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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
メガマウスの章

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第78話 悠久を生きる蒼き古魚


ここは、アクアリス達が暮らしている。オープン前の第三アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。


第三アクアリス水族館 古代水生生物模型展示エリア。


巨大な古代魚の模型が並ぶ静かな通路を、メガマウスザメはゆっくりと歩いていた。


黒褐色のおかっぱ髪の少女は、展示された生き物たちを見上げながら小さく呟く。


「......昔の海は......今よりずっと不思議だったのかな......」


模型の影が床へ長く伸びる。


巨大な顎を持つ魚。


長い首を持つ海生爬虫類。


鎧のような甲殻を纏った古代生物。


どれも現代の海では見られない姿ばかりだった。


メガマウスザメは足を止める。


「......もし生きていたら......会ってみたかったな......」


その時だった。


背後から静かな声が聞こえた。


「会えないとも限らぬぞ」


「......?」


振り返る。


そこには一人の少女が立っていた。


深い群青色の長髪。


海の底のように静かな瞳。


どこか古風な雰囲気を纏い、落ち着いた表情で展示を眺めている。


メガマウスザメは首を傾げた。


「......あなたは......?」


少女はゆっくり微笑んだ。


「初めましてじゃな」


「私はシーラカンス」


「ここへ来たばかりのアクアリスじゃ」


メガマウスザメの目が少しだけ大きくなる。


「......シーラカンス......」


シーラカンス。


その名はメガマウスザメも知っていた。


古代からほとんど姿を変えず生き続けてきた魚。


長い間絶滅したと考えられていたが、現代になって発見され世界を驚かせた生物。


少女は穏やかに一礼した。


シーラカンス。


「シーラカンス『シーラカンス目 ラティメリア科 ラティメリア属 シーラカンス』約4億年前から存在していた古代魚の仲間であり、長らく絶滅したと考えられていたが1938年に南アフリカ沖で再発見され『生きた化石』として世界中を驚かせた。胸鰭や腹鰭をまるで手足のように動かして泳ぐ。現在はアフリカ東岸周辺とインドネシア近海に生息していることが知られている。アクアリス化したシーラカンスは非常に落ち着いており物知りで、長い歴史の話を語ることが好きである」


紹介が終わる。


メガマウスザメは小さく頭を下げた。


「......私はメガマウスザメ......よろしく......」


「うむ、よろしく頼むぞ」


シーラカンスは展示されている模型へ視線を向けた。


「古代生物に興味があるのかの?」


「......うん......」


「......どうしていなくなったのかなって......考えてた......」


シーラカンスは静かに頷く。


「それは誰にも分からぬことも多い」


「環境が変わったり」


「食べ物が減ったり」


「天敵が増えたり」


「大きな災害が起きたり」


「生き物は常に変化する世界の中で生きておるからな」


メガマウスザメは展示模型を見上げた。


「......少し寂しい......」


「そうじゃな」


シーラカンスは優しく答える。


「だがの」


「消えたからこそ残ったものもある」


「消えたからこそ今の海がある」


「生き物とは不思議なものじゃ」


静かな声だった。


しかし不思議と重みがあった。


まるで本当に長い時代を見てきたような。


メガマウスザメは少しだけ考える。


「......シーラカンスは......古代魚だから......昔のこと知ってるの?」


するとシーラカンスは苦笑した。


「残念ながら私はそこまで長生きではないぞ」


「さすがに四億年は生きておらん」


「......そうなんだ......」


「うむ」


二人は思わず小さく笑った。


しばらく展示を見て歩く。


アンモナイトの模型。


三葉虫の模型。


巨大魚の骨格展示。


シーラカンスはひとつひとつを眺めながら説明していく。


その知識量は驚くほどだった。


メガマウスザメは真剣に耳を傾ける。


「......詳しい......」


「本が好きでの」


「時間だけはたくさんあるからな」


「......確かに......」


その時。


展示エリアの奥にある巨大なシーラカンス模型の前で、シーラカンスは立ち止まった。


模型は実物よりもかなり大きく作られている。


青白い照明を浴びて神秘的に見えた。


「立派じゃな」


「......うん......」


シーラカンスは少し照れくさそうに笑う。


「こうして見ると自分の模型というのも妙な気分じゃ」


「......人気者......」


「いやいや」


「それほどでもないぞ」


そう言いながらも少し嬉しそうだった。


メガマウスザメは模型を見上げる。


「......生きた化石......」


「うむ」


「......かっこいい......」


その一言に。


シーラカンスは少しだけ目を丸くした。


そして穏やかに微笑む。


「ありがとう」


「そう言われるのは嬉しいものじゃな」


静かな空気が流れる。


古代魚と深海ザメ。


どちらもどこかゆっくりした性格だった。


だからだろうか。


会話の間に沈黙があっても居心地が悪くない。


むしろ心地よかった。


遠くから開館準備をする飼育員たちの声が聞こえる。


第三アクアリス水族館の朝は今日も穏やかだった。


メガマウスザメは模型を見つめながら呟く。


「......昔の海も......今の海も......どっちも素敵かも......」


シーラカンスは満足そうに頷いた。


「うむ」


「それでよいのじゃ」


二人は並んで古代の海の展示を見上げる。


遥か昔から続いてきた命の歴史。


その長い物語へ思いを馳せながら、静かな時間がゆっくりと流れていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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