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パチ中の狐、今日も溶ける  作者: もや兄


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第3話 借金の出どころ

外の空気うまいの、腹立つ。


うまい空気って「やり直せ」って顔してくる。やり直せるわけないのに。


私はコハク。狐の獣人。女。


尻尾は今、ド派手なピンクで封印されてる。恥で止まるタイプ。終わってる。


「次は借金の出どころっす」


隣のハルが軽く言う。軽く言うな。重い話だろ。


「ない。普通に私が悪い」


「はい、それ一番搾られるやつっす」


「ムカつく。今の言い方ムカつく」


「事実っす」


私は舌打ちして、店の前で立ち止まる。


パチ屋の自動ドアが、開く前から私に優しい顔してる。


「……帰るんじゃなかったの」


「帰るって言葉、無料なんで」


「無料のせいで人生壊してるっすね」


「黙って」


店内に入る。音。光。匂い。


この瞬間だけ、脳が「はい、休憩」ってなる。休憩の仕方が最悪。


島を歩く。目に入る機種名が、全部“知ってる名前”なのが嫌だ。


知ってるってことは、時間をここに捨ててるってことだから。


「はいはい、いました。エヴァ」


私は口の中で言う。


『新世紀エヴァンゲリオン〜未来への咆哮〜』。


座ってる人の顔がもう真剣。あの台の前だと、みんな宗教みたいな顔になる。


私はあれが嫌い。嫌いなのに、たまに打つ。負け方が綺麗だから。意味不明。


ちょい奥に『Pフィーバー機動戦士ガンダムUC』。


爆音で世界が終わってる。右打ちの時の空気が、戦場っぽくて無駄にテンション上がる。


上がるな。上がると死ぬ。


さらに奥、年配ゾーンに『P大海物語4』。


海は安定とか言うけど、安定して負けるだけだろ。


でも海の島だけ空気が違う。みんな静かに殺し合ってる。平和な地獄。


ハルが言う。


「狐さん、目がもう打つ目っす」


「打たない。今日は“借金の話”だから」


「じゃあ何で島歩くんすか」


「儀式。歩かないと帰れない」


「終わってる」


「知ってる。今さら言うな」


私は空いてる台に座りかけて、やめる。


やめた自分が偉くてムカつく。偉いって腹立つ。なんで。


ハルが続ける。


「借用書のコピー、財布に入ってましたよね」


「見るな。個人情報」


「尻尾は公共情報っす」


「殺す」


「殺さないでください。困ります」


私は財布を開く。


千円札。硬貨。ポイントカード。借用書コピー。


生活のゴミ詰め合わせ。


「……はい。これが私の人生」


ハルが覗いて、さらっと言う。


「“ユメカネ”っすよね」


その名前を出されると、胃が冷える。


冷えるとムカつく。ムカつくとキレる。私は自分の取説が単純で助かる。


「知ってるなら早い。最初は二万。今は……聞くな」


「聞きます。いくら」


「……増えた。四万ぐらい。たぶん」


「“たぶん”は一番危ないっす」


「うるさい。私が一番危ない」


ハルが軽い声のまま、刺す。


「狐さん、パチで負けた穴を人で埋めようとして、人でも負けてる」


「黙って。今の言い方ムカつく」


「ムカつくのは合ってるからっす」


私は一回、店内の音のほうを見る。


エヴァの島が「来い」って言ってる気がする。


言うな。機械が喋るな。喋るなら金出せ。


ハルが言った。


「“紹介で利息下がる”やつ、やりました?」


私は反射で言う。


「やってない」


「やってる顔っす」


「顔で決めつけんな」


「パチ屋で学びました。顔は嘘つけない」


「ムカつく。お前の学習、嫌な方向に伸びてる」


私は息を吐いて、負けたみたいに言った。


「……1人だけ。私のせいじゃない」


「誰のせいっすか」


「向こうが“ちょっとだけなら大丈夫”って言ったから」


ハルが頷く。


「それ、狐さんが最初に言われた言葉っすね」


私はキレる。


「黙って! そういう“綺麗に言い返せるやつ”やめろ!」


声がちょいデカくなる。


近くの海の島の人が一瞬こっちを見る。


見られると恥ずかしい。恥ずかしいと、戻りたくなる。最悪の導線。


私はピンク尻尾を押さえて、吐き捨てる。


「……帰る。今日こそ帰る」


ハルが言う。


「じゃあ帰りましょう。狐さん、今“店に殺される前の顔”してます」


「今の言い方ムカつく」


「でも当たってます」


自動ドアに向かって歩く。


背中で爆音が鳴る。ガンダムUCが叫んでる。


海が静かに笑ってる。


エヴァが、優しい顔で私を呼んでる。


私は言う。


「……機種名、全部私の悪口に見える」


ハルが言う。


「それ才能っす」


「褒めんな。ムカつく」

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