第21話 洗濯機は味方しない
引っ越しって、人生が変わる顔をする。
変わらない。住所だけ変わる。中身据え置き。最悪。
私はコハク。狐の獣人。女。
尻尾はピンクで封印。恥で止まるタイプ。
1
部屋が静か。静かすぎ。
静かだと心臓がうるさい。
うるさいと音が欲しい。
音って言うな。パチ屋が出る。
床の洗濯物。山。
勝手に育つ。自然現象。
スマホが震える。
ミツ『洗濯しろ。お前から終わりの匂いする』
ひどい。正しい。ムカつく。
レン『今日のミッション:洗濯(報酬:人権)』
人権を報酬にすんな。
ハル『洗剤あります?』
あるわけない。段ボール二つだぞ。
私は返す。『ない』
即レス。
ハル『買いに行きましょ』
私は返す。『無理』
無理は便利。無料。乱用。
2
ピンポン。
覗き穴。ハル。
なんでここ知ってんの。怖い。
ドア開ける。
ハル「狐さん、洗濯から逃げてますね」
私「逃げてない。考えてる」
ハル「考えてる顔じゃないっす。干からびる顔っす」
言い方ムカつく。
ハル、コンビニ袋をガサガサ。
洗剤。柔軟剤。洗濯ネット。
あと、尻尾用って書いてある消臭スプレー。
私「尻尾用って何」
ハル「100均の奇跡っす」
奇跡を生活に混ぜるな。
ハル「今日の勝ち、洗濯っす」
私「洗濯で勝ち扱いになる人生終わってない?」
ハル「終わってるから勝ちなんすよ」
刺すな。雑に。
3
洗濯機の前。問題。
ピンク尻尾カバー。これ洗う?
恥の道具。盾。たまに凶器。
私「これ洗ったら負ける気がする」
ハル「洗わない方が負けっす」
私「なんで」
ハル「臭いは最悪っす」
最悪は私の担当だろ。取るな。
尻尾カバー、洗濯ネットへ。
胸がちょい痛い。生活の痛み、雑。
ピンポン無しでミツ入場。
治安終わってる。
ミツ「お、やってる。えらい」
私「えらいって言うな!」
ミツ「じゃあ臭くない。褒め言葉これ」
レンも来る。ゲーム機叩きながら。
家でやるな。いや家だからやるのか。
レン「洗濯ってガチャより残酷」
私「は?」
レン「戻ってくるけど色落ちする」
名言ぶるな。
アオイも来る。蛍光。目が痛い。
アオイ「洗濯ビート! 回転は正義!」
回転を正義にすんな。思い出すだろ。
4
洗濯機止まる。フタ開ける。
白T、うっすらピンク。
尻尾カバー、色移り。
私「……終わった」
ハル「終わってないっす。薄ピンクっす」
ミツ「薄ピンク、似合うだろ」
アオイ「優しい色! 今日のコハク、優しそう!」
レン「レアスキン化。勝ち」
勝ちじゃない。白返せ。
鏡の前。着る。
……ちょい可愛い。
最悪。可愛いは敵。余計な自尊心が芽生える。
私「可愛いって思った自分がムカつく」
レン「それ正常」
ミツ「正常つまんない。もっと終わってけ」
アオイ「終わりながら洗濯できたら勝ち!」
うるさい。全員うるさい。
ハル、レシート裏メモ。
洗濯した
尻尾カバー洗った
パチ屋行ってない
返信してない(※ユメカネ)
私「最後だけ急に重くすんな」
ハル「重くしないっす。背景っす」
そう。背景でいい。今日は洗濯が主役。
5
干す。ベランダ。風。
ピンクTが揺れる。
揺れるのに負けじゃない。
その事実が気持ち悪い。ちょい助かる。
私「引っ越してよかったのかな」
ミツ「知らん。でも臭くない」
レン「臭くない=人権」
アオイ「臭くないビート最高」
ハル「今日の勝ち、洗濯っす」
私はピンク尻尾引っ張る。
「……最悪」
でも今日はマシな最悪。
洗濯機一回で生活が少し整う。ムカつくけど。




