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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
キマユペンギンの章

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第73話「氷の羽と迷子のヒナ」



ここは、アクアリス達が暮らしている。オープン前の第三アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。


海鳥エリア、ペンギンアイランド。様々な種類のペンギン属のいるエリアにて。


静かな水音が響いている。


巨大な水槽の中では、数羽のペンギンたちが流れるように泳ぎ回っていた。


キマユペンギンは上部通路から、その様子をじっと見下ろしている。


「............」


照明のちらつきは、もう収まっていた。


けれど彼女は、なぜか少しだけ胸騒ぎを覚えていた。


風もない。


異音もない。


異常反応も検知されていない。


それでも、妙に落ち着かない。


「......考えすぎ、でしょうか」


小さく呟く。


その時だった。


ぴぃぃぃっ!!


突然、鋭い鳴き声が海鳥エリアへ響いた。


キマユペンギンは反射的に顔を上げる。


「!?」


下の岩場。


小さなヒナのペンギンが、人工岩の隙間へ落ちかけていた。


周囲のペンギンたちが騒ぎ始める。


「......危ない!」


ぱきっ!!


足元に月光色の氷が生成される。


キマユペンギンはそれを強く蹴った。


身体が宙を滑る。


風を裂くように一気に下降。


ひゅうっ、と白い軌跡が空中へ残った。


ヒナは滑り落ちる寸前だった。


「......っ!」


彼女は片手で柵を掴み、もう片方の腕でヒナを抱き寄せる。


直後。


がらっ、と小さな岩が崩れ落ちた。


数秒遅れていたら危なかった。


「......大丈夫」


ヒナは驚いて震えていたが、怪我はない。


キマユペンギンは静かに胸を撫で下ろした。


「ぴぃ......」


「......もう平気」


そっと頭を撫でる。


するとヒナは安心したように目を細めた。


その時。


ぱちぱち、と拍手が聞こえた。


「おぉ~!すごーい!」


聞き覚えのある元気な声。


振り向くと、エリア入口に小柄な少女が立っていた。


オレンジ色の髪をぴこぴこ揺らしている。


フウセンウオ。


「スズキ目 カジカ亜目 ダンゴウオ科 ダンゴウオ亜科 イボダンゴ属 フウセンウオ」ダンゴウオ科に属する冷たい海の魚で、その名の通り丸く膨らんだ体とクリっとした瞳が特徴でダイバーたちにも「北の海のアイドル」として人気。泳ぎが大の苦手で腹ビレから進化した吸盤で岩や海藻に張り付いて生活し、体長3〜10cmほど。オレンジ、黄色、茶色など色彩が豊かで水族館でも人気があります。肉食で甲殻類などを食べる。


その後ろには、ミナミメダカの姿もあった。


「ミナミメダカ:『棘鰭上目 ダツ目 メダカ亜目 メダカ科 メダカ亜科 メダカ属 ミナミメダカ』日本在来種の小型淡水魚で緩やかな川や水田に生息し身近な存在でしたが環境悪化により絶滅危惧種に指定されています。アクアリスとなったミナミメダカは頑張り屋でお手伝いが大好き」


「キマユペンギンさん!今の飛んでましたよね!?」


「......み、見てたんですか」


「うん!!すっごかった!!」


フウセンウオは目をきらきらさせながら跳ねる。


「ひゅーん!って!ばーん!って!」


「......ばーん?」


「かっこよかったってこと!」


ミナミメダカも頷いた。


「わたしもびっくりしました!本当に空飛んでるみたいでした!」


「............」


キマユペンギンはみるみる顔を赤くする。


どうやら褒められるのは苦手らしい。


「......大したこと、ありません」


「えぇー!?ありますよぉ!」


「あるある!」


二人は勢いよく頷く。


キマユペンギンは視線を逸らした。


その間にも、ヒナは彼女の腕の中で落ち着いたように鳴いている。


ミナミメダカがそっと近づいた。


「その子、怪我してませんか?」


「......うん。大丈夫」


「よかったぁ......」


フウセンウオはヒナを覗き込みながら、ふと思い出したように言った。


「でも、キマユペンギンちゃんってほんと運動神経いいよね!」


「......普通」


「普通じゃないよぉ!アタチなんて走っただけで転ぶもん!」


実演するように一歩踏み出し。


つるっ。


「あっ」


ころん。


「......」


「......」


「......痛くないもん......」


ミナミメダカが慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫!?」


「へーき!」


キマユペンギンは少しだけ目を丸くしたあと。


ふっ、と小さく笑った。


「......ふふ」


「あ!!笑った!!」


「わー!今笑いましたよね!?」


「......笑ってません」


「笑ってた!」


「笑ってました!」


二人に詰め寄られ、キマユペンギンは少し後ずさる。


だが、その表情はどこか柔らかかった。


ヒナを岩場へ戻してやると、小さなペンギンは元気よく親ペンギンの方へ走っていった。


その姿を見送りながら、ミナミメダカがぽつりと呟く。


「なんだか、家族みたいですね」


「......家族」


キマユペンギンはその言葉を繰り返す。


フウセンウオが元気よく頷いた。


「うん!ここってそんな感じする!」


「......そう、かも」


少し照れたように答える。


その時。


遠くから、館内アナウンスが流れた。


『海鳥エリア、定期清掃を開始します』


「あ!もうそんな時間!」


「戻らないとですね!」


二人は慌てて立ち上がった。


去っていく前に、フウセンウオが振り返る。


「また飛んでるとこ見せてねー!」


「......見せません」


「えぇー!?」


騒がしい声が遠ざかっていく。


海鳥エリアには再び静けさが戻った。


キマユペンギンはゆっくり空を見上げる。


人工天井。


けれどその向こうに、どこか遠い海を思い浮かべていた。


「......家族、か」


小さく呟く。


その声は、水の音に溶けるように消えていった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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