第95話 月光の守護者たち
第三アクアリス水族館。
オープンを目前に控えた館内は、かつてないほど慌ただしくなっていた。
しかし、その慌ただしさは来館者を迎えるための準備だけではない。
アビス。
海の闇から現れる謎の存在。
その数が急激に増えていたのだ。
館内放送が鳴り響く。
館長の声だった。
「各アクアリスへ連絡します。アビス撃退用大水槽に多数のアビス反応を確認。各チームは担当エリアへ向かってください」
その言葉を聞いたアクアリスたちは一斉に動き出した。
中央エリア。
ヒメタツが小さな拳を握る。
「皆さん!行きますわよ!」
隣にはリーフィーシードラゴン。
そしてミナミメダカ。
「はい!」
「うん」
三人は月光強化ガラスをすり抜け、水槽管へ飛び込んだ。
一方その頃。
深海エリア。
ニシオンデンザメは豪快に笑った。
「久しぶりの大仕事じゃのう!」
メガマウスザメは静かに頷く。
「……いっぱい来てる」
その隣にはジンベエザメ。
「皆様、お怪我だけはなさらないでくださいね」
「うむ!」
「行こう」
三人もまた出撃した。
さらに別の通路。
デンキウナギが長い黒髪を揺らしながら歩いていた。
その隣にはミナミメダカから応援要請を受けたフウセンウオ。
「いっぱい来てるの?」
「そうみたいですね」
「がんばる!」
「えぇ」
館内の各所でアクアリスたちが動き始める。
まるで開館前の総力戦だった。
◇
アビス撃退用大水槽A。
ヒメタツたちが到着した瞬間だった。
アビスたち。
「アアアアアアアアアア……!!」
十数体。
しかも全てが中型。
ヒメタツが目を見開く。
「多いですわね!?」
リーフィーシードラゴンは冷静だった。
「慌てない」
ミナミメダカも頷く。
「はい!」
黒い触手が一斉に伸びる。
ヒメタツが前へ出た。
「ひめごとバブル!!」
無数の月光泡が飛ぶ。
泡は触手へ命中。
爆ぜる。
アビス。
「アアアアアッ!?」
だが数が多い。
左右から迫る。
その瞬間。
海藻のような月光が広がった。
リーフィーシードラゴンだった。
「リーフガーデン」
無数の海藻状エネルギーがアビスを絡め取る。
動きが止まる。
「今」
「はい!」
ミナミメダカが飛び出した。
月光の粒が尾を引く。
「メダカストリーム!」
激流のような一撃。
絡め取られたアビスたちをまとめて吹き飛ばした。
「アアアアアアアッ!!」
消滅。
残るは数体。
ヒメタツが笑う。
「いけますわ!」
三人はさらに前へ進んだ。
◇
アビス撃退用大水槽B。
深海チーム。
ニシオンデンザメたちの前には巨大なアビスがいた。
通常個体の三倍はある。
ニシオンデンザメ。
「でかいのう!」
ジンベエザメ。
「これは少々厄介ですね」
メガマウスザメ。
「……来る」
大型アビス。
「アアアアアアアアアアア!!」
衝撃波。
水が震えた。
ニシオンデンザメは笑う。
「ならば真正面からじゃ!」
二刀の月光剣を抜く。
「長命・双牙斬!!」
閃光。
巨大な斬撃が走る。
アビスの身体を切り裂く。
しかし再生。
ジンベエザメが前へ出る。
「あたくしも参ります」
両手を広げる。
巨大な渦が生まれた。
「アクアトルネード!」
轟音。
渦潮がアビスを飲み込む。
だが完全には倒れない。
その時だった。
メガマウスザメが静かに拳を握る。
「終わり」
月光が拳へ集中する。
水槽全体が白く輝いた。
「メガトンブロー」
一撃。
巨大アビスへ直撃。
「アアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
大爆発。
黒い霧が弾けた。
沈黙。
ジンベエザメが目を丸くする。
「すごい……」
ニシオンデンザメは大笑いした。
「はっはっはっ!相変わらずじゃのう!」
メガマウスザメは首を傾げる。
「……終わった?」
「終わったのじゃ!」
◇
アビス撃退用大水槽C。
デンキウナギたちも戦っていた。
大量の小型アビス。
フウセンウオが吸盤付きの靴で壁を蹴る。
「えいっ!」
アビスへ体当たり。
吹き飛ぶ。
しかし次々現れる。
デンキウナギが静かに前へ出た。
長い黒髪が揺れる。
「下がってください」
腕が光る。
発電器官。
青白い電流。
バチバチと空間を走る。
アビスたち。
「アアアア……!?」
デンキウナギは腕を振るった。
「ライトニングネット」
網状の電撃。
大量のアビスを包み込む。
次の瞬間。
閃光。
轟音。
「アアアアアアアアアアッ!!」
一斉消滅。
フウセンウオが目を輝かせる。
「すごーい!」
デンキウナギは少しだけ微笑んだ。
「まだ終わっていません」
しかし。
周囲を見る。
もうアビスはいなかった。
静寂。
どうやら撃退成功らしい。
◇
数時間後。
中央エリア。
各チームが戻ってきていた。
ヒメタツ。
「ふぅ~!」
ミナミメダカ。
「終わりましたね!」
リーフィーシードラゴン。
「うん」
ニシオンデンザメ。
「良い運動じゃった!」
メガマウスザメ。
「ちょっと疲れた」
ジンベエザメ。
「皆様お疲れ様です」
フウセンウオ。
「がんばったー!」
デンキウナギも静かに頷く。
そこへ館長が現れた。
「みんな、お疲れ様」
アクアリスたちが振り返る。
館長は少しだけ表情を引き締めていた。
「今回のアビス発生数は過去最大だったわ」
その言葉に空気が変わる。
ニシオンデンザメ。
「ふむ……」
ヒメタツ。
「やはり増えておりますのね」
館長は頷いた。
「えぇ」
少しだけ沈黙が流れる。
しかし。
館長は優しく微笑んだ。
「でも、みんながいてくれるから安心よ」
その言葉に。
アクアリスたちは顔を見合わせる。
そして。
それぞれ頷いた。
第三アクアリス水族館。
オープンの日は近い。
だが深海の闇は確実に動いていた。
誰も知らない海の奥底で。
黒い影が静かに目を開く。
まるで何かを待つように。
そして水族館では。
それを知らないアクアリスたちの笑い声が今日も響いていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




