59.踏破者、再び魔神を召喚する。
「この辺でいいでしょうか?」
ティア王女の護衛隊隊長、ランドールさんが馬車を止めて問いかけてくる。
そこは見晴らしのいい平原だった。
「ああ、広さも十分だ。あまり時間をかけても何だからすぐにとりかかろう。」
「主殿、今一度言うが失敗が前提の召喚術など止めるべきだ。何が起きるか分からないんだぞ?」
「私もエルお姉さまの意見に同意ですわ。最悪、呼び出された何かに護衛対象の私が殺されてしまう事態も考えられるのではないでしょうか。」
ティア王女は馬車の中でパズズ召喚の一件をエルから聞かされており、反対派に回っていた。
そのパズズだが、今は鷲の姿となり、馬車の上で欠伸をしている。
あれ、そんな危険でもなかったと思うんだがなぁ……。
「まぁやってみてから考えればいいさ。」
俺は2人の主張を無視して召喚の準備に取り掛かる。
今回挑戦するのは【実体召喚】。
パズズの一件の後エルに聞いたのだが、召喚術の形態は2通りあるようだ。
一つが【幻体召喚】。
一般的な召喚方式で、呼び出す対象の魂みたいなものを呼び出すものらしい。
呼び出せる対象は召喚者に比較的協力的な幻獣に限られることから【幻獣召喚】と呼称されている。
呼び出した召喚獣は召喚者の魔力供給を受け顕現するため、長時間の維持は不可能。
もう一つが【実体召喚】。
こちらはどちらかと言えば【転移】に近いもののようで、呼び出す対象の本来の体ごと顕現させるものとのこと。
【幻体召喚】に比べて召喚術に莫大な量の魔力が必要となることから通常は多人数で、かつ儀式や生贄等の補助も受けて実行されるものだそうだ。
ちなみにパズズは幻体召喚だったはずが、失敗からか実体召喚の形で呼び出されているらしい。
今回の目的はティア王女の護衛役の召喚だ。
必然的に常時魔力供給が必要な幻体ではなく、実体の方が必要になる。
そしてどうやら俺の魔力量は数百年の修練の結果、【実体召喚】を独力で達成できるようになっているようだ。
これだけ条件が整っていて試してみないのはもったいなくないか?
召喚術を行使する理由があって、行使できる力があるんだぜ?
何が召喚されるか分からないのは確かだが、そこは出たとこ勝負だろう。
「出来た。」
俺の前には前回と同じ闇魔法で作った魔法陣が展開されている。
術式は前回と同じフレスベルクの召喚術式。
俺はその魔法陣に一気に魔力を注入していく。
さぁ、失敗しろ!!
「召喚!!」
俺が術式の発動を念じた瞬間、やはり魔法陣そのものが大きく変化する。
そして今度は灰色の煙が出現する。
やがてその灰色の煙が一つに集まると、またしても異形の者を象る。
『ふははは、現世は久方ぶりよのう。』
そこに現れたのは獅子の頭に人の体、両の手が猛禽類の爪という出で立ちの者だった。
『妾は【夜の魔神】!! 召喚者は誰だ!?妾を現世に顕現させた礼に最初に食ろうてやるぞ!!』
なんかこのセリフ前にも聞いたな。
魔神を名乗る奴は皆同じ頭の構造をしているのかな?
となるとこの後の展開も予想できるな。
そう思って名乗り出るべく一歩前へと進む俺。
だが、俺の名乗りは別の声に遮られることになる。
「ラマシュトゥではないか……。まさかお前が呼び出されるとはな。」
声の主は今も馬車の上に居るパズズだった。
『誰だ?妾を呼び捨てにするのは。……この魔力、パズズか?』
「ん?お前ら知り合い?」
「知り合いというか……。ラマシュトゥは我の妻だ。」
身内かよ!!
何?君らの家族は俺に召喚されやすい特性でもあるのか!?
『ふん、貴様こんなところで何をしている。』
「……我はそこに居る主の軍門に下った。今はその命により動いている。」
『は?』
パズズの言葉を聞いたラマシュトゥは呆けたような表情を顔に浮かべる。
『魔神が、それも妾の夫ともあろうものが人族の軍門に下っただと?何の冗談だ?』
「……主は人族の域に収まってはいない。我は手も足も出なかった。」
『……どうやら随分と腑抜けたようだな。よかろう、そう言うのであればこの男を今、この場で八つ裂きにして目を覚まさせてやる。』
「止めた方が良いと思うがな……。」
会話が終わると、ラマシュトゥは俺に向けて構えを取る。
雰囲気からすると魔法主体のパズズとは違い、物理重視なのだろうか。
「いいぞ、どのみちお前も俺の配下に加わってもらうからな。死なない程度に加減はしてやるよ。女性という事だし顔も避けてやろう。」
『人族が舐めた口を!!』
そう言ってラマシュトゥは俺に向かって飛び込んできた。
『大変申し訳ありませんでした。』
今俺の前ではラマシュトゥが土下座ポーズをとっている。
両の手の爪は軒並み折れ、体のあちこちには痛々しい打撲跡が残っている。
まぁ俺がやったんだけどな。
「だから言っただろうに。」
終ぞ馬車の上から動かなかったパズズもあきれ顔だ。
「ではお前も俺の配下に加わってもらうがいいな?ちなみに断れば殺す。」
なんかこのセリフにもデジャヴを感じるな。
『はい、主に忠誠を誓います。』
「では契約成立だ。【眷属化】。」
こうしてつつがなく?配下を増やした俺はラマシュトゥにティア王女の護衛を命じた。
ラマシュトゥは仮の姿として人族の少女の姿になっている。
何というか、護衛としては迫力に欠けるな。
そんなこと思っていたが、エル曰く彼女の強さはパズズと同程度との事らしいので、大抵のトラブルは回避できるだろう。
魔神とは言え女性をフルボッコにしたことでティア王女、エル、レベッカから若干冷たい目を向けられながら俺は馬車に乗り込んだ。
暴力はだめ、ゼッタイ。
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