47.踏破者、少女の話を聞く。
「お、ジーク君ちょうどいい所に。今使いをやろうとしてたところだったんだよ。」
「サイモンさん?昨日のことか?」
ギルドに入った俺たちに声をかけてきたのはコウナードの街のハンターギルドのマスターだ。
いかにもハンターと言った感じではなく見た目は糸目のひょろ男なのだが、何でも現役時代はSランクハンターだったらしい。
……一度手合わせ願いたいものだが。
「何か悪寒がするよ?変なこと考えてないだろうね?」
勘も鋭い。
「いや、それは主殿が獲物を見る目でサイモン殿を見ているからではないのか……。」
エルが指摘してくる。
何も言っていないのに図星をつかれたことを悟ってやがる。
俺の周りはエスパーだらけか?
「実は、例の女の子なんだけど、目が覚めたんだ。」
「お、やっとか。」
例の女の子と言うのは上級ダンジョン【奈落】で魔素を発生させる魔道具のエネルギー供給の為に犠牲となっていた少女の事だ。
発見当時は仮死状態で、魔道具と切り離すことで息を吹き返していたが、その後目を覚ますことなくずっと意識不明状態だったのだ。
「何か話は聞けたのか?」
彼女は今回の事件について有益な情報を持っている可能性が極めて高かった。
首謀者が特定できれば最高だが、少なくとも実行犯にはつながる情報が欲しい所だ。
「それがね……。口封じの呪いをかけられているみたいなんだ。そこで一度君達に見てもらいたくてね。」
「なるほど。」
よくよく考えてみればそれは当然だった。
敵さん側からすれば、少女は魔道具の起動装置であるため殺すわけにはいかないが、仮に救助されれば一気に自分たちの身を危険にさらす証言者となってしまうのだからな。
「俺にはどうしようもないが……エル、行けるか?」
「今の情報では何ともいえない。一度見てみようか。」
サイモンは頷くとギルドのバックヤードへと移動する。
俺とエルもその後に続く。
救護室と書かれた部屋へ入ると、そこにはベッドの上に座る少女と、ベッド脇の椅子に座るライラさんが居た。
ライラさんはギルドマスターが部屋に入ってきたのに気付くとすっと立ち上がりベッド脇を空ける。
その佇まいは完全に仕事のできるお姉さんのそれだった。
そんな彼女にサイモンが話しかける。
「彼女の様子はどうだい?」
「変わらずです。確認できている範囲だと視力・聴力を失っているようです。あと、何か喋ろうとしている様子も窺えたので、おそらく発声も阻害されています。手を握ると握り返してくるので五感すべてを失っているわけではないようです。」
「そうか……やはり何か呪いがかけられているとみるのが普通だろうね。ジーク君、エル君、何か分からないかな?」
「エル、頼む。」
「うむ。」
エルは俺の言葉に頷くと、少女の脇へ移動し手をかざす。
「【解析】。」
エルがスキルを使用すると少女がビクッと震える。
声は聞こえていないという話だが、【解析】された際の悪寒はしっかり感じているようだ。
「……これは。」
【解析】が終わったのだろうが、エルは難しい顔をしている。
「どうした?」
「何から話そうか……。まず、この少女は純粋な人族ではない。ハーフエルフだ。」
「ほう。」
エルフは亜人の一種で、自然を愛し、自然と共存する道を選んだ排他的な種族だ。
種族特性として寿命が長く、敏捷と魔力量が多いため人里に下りてハンターとしてその特性を活かして活動している者も一定数居る。
どうやら彼女はそんなエルフと人の子のようだ。
「そして呪いだが、確かにかかっている。ただし、これは聞こえなくする・喋れなくする類の口封じとしてはベーシックな呪いでしかない。」
「ん?じゃあ、視力は……?」
「おそらく、彼女の目が見えないのは元々なのだろう。」
「そうか。……呪いの解除はできそうか。」
エルは頷くと再度少女に手をかざす。
「【解呪】。」
エルが魔法を行使すると少女の体が白い光に包まれる。
やがてその光が消えると少女は驚いた表情を浮かべた。
「……あ、聞こえる。」
どうやら呪いの解除に成功したようだ。
エルがベッド脇から離れ、俺の後ろに回る。
どうやら自分の仕事は終わりという事のようだ。
いや待って?
俺に話せって?
サイモンさん、ライラさんこっちを見てこないで?
この状況で少女になんて話しかけりゃいいんだよ?
俺にそんな高等なスキルないぞ??
とりあえずライラさんに話しかけるようにジェスチャーで伝える。
ライラさんは頷くとベッド脇へと移動する。
助かった……。
「気分はどうかしら?気持ち悪かったり、痛いところはない?」
「あ……。誰……ですか?」
少女は話しかけられたことに怯えるそぶりを見せる。
「私はライラと言うわ。ここはコウナードという街にあるハンターギルドの中よ。あなたは、ある事件に私たちが対応しているさなかに発見されて、今は保護されているの。」
「……。」
「私たちにあなたを害しようという意思はないわ。でも、できればその事件の解決のためにあなたのお話を聞かせてほしいのだけど……。」
「……わかりました。」
少女は目を瞑ったままライラさんの話を聞いている。
精神状態については分からないが、とりあえず会話は成立しているし、これなら情報収集もつつがなく終わるだろう。
俺はそんな風に考えていた。
「ありがとう。まずはあなたの事を教えてくれる?名前は?」
「ボクはレベッカと言います。13歳です。」
「レベッカちゃんね。出身はどこかな?」
「ボクが居たのはミルアーベイという村です。……ですがその村はもうありません。……魔物の大群に襲われて……。ボクの両親も……。」
予想外に重い話が始まってしまった。
だが今回の事件の犯人につながる情報があるかもしれないのだ。
そう考えた俺は部屋の片隅にある椅子に腰かけた。
異世界と言えばエルフ!!
純血のエルフはまた今度……。
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