54.堕天使、俯瞰する。
side エル(エルメディア)
私は今ジーク、レベッカと一緒にコウナードの街を離れて平原に来ている。
簡単な依頼は受けているが、今日の目的はレベッカの強化だ。
戦闘をするうえで一番のネックになるであろう眼の問題は、先ほど【単眼翼幻獣】と契約を交わすことでクリアしている。
彼女はハーフエルフというだけあって、普通の人族より魔力量が多い。
初めての召喚術もその適性と豊富な魔力で好結果を残している。
スカイアイと名乗ったその幻獣はまだ【石化の邪眼】という魔法も術者に与えることができるらしい。
……発動条件次第だが、【遠視】と【石化の邪眼】って二つ揃えたらダメな奴なのでは?とちょっと思ってしまった。
今は弓の飛距離が出ないという問題に当たっているが、さっき私が施した強化魔法により何とか戦えるレベルにまでなっている。
いずれ私の補助なしでも戦えるようにはなるだろう。
だが、主神との戦いに連れて行けるレベルまで育つかと言えば、現状はノーだ。
やはり、ジーク以外に戦力をそろえるのは難しいか……。
そんなことを考えているうちにジークが召喚魔法を試してみると言い始めた。
要求されるまま魔術書を渡す。
これはこの世に2冊と無い禁書の1冊だ。
まだ私が天界に居た時のコレクションの一つ。
「風魔法が得意な幻獣……。フレスベルク、こいつにしてみるか。」
彼が選んだのは大鷲の幻獣だった。
「フレスベルク!?流石に高位過ぎないか?恐らくだが人族に伝わる召喚魔法の書物には記載のないレベルのものだと思うぞ!?」
驚きのあまりつい口出ししてしまう。
フレスベルクは準神族と言ってもいいくらいの高位の幻獣だ。
風を操り、優雅に空を飛ぶ様は空の王者と呼ぶにふさわしい風格がある。
「ダメでも別に何も召喚されないだけだろ?一回やってみよう。」
召喚失敗した場合は確かに「召喚されないだけ」のはずだが、何か嫌な予感がする。
この男が動いて「失敗しました。何も起こりませんでした。」となる未来が見えない。
止めるべきか?
だが彼は私が何を言っても止めないだろう。
『何故か我も嫌な予感がしてきたぞ……。』
今は刀モードのシュラも同じ感覚を持ったようだ。
私よりジークとの付き合いも長いだけあって良く分かっている。
そのジークはと言うと、闇魔法で生み出した影を魔法陣の形に形成していた。
彼は【アビス】で膨大な時間修練を積んでいただけあり、魔力や魔法の制御が非常に上手い。
初めて行うであろう魔法陣の形成も問題なく済んだようだ。
「行くぞ。これに魔力を……流す!!」
瞬間、世界が変わった。
そう感じる程の濃密な魔力が辺りに放出される。
「ちょっと!!これ流石に流し過ぎなんじゃ!?」
焦った私は彼に声をかけるがその声は届いていないようだ。
周囲がまるで魔境にでもいるかのような状況になっていることにも気づいていなさそうだ。
「召喚!!」
彼が魔法陣に込めていた魔力が飽和したかのように大きく膨れ上がる。
その瞬間、魔法陣の形が変わる。
私も禁書の中身は何度も読んでいる。
だから分かった。
あれは魔神召喚の類の魔法陣だった。
魔法陣から大量の紫煙が吐き出される。
それにはジークの魔力が大量に込められている。
どうやら悪い予感は当たってしまったようだ。
『久しぶりの現世だな。……ん?ここは我のいた世界ではないな?』
わずかに威圧が込められた声が響く。
耐性のない者はこれだけですくみ上がってしまうだろう。
やがて煙が晴れ、声の主が現れる。
召喚されたのは獅子の頭に人の体、そして二対の羽を背に持つ異形の者だった。
『我は【嵐の魔神】!! 召喚者は誰だ!?我を現世に顕現させた礼に最初に食ろうてやるわ!!』
私はすぐさま【解析】を行使する。
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【嵐の魔神】
種族:魔神族
スキル:雷魔法Lv.MAX. 風魔法Lv.MAX. 闇魔法Lv.5 召喚魔法Lv.3 魔力自動回復Lv.4
この世界ではない世界から召喚された魔神。現在は受肉状態。
戦闘を好む魔神で、その強さは第2階位の天使に匹敵する。
別世界での顕現のため弱体化しており、現在は第3階位の天使ほどと考えられる。
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やはり高レベルの魔神だった。
第2~3階位の天使と同格ということであれば私の方が上ではあるが、油断すればやられかねない相手だ。
呼び出された魔神も自身の強さを理解しているのか、相手を人族とみて完全に見下している。
だが、それも無理はない。
普通、人族は神族に連なるものを超えるような力はない。
魔神からしたら取るに足らない相手なのだろう。
「俺が召喚者だ。」
ジークが一歩前へ出る。
通常、人族が魔神レベルの上位者を召喚する際には大人数が多くの時間や贄を必要とする【儀式召喚】を行わなければならない。
にもかかわらず、ジークは1人で召喚したと宣言した。
……この異常性に魔神は気付かなかったようだ。
『ほう、我を呼び出すだけのことはあるな。なかなかどうして、強そうではないか。』
それはそうだろう。
ジークは第1階位の天使であった私を超えている。
「そりゃどうも。そういうアンタは弱そうだがな。」
……この男は私のようなスキルも持っていないのに何を根拠に言っているのだろう。
『人間ごときが魔神に不遜な態度……。』
「俺に協力する気はないんだな?」
ジークの雰囲気が変わる。
どうやら、魔神の未来が決まってしまったようだ。
『貴様、今すぐ殺して……。』
「じゃあ死ね。【空断】。」
そこからはジークによる蹂躙ショーが開催された。
私からすればやっぱりなというだけなのだが。
1点予想外なことがあったとしたら、ジークが魔神を眷属にしたという所だろうか。
魔神もジークに忠誠を誓ったようだ。
初めての眷属仲間だったが、望んで眷属となった彼とは意見が合いそうにないな……。
レベッカの元へ飛んでいくパズズを見送りながら1人息を吐いた。
エルさんと愚痴を言い合うことは出来なさそうですが、打倒主神の手助けにはなるかもしれませんよ?
長い目で後輩を見てやってほしいものです。
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