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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
ニシキアナゴの章

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第69話「干潟のみんなと跳ねる日」



ここは、アクアリス達が暮らしている。オープン前の第三アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。


干潟エリア。


ニシキアナゴは、人工干潟の前で目を丸くしていた。


さらさらと流れる浅い水。

湿った泥。

ところどころに生えた小さな草。


海とも違う、陸とも違う、不思議な場所だった。


ムツゴロウがぴょこんと泥の上を跳ねる。


茶色い雨ガッパの裾がふわりと揺れた。


「まぁ、人工でできたムツゴロウとトビハゼのいる小さい干潟の水槽のあるだけのエリアだけどね~」


その声に反応するように、少し離れた場所から別の少女が歩いてくる。


明るい茶色の髪。

同じような雨ガッパ。


ただ、どこか落ち着いた雰囲気をまとっていた。


「ムツゴロウ、また誰かつれてきたの?」


「あ!トビハゼ~!来たいって言うからね」


ニシキアナゴは慌てて背筋を伸ばした。


「こ、こんにちは!ニシキアナゴです」


「僕はトビハゼ......」


「ハゼ目 ハゼ亜目 オクスデルクス科 オクスデルクス亜科 トビハゼ属 トビハゼ」魚だが地上で生活し、胸鰭を使い泥のうえを這い回ったり、ピョンピョンと飛び跳ねたりする。湿った皮膚で呼吸ができる「皮膚呼吸」ができ、地上で生活ができる。干潟に生息し準絶滅危惧種にしてい。アクアリス化したトビハゼはムツゴロウのアクアリスと同じような見た目だがトビハゼのアクアリスの方が若干明るい色をしている。常に冷静だが自分から話すのが苦手であるためムツゴロウのアクアリスが間に入って会話することがおおい。


ニシキアナゴはぺこりと頭を下げた。


「よろしくお願いします!」


トビハゼは少しだけ目を逸らし、小さく頷く。


「......よろしく」


ムツゴロウが楽しそうに笑った。


「トビハゼはね~、ちょっと人見知りなんだよ~」


「む、ムツゴロウ......」


「あはは、ごめんごめん~」


ニシキアナゴは干潟を見回した。


泥の表面には、小さな穴がいくつも空いている。

水面にはゆらゆらと波紋が広がり、照明の光を反射してきらきらと輝いていた。


「不思議な場所ですね......海みたいなのに、陸みたいで......」


「干潟だからね~」


ムツゴロウは泥の上へぴょんと飛び降りる。


すると、そのまま両手を広げてくるりと一回転した。


「ここ、好きなんだ~」


「泥だらけになりませんの?」


「なるよ~?」


ムツゴロウはきょとんとした顔をした。


「でも干潟ってそういう場所だし~」


トビハゼも静かに泥へ降りる。


ぴちゃ。


胸鰭を使って、滑るように前へ進んだ。


その動きにニシキアナゴは目を輝かせる。


「すごい......本当に歩いてます......!」


「歩くというか......這ってる?」


「でも魚さんなのに......!」


「僕たちは、ちょっと特殊だから」


ムツゴロウが笑顔で割り込む。


「陸でも暮らせるんだよ~!」


ニシキアナゴは感心したように頷いた。


「世界って広いんですね......」


「ニシキアナゴは砂の中で暮らしてるんだっけ?」


「はい!砂の中の穴に住んでます!」


「へぇ~!」


今度はムツゴロウの方が目を輝かせた。


「どんな感じなの~?」


「えっと......安心します!」


「安心?」


「砂の中にいると、落ち着くんです。危ない時も隠れられますし......」


その言葉に、トビハゼが小さく頷く。


「わかる。落ち着く場所って大事」


「トビハゼも穴掘るもんね~」


「うん......巣穴」


ニシキアナゴは少し驚いた。


「穴を掘るんですか?」


「干潟の泥に」


「すごい......!」


ムツゴロウが胸を張る。


「干潟はね~!見た目よりすごいんだよ~!」


「例えば?」


「えーっとね~」


ムツゴロウは少し考え込み、突然大きくジャンプした。


ぴょーんっ!


「わぁっ!?」


ニシキアナゴがびくっと肩を跳ねさせる。


着地したムツゴロウは満足そうに笑った。


「こういうことできる!」


「説明になってませんわ!?」


トビハゼが小さく吹き出した。


「ふふ......」


「あっ!今笑った!」


「......少しだけ」


「トビハゼってあんまり笑わないよね~」


「ムツゴロウが騒がしいだけ」


「えぇ~!?」


二人のやり取りを見て、ニシキアナゴも思わず笑ってしまう。


干潟エリアには、穏やかな空気が流れていた。


海の水槽エリアとは違う。


波の音も、泡の音もない。


代わりに聞こえるのは、水のはねる音と、小さな足音。


泥の匂いさえ、どこか心地よかった。


「そういえばニシキアナゴ」


ムツゴロウが不意に尋ねる。


「どうしてここ来たの~?」


「え?」


「普段、あんまりこの辺来ないでしょ?」


ニシキアナゴは少し視線を泳がせた。


「えっと......水族館の中、もっと知りたくて......」


「知りたい?」


「はい!わたし、まだ知らない場所いっぱいあるんです!」


そう言って、拳をぎゅっと握る。


「だから、もっといろんな人とお話して、もっともっと知りたいんです!」


その真っ直ぐな声に、ムツゴロウはにこっと笑った。


「いいね~!」


トビハゼも静かに頷く。


「......頑張り屋なんだね」


ニシキアナゴは照れたように笑った。


「えへへ......」


その時だった。


ぐぅぅぅぅ......


小さな音が響く。


三人の視線が、ぴたりと止まった。


ムツゴロウがゆっくりニシキアナゴを見る。


トビハゼも見る。


ニシキアナゴの顔がみるみる赤くなった。


「ち、違うんです!これはその!」


ぐぅぅぅ......


再び鳴った。


ムツゴロウが吹き出す。


「あははははっ!」


トビハゼも肩を震わせている。


「......お腹空いてる」


「うぅ......」


ニシキアナゴは恥ずかしそうにうつむいた。


「朝から歩き回ってたので......」


「じゃあ休憩しよ~!」


ムツゴロウは元気よく言った。


「干潟エリアの奥、休める場所あるんだ~!」


「ありますの?」


「うん!」


トビハゼが静かに補足する。


「飼育員さんたちも使う場所」


「なるほど......」


ムツゴロウはニシキアナゴの手を引っ張った。


「行こ行こ~!」


「わ、わっ!?」


泥の上を跳ねるムツゴロウ。

その後ろを静かについていくトビハゼ。


ニシキアナゴも慌てて後を追う。


干潟エリアには、今日も穏やかな笑い声が響いていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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