第87話 海藻エリアの小さな相談会
ここは、アクアリス達が暮らしている。オープン前の第三アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。
第三アクアリス水族館 海藻エリア。
大きな海藻水槽が並ぶ通路には、ゆったりとした空気が流れていた。
淡い緑色の髪を揺らす少女と館長は、水槽の前で資料を広げながら話し合っている。
「リーフィーシードラゴン:『ヨウジウオ目 ヨウジウオ科 ヨウジウオ亜科 リーフィーシードラゴン属 リーフィーシードラゴン』体長は20〜40cmほどで全身に枝分かれした褐藻ににた突起がありこれを皮弁と言う、この突起は皮膚が変化したものである。海藻そっくりに擬態している。プランクトンなどを食べる。オーストラリアの南西部の浅い海にのみ分布する。この生物の住む海域は天敵が多いため海藻に紛れ生き残ったと思われる。アクアリスのリーフィーシードラゴンはオーストラリアの第二アクアリス水族館からやってきた種であり人間の勉強が好きであるが、ストレスに弱く、あまりはかどっていないようだ」
海藻に擬態する不思議な魚のアクアリスである。
その時。
元気な声が響いた。
ヒメタツだった。
ヒメタツ
『トゲウオ目 ヨウジウオ科 タツノオトシゴ亜科 タツノオトシゴ属 ヒメタツ』
タツノオトシゴ類は外見がにており分類学的に混同され、2017年にタツノオトシゴとは頭部の突起が小さいこと、ハナタツと背びれの基底付近に側方へ張り出す突起があるとして新種として認定された。卵を抱えたメスがオスのお腹の袋(育児嚢)に卵を入れる、その姿はまるでハートに見える。卵を受け取り体を動かし袋の中で受精させる。約1ヶ月後の夜にオスは孵化した赤ちゃんヒメタツを生む。タツノオトシゴ類のアクアリスはアホ毛が生えておりヒメタツのアホ毛は小さい、水俣の海からやってきた、過去のトラウマか、水銀が嫌いであり昔は人間嫌いだったが、第一、第二アクアリス水族館の飼育員や館長や地元の人達とのふれあいによって、普段の性格に戻った、第三アクアリス水族館を作ることが決定した際、送られた最古参のアクアリスの一人。
「あら?リーフィーシードラゴンさん!館長さん!何をしていますの~?」
リーフィーシードラゴンは顔を上げる。
「おや、館内改築の調整をね」
館長も微笑んだ。
「えぇ」
ヒメタツは興味津々な様子で近寄ってくる。
「改築ですの?」
「小さい改良だけどね」
リーフィーシードラゴンが説明する。
「オープン前だから今のうちに見直しておこうと思って」
「なるほどですわ」
ヒメタツは頷いた。
館長が資料をめくる。
「海藻エリアは落ち着いた雰囲気だから、その良さをもっと活かしたいのよ」
「たしかにですわ」
ヒメタツは辺りを見回した。
緑色の海藻。
揺れる水流。
柔らかな照明。
確かに他のエリアとは少し違う。
「ここに来ると落ち着きますものね」
「うん」
リーフィーシードラゴンも静かに頷く。
「騒がしい場所も嫌いじゃないけど、ここは静かで好き」
「わたくしも好きですわ!」
ヒメタツが元気よく答える。
その勢いに館長がくすりと笑った。
「ヒメタツちゃんが静かな場所を好きっていうのは意外ね」
「失礼ですわ!?」
「ふふっ」
「わたくしだって本を読んだりしますのよ!」
「知ってるわ」
「ならよろしいですわ」
胸を張るヒメタツ。
その様子に二人はまた笑った。
館長は資料の一枚を差し出す。
「実はね、海藻の説明を増やそうと思っているの」
「説明ですの?」
「えぇ」
リーフィーシードラゴンが補足する。
「魚の説明を見る人は多いけど、海藻をじっくり見る人は少ないから」
「あぁ」
ヒメタツも納得した。
確かに来館者は魚へ目が向きやすい。
海藻は背景として見られることも多い。
「でも海藻も大切ですものね」
「うん」
「たくさんの生き物の隠れ家になる」
リーフィーシードラゴンは水槽を見つめる。
揺れる海藻の隙間では、小魚達が泳いでいた。
「海藻がなければ困る子も多い」
「なるほどですわ」
ヒメタツは感心したように頷いた。
館長が微笑む。
「だからもっと知ってもらいたいの」
「良い考えですわ!」
「ありがとう」
しばらく三人は資料を見ながら話し合った。
海藻の種類。
展示方法。
説明看板。
来館者の導線。
開館前だからこそできる調整がたくさんある。
ヒメタツは途中から完全に興味を持ってしまい、真剣な顔で資料を見始めた。
「ふむふむ……」
「どう?」
館長が尋ねる。
「難しいですわ」
即答だった。
館長とリーフィーシードラゴンが吹き出す。
「そうでしょうね」
「専門的だし」
「ですが面白いですわ!」
ヒメタツは楽しそうだった。
海藻にも色々な種類がある。
形も違う。
役割も違う。
知れば知るほど奥深い。
「水族館って凄いですわね」
「急にどうしたの?」
リーフィーシードラゴンが首を傾げる。
「だって!」
ヒメタツは資料を抱える。
「魚だけじゃなくて海藻もあって、珊瑚もあって、微生物もいて!」
「うん」
「全部が繋がっているんですもの!」
館長は満足そうに頷いた。
「その通りよ」
「一つだけでは成り立たない」
「海も同じ」
リーフィーシードラゴンの言葉にヒメタツは何度も頷く。
「勉強になりますわ……」
「珍しく真面目だね」
「なんですのその言い方は!」
再び笑い声が響いた。
その時だった。
近くの海藻水槽で小さな魚がぴょんと跳ねる。
三人の視線が自然と向く。
魚は海藻の間へ隠れていった。
「可愛いですわ」
「うん」
「海藻があるから安心できるんだね」
ヒメタツの言葉にリーフィーシードラゴンは少し驚いた顔をした。
「その考え方は好きだな」
「本当ですの?」
「うん」
館長も微笑む。
「素敵な表現ね」
ヒメタツは少し照れた。
「えへへ……」
海藻エリアには穏やかな時間が流れていた。
大きな海藻が揺れる。
魚達が泳ぐ。
アクアリス達が笑う。
まだ来館者はいない。
けれど確かに、この水族館は少しずつ完成へ近付いていた。
館長は資料を閉じる。
「よし、今日はここまでね」
「終わりですの?」
「えぇ」
「参考になった?」
「とても!」
ヒメタツは元気よく答える。
リーフィーシードラゴンも小さく頷いた。
「意外と良い意見もあった」
「意外とはなんですの!」
「ふふ」
穏やかな笑い声が響く。
海藻が静かに揺れる中、三人は並んで通路を歩き始めた。
オープンの日はまだ少し先。
けれど、その日を迎えるための準備は今日も着実に進んでいるのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




