第86話 古代から続く海の物語
ここは、アクアリス達が暮らしている。オープン前の第三アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。
第三アクアリス水族館 古代水生生物模型展示エリア。
巨大な古代魚の模型が並ぶ静かな空間。
館長と別れた後も、メガマウスザメとシーラカンスは展示エリアを歩いていた。
足音だけが静かに響く。
メガマウスザメは一つの展示の前で立ち止まった。
そこには巨大な顎の模型が展示されている。
「......大きい」
ぽつりと呟く。
シーラカンスが隣へやって来た。
「古代のサメじゃな」
「......今のサメより大きい」
「そうじゃな」
模型を見上げる二人。
鋭い歯が何列も並んでいる。
今では考えられないほど巨大な生物だった。
「......昔の海は怖そう」
「どうじゃろうな」
シーラカンスは微笑んだ。
「今の海も十分怖いぞ?」
「......そうかも」
深海には見たこともない生き物がいる。
大きな生き物もいる。
人が知らない場所も多い。
そう考えると今も昔もあまり変わらないのかもしれない。
展示を見ながら歩いていると、一つのパネルの前でシーラカンスが立ち止まった。
そこには古代魚から現代魚への進化の図が描かれている。
「ふむ」
「......どうしたの?」
「面白いのうと思ってな」
「?」
「昔の生き物が少しずつ変わって今の生き物になった」
「うん」
「じゃが完全に別物ではない」
メガマウスザメも図を見る。
確かにどこか面影が残っている。
ヒレの形。
骨格。
身体の作り。
少しずつ変わりながらも繋がっていた。
「......親戚みたい」
「うむ」
シーラカンスは嬉しそうに頷く。
「海の生き物は皆どこかで繋がっておる」
「......なるほど」
その時だった。
展示室の奥から軽い物音が聞こえた。
振り向くと、小柄な影が模型の陰から現れる。
明るい黄土色の髪。
小さなアホ毛。
ヒメタツだった。
ヒメタツ
『トゲウオ目 ヨウジウオ科 タツノオトシゴ亜科 タツノオトシゴ属 ヒメタツ』
タツノオトシゴ類は外見がにており分類学的に混同され、2017年にタツノオトシゴとは頭部の突起が小さいこと、ハナタツと背びれの基底付近に側方へ張り出す突起があるとして新種として認定された。卵を抱えたメスがオスのお腹の袋(育児嚢)に卵を入れる、その姿はまるでハートに見える。卵を受け取り体を動かし袋の中で受精させる。約1ヶ月後の夜にオスは孵化した赤ちゃんヒメタツを生む。タツノオトシゴ類のアクアリスはアホ毛が生えておりヒメタツのアホ毛は小さい、水俣の海からやってきた、過去のトラウマか、水銀が嫌いであり昔は人間嫌いだったが、第一、第二アクアリス水族館の飼育員や館長や地元の人達とのふれあいによって、普段の性格に戻った、第三アクアリス水族館を作ることが決定した際、送られた最古参のアクアリスの一人。
「見つけましたわ!」
元気な声が展示室へ響く。
メガマウスザメが瞬きをする。
「......ヒメタツ」
「こんなところにいましたのね!」
シーラカンスが首を傾げた。
「どうしたのじゃ?」
「館長さんが探してましたわ!」
「......?」
「古代展示の感想を聞きたいそうですわ」
メガマウスザメは少し考える。
「......感想」
「はい!」
ヒメタツは大きく頷いた。
「来館者向けの説明看板を増やすか悩んでいるそうですわ」
「なるほどのう」
シーラカンスも納得する。
まだ開館前。
様々な準備が続いている。
展示内容もその一つだった。
「......なら協力する」
「助かりますわ!」
ヒメタツは嬉しそうだった。
しかしその直後。
彼女の視線が巨大な古代魚模型へ向く。
「毎回思うのですが」
「うむ?」
「大きすぎませんこと?」
「そうか?」
「そうですわ!」
ヒメタツは模型を見上げる。
首が痛くなりそうなくらい大きい。
「わたくしなんて丸ごと口に入りそうですわ!」
「確かにのう」
「......入る」
「入りますわよね!?」
メガマウスザメの真面目な返答にヒメタツが思わず声を上げる。
シーラカンスは楽しそうに笑った。
「安心せい」
「何がですの?」
「もうおらん」
「それはそうですけど!」
展示室に小さな笑い声が広がる。
静かな場所だったが、不思議と賑やかだった。
やがて三人は並んで歩き始めた。
アンモナイト。
三葉虫。
古代魚。
古代サメ。
様々な展示が並んでいる。
ヒメタツは一つ一つ真剣に見ていた。
「海って凄いですわね」
「うむ」
「昔も今も、こんなにたくさんの生き物がいるなんて」
シーラカンスが頷く。
「海は広いからのう」
「全部知ることなんて無理そうですわ」
「無理じゃろうな」
「......うん」
メガマウスザメも同意する。
深海ですら未知の部分が多い。
海は人間にもアクアリスにも分からないことだらけだった。
だからこそ面白い。
だからこそ知りたくなる。
展示室の出口付近まで来た時だった。
ヒメタツがふと立ち止まる。
「そういえば」
「なんじゃ?」
「シーラカンスさんは古代魚みたいな扱いをされること、嫌じゃありませんの?」
メガマウスザメも気になったのか視線を向けた。
シーラカンスは少し考える。
そして静かに笑った。
「別に嫌ではないのう」
「そうなんですの?」
「うむ」
「どうしてです?」
シーラカンスは展示を振り返った。
古代魚の模型たち。
長い時を生きた生物たち。
「昔から続いておるというのは誇らしいことじゃ」
穏やかな声だった。
「たくさんの時代を越えてきた証じゃからな」
ヒメタツは目を丸くする。
「なるほどですわ」
「だからワシは好きじゃぞ」
「......かっこいい」
メガマウスザメが小さく呟いた。
シーラカンスは少し照れたように頭を掻く。
「そんな大したものではないわい」
だが二人は納得していた。
長い歴史を持つこと。
昔から生き残ること。
それは確かに凄いことなのだ。
展示室の照明が静かに輝く。
古代から続く命。
今を生きる命。
それらを繋ぐように、三人はゆっくりと出口へ向かって歩いていくのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




