第8話「深海組、探検計画」
ここは、アクアリス達が暮らしているアクアリス水族館。
今日も今日とて平和です。
館内の中でも特に静かな区域――深海エリア。
そこは全体的に照明が落とされており、青く淡い光だけがゆっくりと空間を照らしている。水槽の中では深海生物たちが静かに漂い、時折機械の低い駆動音だけが響いていた。
「わぁ〜い!!」
そんな静かな空間に、元気いっぱいの声が響く。
ダイオウグソクムシの少女は、通路をぴょこぴょこと歩き回っていた。
「今日も静かですね。あなたの声が響き渡るほどに。でも、それもいい.....」
センジュナマコは、ゆっくりと壁際に腰を下ろしながら呟く。
「え?そう?」
「えぇ、」
深海エリアの空気は独特だった。
騒がしい場所ではない。だからこそ、小さな声もよく響く。
「ダイオウちゃんは元気だぁ〜ね〜」
間延びした声が聞こえる。
見ると、オレンジ色の髪をした少女が床にぺたんと寝転がっていた。
「メンダコ...」
「メンダコちゃん!また潰れてるよ〜?」
「これは生態なので大丈夫〜〜」
メンダコ:「八腕形目 ヒゲダコ亜目(有触毛亜目) メンダコ科 メンダコ属 メンダコ」深海性のタコの仲間であるため、詳しい生態は不明である。水深200〜1000mの深海に生息、平たいUFOのような形をした小型のタコで全長約20cm。耳のようなヒレをパタパタ動かしてふわふわと泳ぎ、墨を吐かず、匂いが強い。デリケートで長期飼育が難しく「深海のアイドル」として人気。底生生物などを食べる。深海の高い水圧下で身体を維持する構造で低圧では支えがないためぺったんこになる。
「深海のアイドル〜メンダコちゃんは〜お疲れなのです〜」
「ただ寝てるだけ、」
センジュナマコの冷静なツッコミが入る。
「メンダコちゃんが起きてるとこ見たことないよ〜〜?」
「たまには動いてますよ〜たまには〜ね〜~~」
メンダコはぺたんと床に張り付きながら、ゆるゆると手を振る。
そんな三人のもとへ、足音が近づいてきた。
「みんな、こんにちは」
「あ、飼育員さん」
センジュナマコが振り返る。
「飼育員さん?どうされました?」
「いや、みんなの様子を見にね、元気そうだ」
「元気だよ〜〜〜」
「元気ですよ〜〜」
ダイオウグソクムシは勢いよく手を上げ、メンダコは寝転がったまま答える。
「メンダコはあいかわらずだね」
「おきになさらず〜〜」
飼育員は苦笑する。
「深海生物のアクアリスは未知だからね。気になるよ。」
「まぁ、私達は深海生まれですし、」
センジュナマコは静かに答えた。
「深海でも〜、暇だったから〜でてきたんだよね〜〜」
「そうだね〜」
メンダコもゆるく頷く。
「ははは.....でも、君たちを見ることによってなにかわかるかもしれないからね。定期的に観察をするよ。」
「アイドルみたい」
ダイオウグソクムシが嬉しそうに言う。
「そうですか?」
「アイドルは〜私〜〜だよ〜〜〜」
メンダコがぺたんとしたまま片手を上げた。
飼育員は思わず吹き出す。
「あははっ、それじゃあね、私は点検があるから」
「はーい」
三人の声が重なる。
飼育員が去っていくと、再び深海エリアには静けさが戻った。
しかし、その静寂は長くは続かない。
「ねぇねぇ!今度さ、探検しない?」
ダイオウグソクムシが突然言い出した。
「探検、ですか?」
センジュナマコが首をかしげる。
「他のアクアリスにもあってみたいし!」
目を輝かせながら、ダイオウグソクムシは続ける。
「めんどう〜」
メンダコは即座に床へ顔を埋めた。
「え〜〜!行こうよ〜!」
「うぅ〜〜……」
「いいですよ。ここにとどまっても、退屈ですから」
センジュナマコが静かに賛成すると、ダイオウグソクムシは勢いよく立ち上がる。
「それじゃあ決まりー!明日ね!」
「えぇ、」
「わかった〜」
「うふふっ、探検!楽しみ!!」
翌日。
深海エリアの入口には、三人の姿があった。
ダイオウグソクムシはやる気満々で、落ち着きなく動き回っている。
「よーし!行くよ〜〜!」
「うん〜~」
メンダコは相変わらずやる気が薄そうだ。
「はい、」
センジュナマコは静かに頷く。
まだ知らないエリア。
まだ会ったことのないアクアリス達。
未完成の水族館の中で、深海組の小さな探検が始まろうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




