表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
キマユペンギンの章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
73/101

第72話「ペンギンアイランドの見回り当番」



ここは、アクアリス達が暮らしている。オープン前の第三アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。


海鳥エリア、ペンギンアイランド。様々な種類のペンギン属のいるエリアにて。


冷たい人工岩場の上を、黒と白を基調にした少女が静かに歩いていた。


冠羽のような黄色い髪飾りが、歩くたびに小さく揺れる。


キマユペンギンは周囲を見渡しながら、小さく頷いた。


「......異常、なし」


ペンギンたちは元気よく鳴きながら水へ飛び込み、勢いよく泳いでいく。


ばしゃり、と跳ねた水滴が彼女の頬へかかった。


「......冷たい」


だが嫌そうではない。


むしろ、少し落ち着いたように目を細めていた。


その時。


遠くの岩場から、ぴぃーっ!と甲高い鳴き声が響く。


キマユペンギンがそちらを見ると、一羽の小さなペンギンが岩陰で転んでいた。


「......あ」


急いで近づく。


転んだペンギンは慌てたように羽をばたつかせていた。


「......大丈夫」


そっと抱き起こす。


するとペンギンは安心したように鳴き声を漏らした。


キマユペンギンは小さく息を吐く。


「......びっくり、しただけ」


よちよち歩きで戻っていくペンギンを見送りながら、彼女は静かに岩場へ腰を下ろした。


人工雪の積もる白い景色。


青白い照明。


水の流れる音。


ここは落ち着く。


彼女はぼんやりと水槽を眺めた。


すると不意に、館内放送が響く。


『海鳥エリア、点検作業を開始します』


「......点検」


キマユペンギンは立ち上がる。


見回りも兼ねて、上部通路へ向かうことにしたらしい。


人工岩壁を見上げる。


普通なら階段を使う高さ。


だが。


彼女の足元に、淡い月光色の氷が生まれた。


ぱきん。


氷を蹴る。


身体がふわりと宙へ浮いた。


そのまま空中を滑るように上昇する。


長い冠羽が風になびき、黒い上着の裾が揺れる。


数秒で上部通路へ到着した。


「......よし」


通路を歩きながら配線や照明を確認していく。


真面目な性格なのか、一つ一つ丁寧だった。


「......異常なし」


「......ここも」


「......うん」


静かな声が続く。


だがその時。


かたん。


どこかで小さな音が鳴った。


キマユペンギンはぴたりと止まる。


「......?」


ゆっくり周囲を見る。


すると通路の隅に、小さな工具箱が転がっていた。


「......落とした?」


近づいて確認する。


中身は無事だった。


だが、端の方に小さなネジが散らばっている。


「......危ない」


しゃがみ込み、一つずつ拾い始める。


すると。


ころころ。


最後のネジが床を転がった。


「あ......」


ネジは通路の隙間から落ちそうになる。


反射的に手を伸ばした。


だが届かない。


その瞬間。


ぱきっ。


足元に氷が生成される。


彼女は氷を蹴り、一瞬だけ身体を滑らせた。


ひゅっ。


空中でネジを掴む。


「......とれた」


静かに着地。


そしてそのまま固まる。


下を見る。


そこには数羽のペンギンたち。


ぽかん、とした顔で彼女を見上げていた。


「............」


キマユペンギンは無言で視線を逸らす。


どうやら見られていたのが恥ずかしいらしい。


そのまま足早に歩こうとした瞬間。


ぴぃーっ!


ぴぴーっ!


下のペンギンたちが騒ぎ始めた。


「......?」


まるで真似するように、小さく跳ね始める。


ぴょん。


ぴょん。


「............」


しばらく見つめた後。


キマユペンギンは、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「......ふふ」


珍しい笑みだった。


すると今度は。


ぴぴぃーっ!


ペンギンたちがさらに騒ぎ出す。


「......うるさい」


そう言いながらも、声音は柔らかい。


彼女は通路の柵へ軽く寄りかかった。


下ではペンギンたちが泳ぎ回っている。


水中を飛ぶように進む姿。


岩場をよちよち歩く姿。


喧嘩している子。


眠そうな子。


全部違う。


けれど、みんなここで暮らしている。


キマユペンギンは静かに目を細めた。


「......ここ、好き」


小さな呟き。


誰も聞いていないはずだった。


だが。


下のペンギンが一羽、こちらを見て鳴いた。


まるで返事をするように。


彼女は少し驚き、それから小さく笑った。


「......変なの」


その時だった。


館内の照明が一瞬だけちらつく。


キマユペンギンの表情が変わった。


「......?」


すぐに周囲を確認する。


異常音はない。


だが、ほんの少しだけ空気が重い。


「............」


彼女はゆっくり空を見上げた。


人工天井の向こう。


見えるはずのない月を思い浮かべるように。


静かな海鳥エリア。


水の音。


鳴き声。


その中で、キマユペンギンはしばらく動かなかった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ