第9話「はじめての探検案内」
ここは、アクアリス達が暮らしているアクアリス水族館。
今日も今日とて平和です。
開館前とはいえ、館内は少しずつ賑やかさを増していた。新しい展示、新しい設備、新しい生き物たち。準備途中の水族館は、毎日のように姿を変えていく。
そんな中――。
「さて!どこから行こうか、」
ロビーに集まった深海組の一行は、そこで早速立ち止まっていた。
「考えてなかったんですか、」
センジュナマコが静かにツッコむ。
「だって、あそこからほとんどでたことないし」
ダイオウグソクムシは胸を張って言った。
「そ〜だよ〜ね〜」
メンダコもふにゃっと頷く。
広いロビーにはまだ客こそいないが、吹き抜けの天井から光が差し込み、明るい空気が広がっていた。深海エリアとはまるで別世界だ。
「あ!!あそこ行こ!!」
突然ダイオウグソクムシが走り出す。
「あ、待ってください....!」
「行く〜〜〜」
慌ててセンジュナマコとメンダコも後を追う。
たどり着いた先は、大きな円柱水槽のある通路だった。
天井近くまで伸びる巨大な水槽の中では、小魚たちが群れを作って泳いでいる。照明に照らされた魚の鱗は、宝石のようにきらきらと輝いていた。
「わぁ〜〜!!」
ダイオウグソクムシは目を輝かせる。
「お魚いっぱい!」
「綺麗ですね……」
センジュナマコも静かに見上げた。
深海とは違う、明るく透き通った海の景色。
ゆったりと差し込む光。
揺れる水面。
それは彼女たちの知る“海”とは全く違っていた。
「深海と全然違う〜〜」
メンダコがぼんやり呟く。
その時だった。
「あれ?見ない顔だね!」
三人が振り向く。
そこには、小柄な少女が立っていた。オレンジと白のグラデーションの髪が、照明を受けて柔らかく揺れている。
「.....もしかして。深海エリアの子かな?」
「うん!私ダイオウグソクムシのアクアリスだよ!」
「センジュナマコ...です」
「メンダコだよ~!」
すると少女はにこっと笑った。
「私、カクレクマノミ!」
カクレクマノミ:「ギンポ目 スズメダイ科 クマノミ属 カクレクマノミ」スズメダイ科 クマノミ属に分類される。海水魚の一種、観賞用として人気が高い。サンゴ礁域でハタゴイソギンチャクなどと共生している。雄性先熟の雌雄同体魚であり、生涯中にオスがメスに性転換する。産卵後群れの中で一番大きい個体がメスに2番目に大きい個体がオスになる。その他は繁殖能力を持たない未成熟個体に留まる。群れのメスが死亡するなどで不在になるとオスはメスに1番大きい未成熟個体がオスになる。映画などで人気が上がったが映画のクマノミはカクレクマノミではなくクラウン・アネモネフィッシュ。初心者でも飼育しやすく、性格はおとなしい、産卵するときにイソギンチャクを噛み弱らせてから卵を生む、卵の産卵場所を確保するためである。カクレクマノミの特殊な粘膜のおかげでイソギンチャクに刺されない
「カクレクマノミ、クマノミちゃんだね!よろしく!」
「うん!よろしく!!」
カクレクマノミは元気いっぱいに返事をした。
「ここにはどうしたんです?」
「探検してるの〜」
「探検?」
「えぇ、じっとしていても鈍るだけですから」
センジュナマコの言葉に、カクレクマノミは「なるほど!」と頷く。
「たしかに!そうだ!せっかくだし、案内したげるよ!!こっちー!」
言うが早いか、カクレクマノミは勢いよく走り出した。
「わぁ〜い!」
ダイオウグソクムシも即座についていく。
「あ、」
「行こ〜〜」
メンダコまでふわふわ後を追い始める。
「..........はぁ、待ってください!」
結局センジュナマコも追いかけることになった。
通路を進みながら、カクレクマノミは次々と説明していく。
「ここは熱帯エリア!暖かい海の生き物がいっぱい来る予定なんだよ!」
「へぇ〜!」
「それであっちはサンゴ展示!まだ準備中だけどね!」
彼女は本当に楽しそうだった。
まるで自分の家を紹介しているみたいに、目を輝かせながら話している。
「浅い海って明るいですね」
センジュナマコがぽつりと呟く。
「そう?私は深海のほうが暗すぎてびっくりしたよ〜!」
「暗いのは落ち着く〜〜」
メンダコはのんびりと言う。
「私は明るい方が好きー!」
ダイオウグソクムシは元気いっぱいだ。
そんな会話をしながら歩いていると、館内のモニター越しにその様子を見守っている人物がいた。
館長室。
複数の防犯カメラ映像が並ぶモニターの前で、館長は小さく微笑んでいた。
「楽しそうね〜」
アクアリス達が笑いながら歩き回る姿を見て、どこか安心したように目を細める。
その時、扉がノックされた。
「館長!新しい生き物の準備が整いました」
飼育員が報告書を片手に入ってくる。
「あら、早いわね。ありがと」
館長は立ち上がりながら、再びモニターへ目を向けた。
そこには、楽しそうに探検を続ける深海組とカクレクマノミの姿。
「ついでに健康そうか、何人か連れて見てきてくれる?」
「はい!」
飼育員は頷き、急ぎ足で部屋を出ていった。
未完成の水族館。
けれどそこには、確かに“仲間たちの日常”が生まれ始めていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




