35.踏破者、高額依頼を受ける。
「王族専属騎士の件は正式に断らせてもらおう。」
ティアの事情についてはある程度聞いた。
その主義・思想には共感できるところも多いし、他の王戦参加者から狙われやすく、応援してくれる者も少ない中でも信念を曲げずに戦うことを決意しているところも嫌いではない。
変な奴だとは思うが。
手助けしてやりたいという気持ちもないではないが、やはり誰かの都合に拘束されるというのは勘弁願いたかった。
俺は俺で、おぼろげながらやりたかったことが少し輪郭をはっきりさせてきているということもあった。
ティアはかなり残念そうな表情を浮かべながらも頷いてくれた。
「そうですか。仕方ありませんね。」
俺はその対応に少し微笑む。
そうしょげることもない。
都合のつくときくらいは手伝ってやってもいいとは思ってはいるのだから。
「俺たちはハンターだから、入用の際はギルドへ【指名依頼】を出してくれ。その時の都合もあるが、前向きに対応するようにする。」
そう俺が続けるとティアが驚いた顔をあげる。
「いいのですか?」
「正直、王戦に興味はないが、シルバ達を見逃してくれたこともある。受けた恩には報いる主義だ。」
「今はそれで構いませんわ。ありがとうございます。……では早速ギルドへ【指名依頼】を出しましょう。」
その言葉に俺は苦笑する。
「早速か。」
「ええ、実はそろそろ次の町へ向けて移動しなければならないのですが、先日の件もあり護衛を強化したいと思っていたんですの。」
なるほど。
確かに王女様の護衛は万全とは言い難い。
先日のフレンブリード家の襲撃で数名は命を落としているのも事実。
「皆様は王都を目指していると聞いています。私どもも各地の巡視を終えた後は王都に戻ります。最終到達地が同じであれば受けていただけるのではないかと思いまして。」
「ちなみに行程は?」
「王都まで6つの町を巡視予定です。王都までおおよそ2ヵ月ほどでしょうか。」
2ヵ月か……。
別に急ぐ旅でもないし、王族にコネを作るという意味で見ても悪い条件ではないな。
「報酬は……そうですわね。5人の同行と言うところも加味して成功報酬100万ギラ、別途日当として1日5万ギラ、有事の際には都度臨時報酬あり。と言ったところでどうでしょう?もちろん旅中の宿や食事はこちら持ちです。各町滞在中は基本的に拘束はしませんので他の依頼を並行して受けていただいてもかまいません。」
「2ヵ月で400万ギラ!?乗った!!」
成功報酬100万ギラと言ったらAランク依頼相当だ。
王族からの依頼という事もあり下手な金額提示は出来ないのだろうが、大所帯となった今は金が欲しい。
400万あれば1年位は安泰だ。
思いっきり金の話でがっついてしまったが、ティアはにっこりと微笑んでいた。
「王族専属騎士になっていただければお給金は弾みますわよ?私も命がかかっていますから、できる限りお答えする準備があります。」
「か、金で買おうって気か……!?」
ヤバい、心が動きかけている!?
エルさん、半目でこっちを睨まないでください。
「冗談ですわ。ですが、気が変わったらいつでも言ってくださいね。」
どうやらまだお姫様は俺たちを取り込むことを諦めていないらしい。
「はぁ。退屈な旅路にならなさそうで楽しみだよ。全く。」
俺はそう言って打ち合わせを打ち切った。
◇◇◇◇◇
「なんか毎回ここに連れ込まれてるよなぁ……。」
ここはライラックのハンターギルド。
昨日の話にあったティアからの【指名依頼】を受注するためにギルドへ来たのだが、そのまま応接室に通されてしまったのだった。
「それは君が常識を覆すようなことばかりしているからだよ。」
そんな言葉と共に応接室に入ってきたのはここのギルドマスターのカルザンだ。
俺たちの対面に座ると手にしていた書類をテーブルの上に広げる。
「王女殿下からの【指名依頼】なんだけど、2点問題があってね。一つはギルドが所属ハンター個人に出す【指定依頼】と違い、他の依頼者が出す【指名依頼】はBランク以上にしか出せないんだ。もう一つは報酬額。王族からの依頼だから仕方ないんだけど、この報酬は高すぎる。Aランク依頼相当だね。」
カルザンは書類をめくり、報酬の欄を指さしながら説明してくれる。
「この依頼だけを見ると、低ランクのハンターがコネを使用して不当に高額依頼を受注しているという見方をする人が出てくるんだよね。」
「なるほど……。で、対策は?」
「……これはもう特例中の特例なんだけど、君たちのランクをBに上げようと思っている。【地竜】討伐実績、高難度【指定依頼】2件の達成、スリアド・ライラックのギルドマスター推薦。この3つで無理矢理ね。」
「そうか、無理をさせてしまったようで悪いな。」
俺は素直に謝った。
そんな態度を見てカルザンは声を出して笑う。
「ふははは。それはいいよ。どれも君達の周りの都合で、君達に落ち度はない。それにこちらにも打算的な意図がある。」
そう言うとカルザンはすっと身を乗り出してきた。
「ギルドとしても王族にコネを作っておくといろいろ動きやすいからね。」
どうやら俺の周りにいる人間はどいつも一筋縄ではいかない奴ららしい。
こうして俺たちは白色のタグを手に入れたのだった。
コネはいつの時代も大事です。
目先のメリットが少なくても、デメリットが無ければとりあえずつないでおいたのが後々役立ったみたいなこともあるでしょう。
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