58.踏破者、王女から要請を受ける。
「おはようございます。……体調がすぐれないように見えますが、大丈夫ですか?」
俺にそう声をかけて来てくれたのはランドールさんだ。
ティア王女の護衛隊長をしている。
「ああ、すまない。多少寝不足なんだが、その分もエルが働くから問題ない。」
エルがこちらを睨みつけてくるが、そんなことは無視だ。
昨夜調子に乗ったハンターがマジで夜襲をかけてくるとは思わなかった。
エルが【探索】で気づいて俺に教えてくれなかったら、宿屋が大変だったに違いない。
まぁ、酔っぱらった低ランクハンターどもがノリで勢いづいてやってきただけだったので、こちらも凄惨な対応はしていない。
片っ端から殴り飛ばしただけだ。
騒ぎを聞きつけてやってきた衛兵たちに事情を話したところ、こちらはお咎めなし。気絶したハンター共は回収されていったので、こってり絞られていることだろう。
「ははは、通常の護衛業務は我々護衛隊の役目ですからご心配なく。ジーク殿達には有事の際に協力いただければと思います。と言うのも、王女殿下が皆さんにお話があるとの事ですので、本日は馬車に乗っていただきたいのです。」
「馬車にか?王女さまの?」
「そうです。」
う~ん。
厄介ごとの匂いしかしないぞ。
ぶっちゃけ断りたい。
「あの馬車に乗ったらいいの?ボク先に行ってるね!!」
「あ、おい。」
俺の制止もかなわずティア王女の馬車に駆けこんでいくレベッカ。
仕方ない。
俺も腹をくくるか。
俺の心中を察してか苦笑している護衛隊長を横目に俺も馬車に乗り込んだ。
「おはようございます。どうぞおかけになって下さい。」
馬車の中は、狭くはあるもののスイートルームの一室と言って差し支えない豪華な内装となっていた。
流石は王族の馬車だな。
「さすがは王族の馬車だな。なんて思われていますでしょうか。」
ティア王女が苦笑いしながら話しかけてくる。
「私はこの馬車があまり好きではありません。装甲強度の問題で仕方なく使っていますが、無駄に税を使用していると思ってしまうんですわ。」
「へぇ。王女殿下がそう言ったことを考えるんだな。あ、別に馬鹿にしてるわけじゃないぞ。素直に感心してるだけだ。」
「ええ、大丈夫ですわ。私も為政者のはしくれ。国の将来についても真剣に考えていますのよ?辺境伯の息子であったあなたも同じではなくて?」
「ん?まぁないわけではないな……俺の場合は特殊な扱いを受けたこともあって、どちらかと言えば反貴族思想だったしな。」
「以前に少し話したかもしれませんが私もそうです。貴族制を廃止するとまでは考えていませんが、その職務を忘れ、私腹を肥やすことばかり考えている貴族も多い。私はそこを改め、多くの民が豊かに暮らせる国を作るべきと主張しています。ヴァン侯爵のように民の命を蔑ろにする貴族は国の衰退を促すだけなのです。」
「崇高な思想だとは思うが……貴族制の中心の王族がそんなことを言い出したら反発が大きいんじゃないか?」
俺が指摘するとティアはあからさまにぐったりとうなだれる。
う~ん、演技っぽい。
そしていつの間にか馬車が出発している。
この馬車、衝撃吸収性も一級品だな。
「正直、私の味方をしてくれる貴族の方は少数です。先のオスガルド伯爵のように私と同じ思想を持っている人は他にもいるとは思うのですが……。」
「で、俺たちにどうしろと?」
話が核心に近づいてきたので単刀直入に聞いてみる。
まぁだいたい予想はつくが。
ティア王女はうなだれていた頭を上げ、しっかりとこちらの目を見て次の言葉を紡いだ。
「ジークさん、私の考えに賛同いただけるのであれば王戦の協力をお願いしたいのです。」
まぁそうなるわな。
一回断ってるんだけど。
「王族専属騎士の話も一回断ってるんだが、諦めてないのか?」
「この程度で諦めるくらいなら最初から王戦など参加しませんわ。」
左様ですか。
「一度断られてからいろいろ考えたんですの。お話を聞いてもらえませんか?」
「聞こう。」
ティア王女の話をまとめるとだいたいこんな感じだった。
・ジークたちの肩書をティア王女の王族専属騎士とする。
・実際には有事の際の協力をお願いするくらいで、ハンターとして活動してもらって構わない。
・協力要請は有償。
「つまり名義だけ王族専属騎士にして、必要な時にはハンターである俺たちに【指名依頼】という形で協力依頼をかけると。これ、そっちにどんなメリットがあるんだ?」
「そちらと同じですわ。王族専属騎士に優秀なハンターを付けたと言うだけで箔になりますもの。あと、王戦のライバルに対してのけん制ですかね。あなた方が敵側に付くのも怖いので。」
「そこは心配要らんと思うが……。まぁこの条件でいいなら受けよう。俺としてもこれから住むことになる王都の統治者が貴族万歳のような奴では困るし、無理のない程度には協力しよう。」
「本当ですか!?」
俺の言葉を聞いて安堵したのか、ティア王女の体から力が抜ける。
どうやらこちらが思っていた以上に俺達の説得に命運をかけていたようだ。
「……ありがとうございます。」
そう言って彼女は頭を下げた。
王族崇拝者が居たら卒倒しそうな光景だ。
「頭を上げてくれ。そうと決まったらやる事があるしな。」
ティア王女が期待の眼差しと共に顔を上げる。
「もしかしてエルお姉さまを私に付けていただけるんですの!?」
「違うわ。エルはエルで俺の下でやってもらわなければいけないことがあるんだ。」
俺は探索系のスキルや回復系の魔法、神さまたちの知識がないからな。
使えるものは使っていかねばならん。
使えるものは使い潰す主義だ。
横目にエルを見ると若干顔が引きつっている。
俺が思っている内容を察知したのかもしれない。
と、エルの話はここまでだ。
「お前の王族専属騎士になるんだろ?張り付く気はないが、不在時に何かあっても困るからな、俺の方から護衛を出そうと思っている。」
今度は俺の言葉に首をかしげるティア王女。
エルも何のことか分かっていないようだ。
「エルお姉さま以外……レベッカちゃんじゃないですよね?まさか襲撃者の執事の方でしょうか?」
「さすがにそれはマズいだろ。それにシルバ達にはもう表立ったことはさせないつもりだ。……護衛はこれから呼び出す。俺の召喚術でな!!」
「召喚術!?使い魔を私に付けていただけるという事ですか?」
「いやちょっと待て主殿!?昨日のことをもう忘れたのか!?それはマズい……!!」
期待の眼差しのティア王女と不安の眼差しのエル。
ここからは実践した方が早そうだ。
「ティア、開けた場所で馬車を止めてもらうよう指示を出してくれ。」
「分かりました!!」
そう言うとティア王女は御者に事情を説明し始めた。
あ、どさくさ紛れに呼び捨てにしてしまったな。
まぁ王族専属騎士になるって言ったし、いいか。
俺の隣ではエルが深い溜息を吐いている。
レベッカは話の途中から寝ていた。
また新しい仲間が増える予感ですね!!
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