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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
ミズクラゲの章

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第5話「静かなクラゲ館」


 ここは、アクアリス水族館。

 今日も今日とて平和です。


 まだ開館前の施設は、どこか時間の流れがゆるやかで、働く者と暮らす者の境界が曖昧になっていた。広い通路の奥には、それぞれの“区画”があり、その一つ――休憩スペースには、一人のアクアリスの姿があった。


 ミズクラゲの少女は、椅子に腰掛けて天井を見上げている。


「暇だな〜……クリオネちゃんはお家に戻っちゃったし、私も戻ろうかな。クラゲ館に」


 ぽつりと呟いたその声は、静かな空間に溶けていく。


「おや、どうしたのかな」


 背後から穏やかな声がかかった。


「あ、飼育員さん」


 振り向くと、飼育員の青年が立っていた。手には点検用の端末を持っている。


「やることがなくて、なにかお手伝いしますよ〜」


 ミズクラゲは少し前のめりになって言う。


 飼育員は苦笑しながら首を振った。


「あははっ、嬉しいけど、これは僕たちの仕事だからね。君たちはアビスが来たら撃退するのと、お客さんが来た時の仕事だけかな」


「むぅ〜」


 頬をふくらませるミズクラゲ。


 飼育員は軽く手を振った。


「あははっ、それじゃあね」


 そう言ってその場を離れていく。


「……クラゲ館、戻ろっと」


 クラゲ館は、館内でも特に静かな場所だった。

 照明は落ち着いており、薄暗い水の中で光がゆっくりと揺れている。そこにはいくつもの水槽が並び、クラゲたちが漂っていた。


 その光景を見た瞬間、ミズクラゲの表情がぱっと明るくなる。


「わぁ〜、いつ見ても綺麗!」


 透明な傘がゆっくりと揺れるたび、光が反射して空間全体が幻想的に見える。


「私、ここで生まれたのか……そういえば、ここはもう完成してるのかな?たまに飼育員さんが、クラゲさんを増やしに来るけど……」


 その独り言に、背後から落ち着いた声が返る。


「ほとんど、完成しているわよ〜」


「あ!ハブクラゲさん」


 振り返ると、そこには大人びた雰囲気の女性が立っていた。静かで落ち着いた空気をまとっている。


ハブクラゲ:「ネッタイアンドンクラゲ目 ネッタイアンドンクラゲ科 ハブクラゲ属 ハブクラゲ」5月〜10月にかけて発生する熱帯性の立方クラゲ。立方型の傘と傘の四隅から7〜8本ずつ伸びる触手が特徴で1.5mに達する触手を持つ猛毒のクラゲ、沖縄や奄美大島要に生息、毒蛇のハブに由来するほどの猛毒を持つ


「久しぶりね、ミズクラゲちゃん」


「うん!久しぶり!私が生まれたとき以来だね」


「そうね〜、懐かしいわ〜」


 ハブクラゲはゆっくりと水槽の前に歩み寄る。


「ミズクラゲちゃんはどうしたの〜」


「ん?戻ってきたくなって、えへへ」


 軽い笑いに、ハブクラゲは微笑む。


「そうなのね〜」


「他のみんなは?」


「みんなは〜健康診断よ〜。あなたもそろそろ受けるはずよ〜」


「……ちょっと怖い……」


 ミズクラゲは肩をすくめる。


「ふふっ、そんなに怖くないわよ〜。少し検査するだけだから〜」


「そうなの?ハブクラゲさんも健康診断受けたことあるの?」


「えぇ、だいぶ前にね」


「わ、私少し緊張する」


「ふふっ、大丈夫よ〜」


 ゆったりとした声に、少しだけ安心するミズクラゲ。


 クラゲ館の水槽では、無数のクラゲたちが静かに漂っている。

 その動きはまるで時間そのものが揺れているかのようだった。


「そうだ!」


 ミズクラゲが急に顔を上げる。


「ハブクラゲさん!新しい友達できたんだ!イロワケイルカちゃんって子」


「まぁ、あの子ね」


 ハブクラゲは少しだけ目を細める。


「いい子よね」


「うん!」


「あなたの話、もっと聞きたいわ〜」


「うん!!」


 ミズクラゲは嬉しそうに頷いた。


 その笑顔は、クラゲ館の淡い光の中で、静かに揺れていた。


 まだ知らない外の世界と、まだ始まったばかりの水族館。

 その両方をつなぐように、時間だけがゆっくりと流れていく。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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