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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
オープンの章

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第97話 開館前日



第三アクアリス水族館。


その夜は、いつもより静かだった。


明日。


ついに開館日。


館内の照明は最低限だけが灯され、巨大水槽の青い光だけがゆっくりと揺れている。


まるで海そのものが息をしているようだった。


中央エリアでは、館長が最終チェックの書類を見ていた。


「……これで全部、問題なし」


飼育員が頷く。


「設備も展示も完璧です」


「うん、ありがとう」


館長はペンを置き、少しだけ目を閉じた。


長い準備だった。


そして、ようやくここまで来た。



その頃。


アクアリスたちはそれぞれの場所で過ごしていた。


ヒメタツは海藻エリアのベンチに座っていた。


リーフィーシードラゴンと並んでいる。


「いよいよ明日ですわね」


「うん」


リーフィーシードラゴンはいつも通り落ち着いている。


しかしその目は、どこか柔らかかった。


「不思議な感じ」


「何がですの?」


「ずっとここにいたのに、明日からは“見られる側”になるんだよね」


ヒメタツは少しだけ考えて、笑った。


「それもまた、悪くないですわ」


二人は海藻の揺れる水槽を見上げた。


光がゆっくり流れていく。


まるで時間そのものが水の中に溶けているようだった。



深海エリア。


ニシオンデンザメは巨大な岩の上で横になっていた。


メガマウスザメが隣にいる。


ジンベエザメは少し離れた場所で水槽のガラスを見ていた。


「明日かのう」


ニシオンデンザメがぽつりと言う。


「そうですね」


メガマウスザメは静かに答える。


ジンベエザメはゆっくりと泳ぎながら言った。


「たくさんの人が来ますね」


「来るじゃろうな」


「……少し緊張します」


メガマウスザメのその言葉に、ニシオンデンザメは笑った。


「緊張するのも悪くないぞい」


「そうですか」


「うむ。ワシも若い頃はガチガチじゃった」


ジンベエザメが少し驚く。


「想像できません」


「今でもじゃ」


その言葉にメガマウスザメが小さく笑った。


静かな深海エリアに、穏やかな空気が流れる。



珊瑚エリア。


ミズクラゲがくるくると回っていた。


「明日だってー!」


「落ち着いてください」


ウデフリツノザヤウミウシが優しく声をかける。


ハダカカメガイも静かに揺れている。


カブトガニはゆっくり歩いていた。


「明日は多くの来館者が来るでしょう」


「楽しみだね!」


ミズクラゲは止まらない。


「絶対楽しいよ!」


「ふふ」


ウデフリツノザヤウミウシが微笑む。


「みんなに見てもらえるのは嬉しいですね」


カブトガニは少し考えてから言った。


「我々の存在が、誰かの記憶になるのなら、それは良いことです」


ミズクラゲはその言葉を聞いて一瞬止まり、そして大きく頷いた。


「うん!」



アマゾンエリア。


デンキウナギは照明を調整していた。


ミナミメダカが隣でチェックリストを見ている。


「ここOKです!」


「問題ありません」


デンキウナギは淡々と答える。


しかしその表情はどこか柔らかい。


ミナミメダカは笑った。


「明日、楽しみですね!」


「……えぇ」


短い返事。


だが確かにそこには感情があった。


デンキウナギは少しだけ手を動かし、微弱な電流を流した。


壁の装置が静かに光る。


「異常なし」


「すごい!」


ミナミメダカは拍手した。


デンキウナギはほんの少しだけ目を細めた。



夜。


中央エリア。


アクアリスたちが自然と集まっていた。


ヒメタツ。


リーフィーシードラゴン。


ニシオンデンザメ。


メガマウスザメ。


ジンベエザメ。


ミズクラゲ。


ハダカカメガイ。


ウデフリツノザヤウミウシ。


カブトガニ。


デンキウナギ。


ミナミメダカ。


そしてフウセンウオ。


館長もそこに立っていた。


誰も大きな声を出さない。


ただ、静かに明日を待っている。


館長がゆっくり言った。


「明日、この水族館は開館します」


その言葉に、空気が引き締まる。


「みんなの力で、ここまで来ました」


ヒメタツが小さく頷く。


「えぇ」


ミナミメダカも笑う。


「がんばりました!」


ジンベエザメは優しく言う。


「きっと素敵な日になります」


ミズクラゲは跳ねるように動く。


「絶対楽しい!」


ニシオンデンザメは大きく笑った。


「祭りじゃのう!」


メガマウスザメは静かに空を見上げた。


「……始まる」


その時だった。


館長が一瞬だけ、言葉を止める。


窓の外。


海の向こう。


夜の水平線。


何も見えないはずのそこに。


ほんの一瞬だけ。


黒い影のようなものが揺れた。


しかしすぐに消える。


館長は気付いていた。


だが何も言わない。


ただ静かに目を閉じる。


そして再び開いた時。


そこにはいつもの穏やかな表情があった。


「明日に備えて、今日は解散しましょう」


アクアリスたちは頷く。


少しずつ散っていく。


だが誰もが同じ気持ちだった。


明日。


すべてが始まる。


第三アクアリス水族館。


その扉が開く日が、すぐそこまで来ていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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