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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
最終章

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第92話 珊瑚の海と、静かな予感



第三アクアリス水族館。


オープンの日はもうすぐそこまで迫っていた。


各エリアでは最終調整が進み、飼育員たちは展示内容の確認や清掃、案内板の設置に追われている。


それでも館内には慌ただしさよりも、不思議と穏やかな空気が流れていた。


まるで嵐の前の静けさ。


そんな言葉が似合うほどに。


その頃。


珊瑚エリア。


色鮮やかな珊瑚礁が広がる大水槽の前では、小さな少女が楽しそうに歩いていた。


ミズクラゲ。


「わぁ~!ここの珊瑚ほんとに綺麗~!」


透明感のある髪を揺らしながら、あちこちを見回している。


巨大なテーブルサンゴ。


枝分かれしたミドリイシ。


赤や青や紫の魚たち。


どれもこれも目を輝かせるものばかりだった。


「オープンしたら絶対人気になるよね~!」


そう言ってくるりと回転する。


すると。


近くの珊瑚の陰から小さな声が聞こえた。


「そうですね。」


ミズクラゲが振り向く。


そこにいたのは黄色と黒を基調にした少女だった。


尻尾のような触角がゆらゆらと揺れている。


ウデフリツノザヤウミウシ。


「ウデフリツノザヤウミウシ:『後鰓目 裸鰓亜目 フジタウミウシ上科 フジタウミウシ科 ミズタマウミウシ属 ウデフリツノザヤウミウシ』インド洋、西太平洋、メキシコ湾などに生息。黄色から山吹色の体色に触覚、突起、尾の先端が黒や青に染まっている。別名『海のピ◯チュウやピ◯チュウウミウシ』として有名でダイバーからも人気。水深10メートルほどの砂底に住む、藻を食べ雌雄同体。触覚の根本にある腕のような指状突起をフリフリ動かして歩く様子が観察される。アクアリスとなったウデフリツノザヤウミウシは尻尾に見える触覚と頭の触覚があり尻尾のような触覚は感情が高ぶるとフリフリとゆれて頭の触覚は警戒しているとフリフリとゆれる。落ち着いていて礼儀正しい」


「こんにちは。」


「こんにちは~!」


ぺこりと頭を下げるウデフリツノザヤウミウシ。


対してミズクラゲは元気いっぱいに手を振る。


「見回り?」


「はい。珊瑚の状態を確認していました。」


「すごーい!」


「いえ、それほどでも。」


その時だった。


ごとん。


どこかで小さな音がした。


二人が視線を向ける。


そこには大きな背中を持つ少女がいた。


ひっくり返っている。


「あ。」


「またですか。」


仰向けになって手足をばたばたさせていた。


カブトガニだった。


「むむむ~。」


「大丈夫!?」


ミズクラゲが駆け寄る。


カブトガニ。


「カブトガニ:『カブトガニ目 カブトガニ科 カブトガニ亜科 カブトガニ属 カブトガニ』ドーム状の殻に剣のような尾を持った背中全体が背甲でその下に脚などの付属肢が隠れている。カニと名前につくがカニ類ではなく蜘蛛やサソリに近い。血が青く大昔から姿を変えず生きてきた『生きた化石』である。背泳ぎで泳ぎ行きたい場所につくと落下して逆さまのまま着地し起き上がる。起き上がれないと死んでしまうらしい。アクアリスとなったカブトガニは巡回をして暇をつぶしている。少しのんびりとした口調が特徴」


「いやぁ~。」


「大丈夫?」


「ちょっと転んだだけです~。」


「ちょっとじゃないよ!?」


ウデフリツノザヤウミウシがそっと手を貸す。


ようやく起き上がったカブトガニはほっと息を吐いた。


「助かりました~。」


「巡回中だったの?」


「そうですよ~。」


のんびりと答える。


「異常はありませんでした~。」


「それならよかった!」


ミズクラゲが笑う。


その時。


ひらり。


透明な羽のようなものが視界を横切った。


「あ。」


三人が振り向く。


白く透き通った髪の少女が静かに歩いてきていた。


ハダカカメガイ。


「ハダカカメガイ:『翼足目 裸殻翼足亜目 ハダカカメガイ科 ハダカカメガイ亜科 ハダカカメガイ属』クリオネや流氷の天使として知られている。殻を持たない巻貝の仲間でオホーツク海などに生息。透明な身体と翼足を羽ばたかせて泳ぐ。大きいもので3cmほどになり肉食でミジンウキマイマイなどを捕食し捕食シーンを見れるのは珍しい。捕食する時はバッカルコーンと呼ばれる6本の触手を出して捕食しその姿は天使とは似ても似つかない。アクアリスとなったハダカカメガイは落ち着いていて面倒見がよく海獣の幼体の世話などもやっていたりする。』


「皆さんこんにちは。」


柔らかな声だった。


「こんにちは~!」


「こんにちは。」


「こんにちはです~。」


四人が揃う。


珊瑚エリアには穏やかな空気が流れていた。


ハダカカメガイは周囲を見回した。


「順調そうですね。」


「うん!」


「オープンまであと少しですから。」


「楽しみですね~。」


それぞれの言葉。


そこには期待があった。


第三アクアリス水族館。


新しい仲間。


新しい展示。


そして新しい出会い。


来館者たちの笑顔を想像するだけで少し嬉しくなる。


ミズクラゲが水槽を見上げる。


珊瑚の隙間を小魚たちが泳ぐ。


光が反射し、水面が揺れる。


とても平和だった。


本当に。


どこまでも。


「早くお客さん来ないかな~。」


「きっと喜んでくれますよ。」


「そうですね。」


「たくさん来るといいです~。」


四人は並んで大水槽を見つめる。


穏やかな時間。


静かな笑顔。


しかし。


誰も気付いていなかった。


遥か深海。


光の届かない闇のさらに奥。


第三アクアリス水族館から遠く離れた海底で。


黒い霧がゆっくりと蠢いていたことを。


それはこれまでのアビスとは少し違っていた。


まるで何かを探しているように。


まるで何かを待っているように。


静かに。


静かに。


深海の闇の中で目覚め始めていた。


だが今はまだ誰も知らない。


珊瑚エリアには笑い声が響いている。


オープンを目前に控えた第三アクアリス水族館。


今日も今日とて平和だった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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