36.踏破者、困惑する2。
「……9998……9999……10000……!!」
今日は王女の護衛隊の一員としてライラックの町を発つ日だ。
朝早起きして日課の素振りを行っている。
重力魔法でかけている負荷をもっと上げたいんだが、かけられる負荷はこれが限界なんだよな……。
毎日重力魔法を使用しているが、Lv.MAX.のためこれ以上成長する感覚はない……。
「今日のような日でも早朝鍛錬をされているんですね。」
鍛錬について思考していた俺は声を掛けられ振り返る。
そこには手拭いを手にしたシルバが居た。
「ああ、これをやらないと気持ち悪くてな。シルバも随分と早いな。」
「ええ、出立前に荷物の整理など、やることがありますので。」
シルバは少し前に比べると穏やかな顔をするようになった。
フレンブリード辺境伯の顛末の話を聞いて、刺客を送られてくる心配がなくなったのは大きいだろう。
自身はもとより、孫娘たちが安心して暮らせるようになったのは大きそうだ。
「旅立ちにはいい天気になりそうですな。」
「大げさだな。俺たちは護衛依頼を受けただけだぞ。」
「いいえ、私どもにとっては旅立ちです。これまでとは所属も、気持ちも大きく違うのですから。」
「そうか。」
「ジーク様には感謝しかありません。孫娘たちはおろか、この老骨まで助けていただいて。このご恩には必ず報います。」
まっすぐな言葉だった。
彼のまじめな気質が見える。
「気持ちはうれしいが、どこぞの誰かのように狂命を発するかもしれんぞ。その時にはちゃんと止めてくれよ。」
俺はそういって部屋へ戻るため歩き出す。
シルバは俺に向かい、すっと頭を下げていた。
◇◇◇◇◇
「では改めてよろしくお願いしますわ。ジークさんとエルお姉さまは護衛、シルバさん、メルさん、リルさんはスタッフですわね。」
ライラックの町の迎賓館、その応接室で俺とエルはティアに着任の挨拶を行っていた。
「ああ、よろしく頼む。仕事はちゃんとやるから安心してくれ。」
「その言葉信じますわよ?それと、エルお姉さまには私から護衛が外れるタイミングでも一緒にいてほしいのですが、よろしいでしょうか?」
昨日言っていた女性ならではのタイミングということだな。
こちらとしても、護衛の任を引き受けるからには対象の安全を確保するのは絶対だ。
俺はエルに目配せする。
エルもそれを察し、頷いた。
「断る。」
「全然伝わってねぇ!!」
お前俺の眷属だよな!!主の思惑を察してくれ!!
「はぁ……。エル、俺たちは一応王女さんの護衛の依頼を受けているんだ。依頼期間中だけでいいから張り付いて警護してくれ。」
「チッ」
こいつ舌打ちしやがった!!
強権使ってやろうか……!!
「まぁ主殿が言うなら仕方ない。確かにこちらは依頼を受けているわけだからな、仕事はちゃんとしよう。」
なんでこんな偉そうなんだこいつ……。
あ、もう敬語とか使ってない俺も大して変わらんか。
「で、ではよろしくお願いしますわ。」
ティアも顔が引きつっている。
こんなバッサリ断られるとは思っていなかったんだろうな。
「ジークさんも、『一応』でも依頼はお受けいただいていますのでよろしくお願いいたしますわ。」
あ、俺も失言してるわ。
思わずスッと視線を逸らす。
気まずい。
「失礼します。王女殿下。出立の準備がととのいまし……た?」
そのタイミングで護衛隊長が部屋へ入室してきた。
部屋の中の変な空気を感じたのか、語尾が疑問形になっている。
なお、この護衛隊長はランドールという名であると先日教えてもらった。
騎士としての腕前も確かで、頭の回転も速い。
単に能力だけを見れば騎士団でも上へ行けるらしいのだが、出自が平民であるためいろいろ苦労があったようだ。
そういった経緯があったこともあるだろうが、ティアの『国民中心の国家運営』の思想に共感し、騎士団を辞して護衛隊に入ったとのこと。
そのうえ空気まで読めるのだから言うことなしだ。
「ランドール隊長、いいところに来てくれた。護衛計画について聞かせてほしい。さ、行こうか。」
何事もなかったかのように俺は立ち上がり、歩き出す。
「は、はぁ。こちらこそよろしくお願いします?ではメンバーに改めて紹介させていただき、移動時の役割と配置について説明させていただきます。」
「ああ、わかった。」
そうして俺とエルは応接室を出た。
「……なにか問題でもあったんですか?」
訝しむランドールであったが、にこやかに笑ってやるとそれ以上深く追及してくることはなかった。
空気が読めるのはいいことだよ。うん。
本音が透けて見える失言というのは場の空気を悪くする。
よくあることですね。
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