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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
最終章

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第93話 電気のやさしさ



第三アクアリス水族館。


オープン前。


館内にはいつものように穏やかな時間が流れていた。


小魚エリア。


壁に埋め込まれた小型水槽が並び、小さな魚たちが泳いでいる。


展示用の解説板もほぼ設置が終わり、飼育員たちは最終確認に追われていた。


そんな中。


小さな少女がせっせと荷物を運んでいた。


ミナミメダカ。


「よいしょ、よいしょ……!」


小さな身体で箱を抱えて歩く。


額にはうっすら汗。


それでも表情は明るい。


ミナミメダカ。


「棘鰭上目 ダツ目 メダカ亜目 メダカ科 メダカ亜科 メダカ属 ミナミメダカ」


日本在来種の小型淡水魚で緩やかな川や水田に生息し身近な存在でしたが環境悪化により絶滅危惧種に指定されています。アクアリスとなったミナミメダカは頑張り屋でお手伝いが大好き。


「あと少しで終わります!」


そう言って歩いていた時だった。


ふらっ。


身体が少し揺れる。


「あれ……?」


昨日もお手伝い。


一昨日もお手伝い。


最近はオープン準備で忙しかった。


疲れが溜まっていたのかもしれない。


「だ、大丈夫……」


そう言った瞬間。


抱えていた箱が傾いた。


「あっ!」


すると。


ぱしっ。


細長い黒い鞭のようなものが伸びて箱を支えた。


「危ない。」


静かな声。


ミナミメダカが顔を上げる。


そこには長い黒髪を揺らす少女が立っていた。


漆黒の髪は腰まで届いている。


どこか大人びた雰囲気。


腰には一本の鞭。


その表面では青白い電気がぱちぱちと走っていた。


デンキウナギだった。


「デンキウナギ:『デンキウナギ目 デンキウナギ亜目 ギュムノートゥス科 デンキウナギ属 デンキウナギ』ウナギとついているがウナギの仲間ではなくナマズの仲間に近い、空気呼吸をし視力は低いが弱い電気で敵を探りつよい電気でしびれさせ食べる。最大800Vの電圧を出す。アマゾン川などに生息する。デンキウナギは体のなかに2つの発電器官を持ち弱い電気のレーダーで相手を探し電気の乱れを感じ敵を発見する、乱れを感じる器官が顔にある無数の穴である。アクアリスとなったデンキウナギは両腕の筋肉が発電器官になっていてそこから電気を生成し操る、腰についているムチは攻撃用で電気を通しやすい素材でできていてこれを敵に巻き付けて電気を流し仕留める。飼育員やアクアリス達の疲れや肩こりを弱い電気で癒したりしている。長い黒髪はとても美しい」


「大丈夫?」


「あ、ありがとうございます!」


ミナミメダカはぺこりと頭を下げた。


デンキウナギは小さく頷く。


「無理しすぎ。」


「え?」


「少し疲れてる。」


ミナミメダカは目をぱちぱちさせた。


「わかるんですか?」


「なんとなく。」


静かな声。


だがその瞳は優しかった。


「最近ずっと手伝ってた。」


「はい!」


「頑張るのはいいこと。」


少しだけ間を置く。


「でも倒れたら意味ない。」


ミナミメダカは苦笑した。


「そうですよね……」


その時だった。


ぱち。


デンキウナギの指先に小さな電気が灯る。


「ちょっとだけ。」


「え?」


「肩。」


ミナミメダカは首を傾げる。


デンキウナギはそっと肩へ指を置いた。


ぱち。


微かな電流。


痛みはない。


むしろ。


「あれ?」


肩が軽い。


「すごい!」


「疲労軽減。」


「魔法みたいです!」


「電気。」


「すごいです!」


ミナミメダカの目がきらきら輝く。


デンキウナギは少しだけ照れたように視線を逸らした。


「大したことじゃない。」


「大したことありますよ!」


ミナミメダカは元気よく答える。


すると。


近くを通った飼育員が声を上げた。


「あっ、デンキウナギちゃん!」


デンキウナギが振り向く。


「どうしたの?」


「肩がガチガチなんだけどお願いできる?」


「いいよ。」


慣れた様子で近づく。


指先から微弱な電流。


ぱちぱち。


数秒後。


飼育員が驚いた顔をした。


「軽い!」


「よかった。」


「助かった~!」


飼育員は笑顔で去っていく。


ミナミメダカは感心した。


「人気者なんですね!」


「そうかな。」


「絶対そうです!」


すると今度は別の方向から声が聞こえた。


「デンキウナギちゃーん!」


「腰がー!」


「肩がー!」


「首がー!」


次々に飼育員たちが集まってくる。


デンキウナギは少し困った顔になった。


「順番。」


「はーい!」


ミナミメダカは思わず笑った。


まるで病院の待合室だった。


ぱち。


ぱち。


ぱち。


弱い電気が流れるたびに。


「おおー!」


「軽くなった!」


「助かる!」


歓声が上がる。


デンキウナギは一人一人丁寧に対応していた。


誰一人嫌な顔をしない。


淡々としているが優しい。


それが伝わってくる。


しばらくして。


ようやく人がいなくなった。


「お疲れ様です。」


ミナミメダカが声をかける。


「慣れてる。」


「でも大変そう。」


「皆頑張ってるから。」


静かな返事。


ミナミメダカは少し嬉しくなった。


「優しいんですね。」


「そう?」


「はい!」


即答だった。


デンキウナギは少しだけ笑う。


本当に少しだけ。


けれど確かに笑った。


その時。


顔を上げたデンキウナギが遠くを見る。


「……?」


「どうしました?」


「今。」


「はい?」


「少しだけ。」


長い黒髪が揺れる。


「変な電気の流れを感じた。」


ミナミメダカが首を傾げる。


「電気?」


「うん。」


しかし次の瞬間には首を横に振った。


「気のせいかも。」


「そうですか?」


「たぶん。」


それ以上は何も言わなかった。


小魚エリアには再び穏やかな空気が流れる。


展示水槽では小魚たちが泳ぐ。


飼育員たちは作業を続ける。


ミナミメダカも荷物運びへ戻っていった。


その背中を見送りながら。


デンキウナギはほんの少しだけ眉をひそめた。


確かに感じたのだ。


遠く。


ずっと遠く。


深海の方角から。


一瞬だけ混じった異質な気配を。


だがそれはあまりにも微弱だった。


気のせいと思えるほどに。


だから彼女は何も言わなかった。


オープンまであと少し。


第三アクアリス水族館は今日も平和だった。


まだ誰も知らない。


深海で静かに広がり続ける異変のことを。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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