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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
ニシオンデンザメの章

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第63話 「群青巡礼」



巨大水槽エリアの青い光は、静かに揺れていた。

その中を泳ぐ影は、ただの魚影というにはあまりに大きく、そして柔らかかった。


ニシオンデンザメは水槽を見上げながら、首をかしげるように呟いた。


「そうじゃ、何か観ていたような気がしたが、どうしたのじゃ?」


その視線の先で、ジンベエザメは小さく息を吐いた。


「あの子……」


細い指が、水槽の奥をそっと指し示す。


そこには、ゆっくりと尾を揺らしながら泳ぐもう一つの巨大な影があった。

同じ海の気配を持ちながら、どこか違う存在感。


メガマウスザメが目を細める。


「あれは……」


ニシオンデンザメも続ける。


「昨日までいなかった……もしかして」


ジンベエザメは小さく頷いた。


「えぇ、あたくしと共に来た、あたくしの妹……」


少しだけ間を置いて、視線を落とす。


「元気そうでよかったと、観ていました」


その言葉には、安堵と、ほんのわずかな距離感が混ざっていた。


ニシオンデンザメは顎に手を当てて、うむ、と頷く。


「なるほどのう」


そしてすぐに表情を明るくした。


「では、よかったらここを観ていくか? そしてあの子にも話してやるとよい」


ジンベエザメは一瞬だけ迷うように視線を揺らしたが、すぐに静かに頭を下げた。


「そうですね。では、お願いします」


その返事に、ニシオンデンザメは満足そうに笑う。


「うむ!」


メガマウスザメは淡々と横で頷く。


「うん」


三人は水槽エリアを離れ、館内の通路へと進み始めた。



まず最初に案内されたのは中央エリアだった。


広い吹き抜けの空間には、複数の小型水槽が並び、明るい光が差し込んでいる。

訪れる前の静けさの中でも、そこはすでに“生きている場所”だった。


ニシオンデンザメが歩きながら説明する。


「ここが中央エリアじゃ。いろんな子が集まる場所じゃな」


ジンベエザメはゆっくりと周囲を見渡す。


「とても落ち着いた空間ですね」


メガマウスザメは短く。


「うん」


ガラス越しに、小さな魚たちが群れを作って泳ぐ。

その動きに合わせて、ジンベエザメの視線もわずかに動いた。


ニシオンデンザメは満足げに頷く。


「次じゃ、熱帯エリアへ行くぞい」



熱帯エリアに入ると、空気が一気に変わった。

温度がわずかに上がり、光も鮮やかになる。


赤や黄色、青の魚たちが水槽の中で交差するように泳いでいた。


ジンベエザメは静かに息を呑む。


「色が……とても強いですね」


ニシオンデンザメは笑う。


「ここは賑やかじゃからのう」


メガマウスザメは水槽を見上げるだけで特に何も言わない。


その無言のままの存在感が、逆に空間のバランスを保っていた。


ジンベエザメは少しだけ視線を落とす。


「こういう場所も、いいですね」


その言葉にニシオンデンザメは満足そうにうなずいた。



次に向かったのは海藻エリアだった。


緑の揺らめきが視界を包み、まるで海の森の中を歩いているような錯覚を起こす。


ニシオンデンザメは軽く腕を広げる。


「ここは落ち着くじゃろう?」


ジンベエザメは小さく頷く。


「はい……とても」


海藻の間を小さな影がゆっくりと通り過ぎる。

その動きに合わせて光が揺れ、静かな呼吸のような空間が生まれていた。


メガマウスザメは短く言う。


「静か」


ニシオンデンザメは笑う。


「そういう場所も必要じゃ」



続いて珊瑚エリア。


ここでは一気に生命の密度が上がる。

色彩の洪水のような珊瑚の間を、小さな生物たちが行き交う。


ジンベエザメは思わず見入った。


「……綺麗ですね」


その声は少しだけ柔らかくなっていた。


ニシオンデンザメは満足そうに腕を組む。


「ここは人気じゃからのう」


メガマウスザメは相変わらず静かだが、視線だけはゆっくりと動いている。



そして最後に、クラゲ館の入口へと到着した。


光が少しだけ落ち、漂うような空気が支配する場所。


ニシオンデンザメは立ち止まり、振り返る。


「ここがクラゲ館じゃ」


ジンベエザメはゆっくりと見上げる。


「……不思議な場所ですね」


メガマウスザメは小さく頷く。


「うん」


光の粒のように漂うクラゲたちが、ゆっくりと上下する。


その動きはまるで、時間そのものが揺れているようだった。


ニシオンデンザメは軽く笑う。


「どうじゃ?水族館も悪くないじゃろう」


ジンベエザメは少しだけ間を置いて、静かに答えた。


「はい……ここは、とても」


言葉は途中で切れたが、それ以上は必要なかった。


青い光の中で、三人の影はゆっくりと溶けるように並んでいた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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