークシティを飛び出してきた俺とは大違いだな。
「でも、今は町長の息子の部屋に入り浸っているわね。町長の息子、ヤンっていうんだけど、ヤンの評判は街でもそんなに良くないから、みんなガッカリしちゃっているわ。」
「分かりました、ありがとうございます。じゃあ、とりあえずそのヤンさんのところに行けば会えそうですね。」
とりあえず、行くべき場所はわかった。
ここでグズグズしていたも仕方ないので、俺たちは宿を出ることにした。
街に出ると、昨日とは違い活気に溢れていた。
アークシティのように露店があるわけではないが、
それぞれの店への客引きなどが盛んに行われている。
「ヘイ、お兄さん、スマーク丼いかがですかー?」
「いや、遠慮しておく。」
早速、俺も声を掛けられる。
30代半ばに見えるおじさん。
髭をはやし、服で隠してはいるがお腹が出ているのが分かる。
この街の客引きにはそこまで悪質さを感じない。
可愛い娘が客引きをしているケースが多いようにも見えるが、
決していやらしいことをしようという意図は見えない。
街全体に健全な雰囲気が流れていた。
「レイラさん、ヤンの家はどのへんに?」
「この街の中央よ、ここからだと西に進めば辿り着くわ。」
レイラさんの説明通り、西へと進む。
活気に溢れていた街だったが、中央の方に進むにつれて様相が変わってきた。
「エンブリック家の横暴を断固許すべきではない!」
40代半ばのおじさんによる街頭演説が行われている。
おじさんは拳を振り上げ、みんなの賛同を煽っている。
「そうよ、次の町長選こそ、あの家を当選させるべきではないわ!」
「俺らの街を守るべきだー!」
支持者であろう、おじさんおばさんたちが拳を振り上げ賛同する。
どうやら、町長選挙の選挙活動みたいだ。
俺が気になっていることを察したのか、レイラさんが解説してくれる。
「あれはね~、町長候補のゲットンさんの演説よ。今から行くヤンと町長選を争っているの。」
「え?今の町長はヤンのお父さんなんですよね?」
「ええ、でも現町長は体調が悪くて、次も町長になるのは非常に厳しい状況だわ。だから、まだ若いけど、息子のヤンが立候補してるのよ。でも、評判は悪いんだけどね~。」
なるほどね、でもそうなると、
「だとしたら、ヤンさんも選挙活動で家にいない可能性もあるんじゃ…」
「大丈夫よ~、それはないわ。だって、彼はやる気がないもの。」
「え?やる気がない?」
「正確に言えば、選挙活動なんかしなくても自分は当選すると思ってるみたいよ。だから、どうせ今日も家であの娘とイチャイチャしてるわ。」
それは、また何というか、典型的な二世政治家だよな。
でも、正直そのヤンとかいう男には用はないからどうでもいい。
俺はとっとと日本に帰る方法見つけたいだけだし。
さらに街の中心部に進むと、大きな家が見えてきた。
おそらく、4階建ての家だろう。
東京であれば、ビルに囲まれて大して目立たないだろう。
だが、この街には所謂民家のような建物しかない。
そのため、かなり目立った建物となっている。
おそらくあれが町長の家だろう。
家の隣には町役場らしき建物もある。
町役場周辺では、選挙近いということもあってか、職員らしき人たちが忙しそうに右往左往している。
ついに、町長の家の前まで辿り着いた。
歩いて40分くらいだろうか。
意外と距離があったなというのが正直な感想だ。
町長の家は、庭もかなり広い。
おそらく東京ドームくらいの広さはあるだろう。
俺が頭の中で描いていた豪邸像そのものという感じだ。
これから、この家に入るのは少し緊張する。
それに、ここまで来て気付いたが、ヤンともその彼女とも面識のない俺を家に上げてくれるのだろうか。
こんな立派な家だし、入場制限とか厳しいんじゃないか。
と、家の門の前で少しうろたえていると、
「何をモタモタしているんだ?早く入ろうぜ!」
ディックが不審げな顔でこっちに問いかけてくる。
こいつ、こういう家慣れてるのかな?
アイリスとレイラさんもこの家を前に少し戸惑っているみたいだし。
ただ、ディックの言う通り、これ以上ここにいても仕方ない。
俺は門についているインターフォンを押した。
インターフォンを押すと、お爺さんのような少ししゃがれた声が聞こえてきた。
「はい、どなた様ですか?」
「僕はリクトといいます。異世界の日本という国からやってきました。ヤンさんのお宅に、僕と同じ国から来た方がいると聞きました。お会いすることは可能でしょうか?」
「少々お待ちください。」
おそらく、喋り方からして執事だろう。
ヤンのところに確認に行ったみたいだ。
しばらくすると、インターフォンからお爺さんの声がした。
「ただ今お迎えに参ります。しばらくお待ちください。」
そのアナウンスに従って、門の前で待つこと3分。
門が開き、案の定黒いスーツを着た執事風のお爺さんがやってきた。
白い口髭をたくわえた顔に笑みを浮かべると、俺らを案内する。
「私、エンブリック家の執事をしておりますジンヤと申します。どうぞ、中へお入りください。」
ジンヤさんは礼をすると、俺らを門の中へと誘導する。
俺らが中に入ると、そのまま奥へと進んでいった。
俺らも後ろからついて行く。
石畳の上を歩いていくと、周りには池や植物園のようなものがある。
池には、この世界特有の魚だろうか、背中にギザギザのような角を何本も生やし、鱈子唇の鯉のような生き物が飛び跳ねていた。
庭を興味深く観察しながら進んでいくと、どうやら家に着いたみたいだ。
ジンヤさんが家のドアを開けると、玄関で靴を脱ぐように指示をした。
それに従い、靴を下駄箱に入れ、ジンヤさんの後について行くと、廊下を右折し、リビングのような部屋に案内される。
「こちらがリビングとなります。こちらにヤン様とアカネ様がいらっしゃいます。」
ジンヤが案内をしてドアを開ける。
アカネ?どこかで聞いた名前だよな?
そう思っていると、
「あら?お久しぶりね。青沼陸人君?」
ヤンと思われる男の隣で、彼女は馬鹿にしたような笑顔でこっちを見つめ、話しかけてくる。
そう、忘れるはずもない。
かつて、俺が中学時代に噂を立てられた相手。
俺の黒歴史。
忘れたかった相手。
佐々木茜がそこにはいた。




