55.鬼神、悟る。
side シュラ(阿修羅王)
我は元々ダンジョンボスとして召喚され、そのダンジョンでジークと出会った。
彼は、他世界のとはいえ神族である我を圧倒する強さを持っていた。
彼の強さに惹かれ、その行く末を見たくなった我は同行を申し入れ、了承された。
それから何があったかと言うと、気が狂いそうになるほどの退屈な時間が待っておった。
ジークは新しいスキルを手に入れる度に、それを限界まで鍛えるのだ。
スキルは使用すればするほど練度が上がっていく。
特定のスキルは練度が上限まで上がると上位スキルに進化もする。
それをもう練度が上がらなくなるまで徹底的に鍛えるのだ。
普通、一つのスキルを極めるのに人族はその一生をかけることすらあると聞いたことがある。
剣の道は一生修行という言葉があったが、基本剣術能力を向上させる剣技スキルは、剣豪、剣聖、そして剣神へと進化するスキルである。
人族の一生では、その全てを修練に充てなければ剣神スキルを極められない(もしくは一生かけても極められないもの)という考え方だ。
しかし、ジークは時間の流れが遅いという【アビス】の特性を最大限生かし、複数のスキルを極めておる。
無論、【アビス】へ来れば誰でもそれが可能かと言うとそれは否。
普通の人間であれば1年と持たず気が触れてしまうであろう。
我ですら気が狂いそうな状況なのだから。
おそらく、ジークには孤独に対する耐性があったのだろう。
もしかしたら【アビス】へ来る前に何か経験していたのかもしれない。
予想外だったのは、彼が孤独を紛らわせるために我を仲間にしたわけではなかったという事だ。
だって話しかけても無視されるんだぞ?
2人で創る孤独に意味があるのか?
後で聞くと鍛錬中は集中しているから気付かなかったとか言うんだぞ?
酷くない?
スキルを極めた後はダンジョンを最初から攻略し直して次のボスへ。
ボスを倒した後はひたすらスキルを鍛えて、鍛え終わったらダンジョンへ。
結局【アビス】攻略までジークはルーティーンを変えることはなかった。
今思い起こせば、70階層ボスのフェニックス戦は酷かった。
他に方法がないのだから、ただひたすら蘇生する相手を倒し続けるという手段は分かる。
だが、燃え盛る敵の体を何百万回と切りつける我はただ熱かった。
最終的にはこのままハンマーで叩いたら形状変わりますよってくらい赤熱するところまで行ってしまった。
もうちょっと蘇生され続けてたら溶けてた。
あれは危なかった。
もう1つは100階層。
エル自身が我とは比べられん程の高位の存在であることもあったが、彼女の使った【神の盾】は最高位クラスの防御魔法だった。
ジークは気付いておらんかったが、空間遮断を行う魔法なので如何なる攻撃も通さない魔法なのだ。
にもかかわらず、ジークはそこへ我を叩きつけたのだ。
それも何度も。
剛力スキルまで発動させてである。
その力で【神の盾】に刀を叩きつける衝撃は全部我に返ってくるんだぞ?
刀身はギリギリ保ったが精神は折れてしまったわ。
だが、ジークは我の事をただの武器として見ているかと言えばそうでもない。
王女の誘拐に動いていた弟と邂逅した際には、我のストレス発散の為と言って雑魚掃除をやらせてくれたりもしておる。
本来の姿に戻って暴れるのは正直ストレス発散になった。
相手にもう少し戦い甲斐のある奴がおれば良かったのだが、贅沢は言うまい。
そして、この件で彼が同族に対しても非情に刃を振るう存在であることを認識した。
シルバによる王女襲撃の際にも襲撃者を迷いなくその手にかけていたから、もしやとは思っておったが……。
ジークは敵とみれば容赦はしないタイプのようだ。
もしくは【アビス】がそうさせてしまったかだが……。
いずれにせよ敵対しないように気を付けねばならんな。
とは言え、待遇の改善は要求すべきかもしれない。
今日はダンジョンで拾った娘っ子を鍛えるために平原に来ていたのだが、何の話の流れかジーク自身が召喚を試すと言い始めた。
『何故か我も嫌な予感がしてきたぞ……。』
我の声はエルにしか拾われなかったようだ。
彼女の顔には諦めの色が浮かんでおる。
その気持ちも分かる。
召喚の結果は予想通り大失敗。
失敗どころではない。
目的の幻獣ではなく、より高位の魔神を呼んでしまうなど、逆にどうやったらそんな器用なことができるのか聞いてみたいわ。
というか、あいつ我と同じ世界から来ておらんか?
こ奴と敵対すべきではないと声をかけるべきか??
あ、なんか暴言を吐いておる。
ありゃ駄目だ。
ご愁傷様。
結果は予想通り、一方的にジークが魔神を蹂躙して戦いは終わった。
地に落ちた魔神に向かってジークは大胆に近づく。
その瞬間、地に突っ伏していた魔神が顔を上げる。
その瞳に諦めの色はない。
『のうのうと近づいてきたお前の負けだ!!【嵐刃】【雷轟】!!』
どうやら最後の逆転を信じ、高出力の魔法を躱しようのない至近距離から浴びせることを考えていたようだ。
しかし、剛壁のスキルを持つジークには魔法攻撃も通用せん。
我にはこの結果がどうなるかはっきりとわかっておる。
結果は、一切ダメージを負うことなく立っているジークが悠然と物語っていた。
そして、ジークが所持している我にはしっかりダメージが入っておる。
……我は防御スキルを持っておらんのだぞ?
魔神諦めろと心の中で連呼しておったのに、この声は届かなかったのだ。
……誰か助けてたもれ!!
シュラさんはいじめられっ子が定着したと思います。
これからもどんどん悲惨な目にあってもらいましょう!!
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