第6話「はじめての健康診断」
ここは、アクアリス達が暮らしているアクアリス水族館。今日も今日とて平和です。数日が経ち、今日は健康診断の日だった。
館内はいつもより少しだけ静かで、各区画のアクアリスたちが順番に検査へ向かっている。普段の明るさとは違い、どこか落ち着いた空気が流れていた。
クラゲ館の前で、ミズクラゲの少女は立ち止まっていた。
「うぅ、ハブクラゲさんは大丈夫って言ってたけど、やっぱり緊張する」
胸のあたりを押さえながら、そわそわと視線を泳がせる。
「緊張してる?」
背後から声がかかった。
「あ、飼育員さん……はい、少し」
振り返ると、女性飼育員が穏やかな表情で立っていた。
「大丈夫よ、さ、行こ」
「は、はい」
短く深呼吸してから、ミズクラゲは歩き出す。
扉の向こうは、普段の館内とは違う空間だった。
白く明るい照明、整然と並ぶ機器、静かに稼働する観測装置。
「これは……」
思わず足を止めるミズクラゲ。
そこへ、白衣を着た人物が振り向いた。
「お、新人の子だね。はじめまして、私はアクアリスの専門医です。さっ、こちらに」
「は、はい!」
促されるまま、ミズクラゲは検査台の前へ進む。
専門医は手際よく端末を操作しながら、淡々と進めていく。
「え〜っと、体重は……次そっちね」
「は、はい!」
指示に従い、ミズクラゲは慌てながらも測定台へ移動する。
「身長は……じゃ、そこに横になって」
「これは?」
不安そうに尋ねると、専門医は軽く説明した。
「月光濃度測定機だよ。体内の月光エネルギーを図って、健康かどうかを検査するの。さっ、横になって」
「は、はい!」
ミズクラゲは言われた通り、検査台に横になる。
直後、天井からレーダーのような光がゆっくりと降り注いだ。
青白い光が身体の周囲をなぞるように動き、静かな機械音が響く。
その光はどこか温かく、ミズクラゲの緊張を少しだけ和らげた。
やがて光が止まり、機械音が消える。
「はいっ、終わりだよ」
専門医は端末を見ながら、軽く頷いた。
「君すごいね、健康体だ」
「す、すごいんですか?」
「あぁ。すごいとも。どんなに健康なアクアリスでも、少しくらい悪いところが出るのに、君はすごいね」
その言葉に、ミズクラゲは目を丸くする。
「……ありがとうございます!」
「さっ、帰ってどうぞ。その調子でね」
「はい!失礼しました」
ぺこりと頭を下げて、ミズクラゲは検査室を後にした。
扉の外には、女性飼育員が待っていた。
「ほら、怖くないでしょ?」
「はい!」
緊張がほどけたように、ミズクラゲは元気に答える。
「じゃあ、念のためクラゲ館まで送るわ」
「は、はい!」
クラゲ館へ戻る道は、さっきよりも少しだけ明るく感じられた。
透明な通路の向こうで、水の光がゆらゆらと揺れている。
「ありがとうございました」
「いえいえ、それじゃあね」
女性飼育員は軽く手を振り、その場を離れていった。
クラゲ館に入ると、ひんやりとした静けさが戻ってくる。
水槽の中ではクラゲたちがゆっくりと漂い、光を受けて淡く輝いていた。
「終わったようね〜」
穏やかな声が響く。
「あ!ハブクラゲさん!終わったよ」
ミズクラゲは嬉しそうに駆け寄る。
「その調子だと、良かったみたいね」
「うん!健康体って言われた!」
「まぁ、良かったわね〜。今後も定期的に健康診断があると思うから、変わってないといいわね〜」
「うん!」
そこへ、別の声が割り込んだ。
「ここにいましたか、探しましたよ」
「あ!クリオネちゃん!健康診断に行ってた!」
「ハダカカメガイです。……なるほど、どうでした?」
「健康体だって!」
「それは良かったですね」
「うん!」
ハダカカメガイは静かに頷く。
ハブクラゲは微笑みながら二人を見ていた。
「幸せそうね〜ふふっ、私はこれで」
そう言ってゆっくりと離れていく。
残された二人は、自然と並んで歩き出す。
「それでね!それでね!」
「はいはい、聞いてますよ……」
クラゲ館の静かな光の中で、ミズクラゲの声だけが明るく響いていた。
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次回もお楽しみに




