46.踏破者、ダンジョンの異常を正す。
「おいエルさんや?」
「ん?」
「少女が倒れてるぞ?」
「私にもそう見えるな。」
「生物は反応でわかるとか言ってなかったか?」
そういうとエルはスタスタと部屋の中へ入っていき、少女の傍らにしゃがみ込むと首筋にそっと手を当てる。
「死んでるな。だからわからなかったんだろう。」
そう言いながらもエルは少女の首筋から手を離さない。
「……でも、まだ温かい。死んですぐなのか……?」
「脈が止まってすぐなら蘇生できるかもしれない。」
俺も少女の傍へと駆け寄る。
だが、少女の状態を確認する前に、少女の向こう側にあるそれが目に入った。
中空の円柱が直立したような形状をしたそれは、中空の部分から目に見える濃さの魔素を吐き出していた。
ぱっと見は暖炉の排煙をしている煙突のようにも見える。
「魔素を吐き出す魔道具……。」
エリオの聞いていた噂はどうやら本当だったようだ。
魔道具を確認すると、側面の一部から紐のようなものが伸びている。
視線でその紐の先を追っていくと、その先端は倒れている少女の左腕に繋がっていた。
紐の先端がバンドのような輪っかになっており、そのバンドが少女の腕につけられているような状態だ。
「なんとなくどんな装置か予想ができるな。……胸糞悪い。」
「っ!?」
エリオと『神狼組』の3人が不意打ちで放たれた殺気に気圧されるように数歩下がる。
「っとすまない。つい……な。」
「あ、ああ。」
改めて全員が隠し部屋に入り周囲の確認をする。
だが、やはりこの少女と魔道具以外には何もない。
「おそらくこの少女の生命エネルギーなり魔力なりを媒体に魔素を作り出す魔道具だろう。で、俺はこれを外そうと思う。」
俺は周りを見渡す。
どうやら反対意見はないようだ。
「魔道具を外すことで少女が蘇生する可能性もある。暴れたり意図的に敵対する可能性もある。注意しておいてくれ。」
皆が頷く。
そして俺は少女を見ながら、最悪の可能性も口にしておく。
「……可能性として、魔道具を外すことでこの少女の命が尽きる可能性もある。その場合は……」
誰かの喉が鳴る音がする。
「……隊長であるエリオが責任を取る。」
「なんでだよ!?お前がとれよ!! いや、ここはみんなでだろ!!っつーかこの空気でボケてんじゃねぇ!!」
少し空気が緩んだところで俺は魔道具を少女から取り外した。
魔道具は予想通り沈黙した。
少女はというと……。
「ん、脈が戻った。」
変わらず少女の首筋に手を当て続けていたエルが少女の蘇生を確認した。
幸か不幸か、少女はその場で起きることはなかった。
◇◇◇◇◇
その後俺たちは少女と魔道具を回収してコウナードへと帰還した。
先に帰還した『銀星』や『赤い斧』の生き残りの報告により街は厳戒態勢を敷いていた。
ひとまずギルドへと事の顛末を報告した俺たちは魔道具と少女をギルドへ預け、今度は魔物の間引きを行う事になる。
こちらはギルドからの【指定依頼】扱いで、ダンジョンから溢れ出した魔物の討伐が目的だ。
調査内容をギルドへ報告した後、調査隊とギルド幹部で出した結論は「何者かの設置した魔道具によりダンジョン1階の魔素濃度が急激に上昇。大量の魔物が出現し、溢れ出しが発生した。」「魔素を供給していた魔道具は除去されたため溢れ出しは沈静化する。」「すでに溢れ出した魔物の間引きを行うことで街への危機は去る。」というものだった。
念のため【単眼悪魔】を処理できるレベルの別動隊を組んで他に魔道具がないかの調査もしたいが、そちらは人手が集まるか微妙との事だった。
場合によっては結界によるダンジョンの封鎖だけしておいて、周囲の魔物の討伐を行った後に俺達でダンジョン調査することになるかもしれないとも。
その後、5日程ダンジョン周囲の魔物を討伐していた。
その数【上級悪魔】2体、【単眼悪魔】25体、【牛魔】83体、その他大勢だ。
だが、5日目にはもう魔物が見つからないレベルにまで数を減らすことが出来た。
【上級悪魔】のように飛翔出来て行動範囲の広いタイプの上級魔物については飛び去ってしまった可能性が否定できないが、こればかりはどうしようもない。
そして結局その後でダンジョン内の再調査も俺たちが担当することになった。
最初の調査時と比べれば明らかに魔物の数が減っていたし、エルの【探索】でしらみつぶしに確認して何も発見できなかったので魔道具は一つだけだったのだろう。
それを報告して漸く休みが取れた。
かなり働いた一週間だった…。
「今日はどうするんだ?」
宿での朝、朝食後にいったん男性部屋に集まったところでエルが尋ねてくる。
「今日は報告だな。まずギルド。報酬も貰わないといけないし。次に領主邸。ティアとオスガルド伯爵への報告だな。」
「その後は?」
「今日はゆっくりしよう。まとまった金も入るだろうし、各自小遣いも出せるだろう。」
「私たちもいいのですか?」
おずおずと発言したのはメルだ。
「もちろんだ。お前たちを引き取ると決めたのは俺だからな。できるだけ不自由をさせるつもりはない。まぁ、シルバたちはティア付きだから休みはそっちで相談してくれ。」
そういうとメルとリルはお互いを見て喜んでいるようだ。
本来であれば、もっと幸せな生活があってもおかしくない二人だ。
俺のせいというわけではないが、フレンブリード家の被害者であるからには俺にも多少の責任はある。
孫娘が喜んでいる姿を見ているシルバの目が潤んでいるのは見なかったことにしよう。
爺さんの涙に需要はないのだ。
「じゃあ準備が終わったら出るぞ。」
「うむ。また帰ってきたら教えてくれ。」
「お前も行くんだよ。ナチュラルにサボるな。」
エリオさんは実はノリが良いというお話でした。
もう少し読んでみてもいいと思っていただけましたら評価、ブックマークよろしくお願いします!!




