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パチ中の狐、今日も溶ける  作者: もや兄


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第11話 ゲーセンはセーフ

夜の街って、どこも光ってる。


光ってる場所はだいたい金が消える。パチ屋も、コンビニも、人生も。


私はコハク。狐の獣人。女。


尻尾は今日もピンクで封印。恥でしか自分を止められない。終わってる。


今日はパチ屋に行かない。


そう決めた日ほど、行きたくなる。脳が性格悪い。


スマホが震える。レンから。


『ゲーセン行こ。パチ屋よりマシ。たぶん』


たぶんって言うな。


でも“マシ”って言葉には、ちょっとだけ救いがある。ムカつくけど。


ミツも来た。ヤニカス。


アオイも来た。DJ。


なぜか私の人生、パーティが固定化してる。怖い。


駅前集合。レンはもうゲーム機をいじってる。


歩きながらでもやってる。猫ってバランス感覚いいのムカつく。


「コハク、今日は“溶けない場所”に行く」


レンが言う。顔は画面。言葉だけ飛んでくる。軽い。信用できないのに、頼りたい。


私は言った。


「溶けない場所なんてない。形が違うだけ」


ミツが笑って煙を吐く。


「まあな。でも今日は溶け方を変える日」


変えるな。溶ける前提やめろ。


アオイが私のピンク尻尾を見て言う。


「ゲーセンの光って、パチ屋より優しいよ。音も」


音。


その単語で胸がちょっとだけ動く。


動くのが嫌。私は音に弱い。狐じゃなくて人間として弱い。


ゲーセンに入る。


明るい。うるさい。甘い匂い。


でもパチ屋の空気とは違う。肺が「ここはまだセーフ」って言う。


肺が判断すんな。脳の役目だろ。


「うわ、落ち着く」


口に出してから、私は自分にキレそうになった。


レンが即言う。


「落ち着く=危ない、ね」


「黙って。先回りすんな」


ミツが言う。


「パチ屋に戻るくらいなら、ここで千円溶かせ」


溶かすな。溶かすって言葉はパチ屋だけで十分だろ。


私は財布を開く。


千円札が一枚。小銭。


“今日はこれだけ”って決めた金額。


決めた瞬間、脳が反発する。


“もっといける”って言う。


可能性って顔して刺してくる。いつも。


レンが私の財布を見て言う。


「千円縛り、いいね。今日はガチャじゃなくて対戦」


「対戦って何」


レンが指で奥を指す。


「音ゲー。あれ、ちゃんと上手くなると気持ちいい。パチみたいに“運”じゃないから」


運じゃない。


それ、怖い。


運が悪いせいにできないから。


でも運が悪いせいにしてきたのも、私だ。


ムカつく。


音ゲーの前。


画面が眩しい。ボタンが光る。音がでかい。


アオイが目を輝かせる。


「これ、ビートが正しいやつ!」


DJはそういうところがある。音に宗教みたいな顔する。パチ屋の客と同じ。嫌いじゃない。ムカつく。


レンが私に言う。


「コハク、簡単のでいい。押すだけ。リズムに乗るだけ」


“だけ”って言葉は嘘だ。


人生で“だけ”で済んだことない。


でも私はカードを入れる。


千円が吸い込まれる。


吸い込まれる音が、嫌に気持ちいい。


やめろ。これ、パチ屋の両替と同じ快感だ。


形式が違うだけで、私の脳は同じところを撫でられてる。


曲が始まる。


最初はボロボロ。


ミス。ミス。ミス。


画面に「BAD」が出るたび、私の生活にも「BAD」が出る気がする。


私は言う。


「……無理。才能ない」


レンが言う。


「才能じゃない。慣れ。猫は慣れで勝つ」


「種族差別やめろ」


ミツが横から言う。


「慣れは強いぞ。ヤニも慣れで吸ってる」


「それ強さじゃない」


「強さだよ。やめられないって意味で」


最悪の強さ。


二曲目。


少しだけ当たる。


少しだけ、手が追いつく。


その瞬間、胸の奥が軽くなる。


“できた”って感覚。


これが怖い。


できたら、もっとやりたくなる。


もっとやったら、金が消える。


金が消えたら、またパチ屋に戻る言い訳ができる。


私は手を止めそうになる。


アオイが言う。


「コハク、今の、ちゃんと乗れてた」


偉いって言われるのは嫌なのに、


乗れてたって言われると、ちょっとだけ嬉しい。


音の言葉は、私の抵抗をすり抜ける。


レンが言う。


「ここで終わり。千円縛り守れたら勝ち」


私は言った。


「……終わりって言うな。まだいける」


言った瞬間、自分で分かる。


これ、パチ屋の私だ。


“まだいける”は負けの呪文。


ミツが私のピンク尻尾を指でつつく。


「尻尾、揺れてる」


「実況すんな!」


レンがやっと私の顔を見る。


「コハク。ゲーセンはセーフっぽい顔してるけど、こっちも“戻る導線”あるよ」


戻る導線。


そう。


私は場所じゃなくて、導線に負ける。


私は息を吐いて、財布を閉じた。


「……今日は終わり」


言えた。


言えたことが、ちょっとだけ嬉しい。


嬉しいのが怖い。嬉しいとまた欲しくなるから。


帰り道。


パチ屋の看板が光ってる。


相変わらず優しい顔で「おかえり」って言ってくる。


私は一瞬だけ足が止まりかけて、止める。


レンが言う。


「今、戻りかけた」


「してない」


「してた。猫には分かる」


「猫の人相占いムカつく」


アオイが笑う。


「今日はゲーセンで止まれた。ちゃんと勝ち」


ミツが煙を吐く。


「パチ屋じゃなくて帰れたなら、千円が守れたなら、それでいい」


私はピンク尻尾を握って、いつもの言葉を言った。


「……最悪」


でも今日は、溶けなかった。


ゲーセンの光の中で、私の手が少しだけ“自分のもの”だった。


それが、今日の勝ち。

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