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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
シーラカンスの章

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第82話 語り継がれる海



ここは、アクアリス達が暮らしている。オープン前の第三アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。


第三アクアリス水族館 古代水生生物模型展示エリア。


シーラカンスとメガマウスザメが展示エリアを歩いている頃。


古代魚の巨大模型が並ぶ一角では、静かな空気が流れていた。


頭上には古代の海を再現した映像。


青く暗い海の映像の中を、巨大な魚たちが泳いでいる。


その光景を見上げながら、シーラカンスはふと立ち止まった。


「どうしたの?」


メガマウスザメが首を傾げる。


シーラカンスは目の前の模型を見つめた。


それは巨大な肉鰭類の模型だった。


「不思議じゃな」


「何が?」


「こうして昔の生き物達を見ておると、自分が特別な存在に思えてくる」


「特別?」


「うむ」


シーラカンスは静かに頷く。


「ワシは長い間、絶滅したと思われておった」


「......うん」


「じゃが実際には生きておった」


「人間達は驚いた」


「奇跡の魚と呼ばれた」


メガマウスザメは静かに耳を傾ける。


シーラカンスは少しだけ照れ臭そうに笑った。


「じゃがの」


「うん」


「ワシからすれば普通に生きておっただけなんじゃ」


「......あ」


「特別でも何でもない」


「毎日泳いで」


「ご飯を食べて」


「眠って」


「生きておっただけじゃ」


メガマウスザメは少し考える。


そしてぽつりと呟いた。


「......それでも凄い」


「そうか?」


「うん」


「生き残るのは難しい」


シーラカンスは目を丸くした。


それから優しく笑う。


「そう言われると嬉しいのう」


二人は再び歩き始めた。


展示エリアの奥には化石のレプリカが並んでいる。


アンモナイト。


三葉虫。


巨大な歯。


古代の海を生きた生物達の痕跡。


シーラカンスはゆっくりとそれらを見回した。


「メガマウスよ」


「うん」


「お主は古代生物になりたいと思うか?」


「......?」


突然の質問だった。


メガマウスザメは少し困った顔になる。


「なれない」


「そうじゃな」


「......でも」


「うむ?」


「会ってみたい」


シーラカンスの目が少し輝いた。


「ほう」


「どんな風に泳ぐのか見てみたい」


「なるほどのう」


「大きかったのかな」


「きっと大きかったじゃろう」


「......怖かったのかな」


「それもおるじゃろうな」


二人はそんな話をしながら歩いていく。


やがて展示エリアの中央にある大きなベンチへ辿り着いた。


そこに腰掛ける。


しばらく無言。


静かな時間。


聞こえるのは展示映像の音だけ。


やがてシーラカンスが空を見上げた。


「昔の海にも月はあった」


「......うん」


「恐竜の時代も」


「もっと昔も」


「月は空にあった」


メガマウスザメも天井を見上げる。


そこには夜空を模した装飾があった。


「不思議じゃな」


シーラカンスが続ける。


「海は変わる」


「生き物も変わる」


「大陸も変わる」


「じゃが月だけはずっとそこにおる」


「......確かに」


「そしてワシらアクアリスは、その月から生まれた」


静かな言葉だった。


「だからの」


「うん」


「昔の海も今の海も、少しだけ近く感じるんじゃ」


メガマウスザメは何となくその意味が分かった気がした。


古代。


現代。


絶滅した生物。


今を生きる生物。


全てが繋がっている。


そんな感覚だった。


その時。


遠くから軽快な足音が聞こえてきた。


タタタタタッ。


誰かが走っている。


メガマウスザメが振り向く。


シーラカンスも耳を動かした。


「元気な子がおるのう」


「......うん」


「静かな場所なのじゃが」


「......静かじゃなくなるかも」


「それもまたよい」


シーラカンスは笑う。


「水族館は賑やかな方が楽しい」


「......確かに」


展示エリアに響く元気な声。


遠くで誰かが笑っている。


準備中の水族館。


まだお客はいない。


それでもここには確かな活気があった。


シーラカンスは古代魚の模型を見上げた。


何億年も前の海。


そして今。


違うようでいて、どこか繋がっている。


「海は面白いのう」


ぽつりと呟く。


メガマウスザメも頷いた。


「......うん」


「だから水族館も面白い」


「......うん」


二人はしばらく展示を眺め続けた。


古代の海へ想いを馳せながら。


静かに。


穏やかに。


今日もまた、第三アクアリス水族館には平和な時間が流れていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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