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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
ミナミメダカの章

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第59話 深海にひそむ静かな巨体



 ここは、アクアリス達が暮らしている。オープン前の第三アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。


 第三アクアリス水族館 深海エリア。


 照明は薄暗く、天井には青白い光がゆっくりと揺れていた。壁面には深海魚たちの模型や説明パネルが並び、巨大な水槽の中ではゆったりと深海生物たちが泳いでいる。


 静かだった。


 まるで深海そのものを切り取ったような空間。


 ミナミメダカは荷物を抱えたまま、きょろきょろと辺りを見回していた。


 深海エリア特有の静けさに、少しだけ声を小さくする。


「……ここが、深海エリア……飼育員さんに頼まれて荷物を持ってきたのですが、不思議な空間ですね……あ、これは何の模型でしょう」


 模型の前で立ち止まる。


 細長く、半透明のような魚。


 その隣から、落ち着いた声が聞こえてきた。


「それはスネイルフィッシュ、シンカイクサウオとも言うのかな?」


 振り向く。


 そこには、黒褐色のおかっぱ髪の少女が立っていた。


 少し眠たそうな瞳。


 ゆったりとした動作。


 深海の静けさをそのまま人にしたような少女だった。


「そうなんですね……って、アナタは……」


「メガマウス……ザメ…………」


「メガマウスザメ『ネズミザメ目 メガマウスザメ科 メガマウスザメ属 メガマウスザメ』

ネズミザメ目 メガマウスザメ科に属する者はこの種のみである。

太平洋、インド洋などの熱帯、温帯の200m付近のやや深海などに生息していて、日本近海では目撃例、捕獲例が比較的多い、

古い形態のサメで現代のサメとはことなる点が多く、ネズミザメ目のサメのなかではミツクリザメとならんで原始的な形状を残しているらしい、

鰓耙と呼ばれるブラシ状の突起物で、海水と共に飲み込んだプランクトンだけをこしとるモノがあるのでプランクトンを食べるらしい。浅瀬にも現れることがある。」


「メガマウスザメさん!私はミナミメダカ」


「うん、よろしく……荷物を受け取りに来たよ」


「あ、はい!これ」


「うん、ありがと」


 メガマウスザメは両手で丁寧に箱を受け取った。


 箱は意外と大きい。


 だが彼女は重そうな様子もなく、静かに抱える。


 ミナミメダカは気になって箱を見つめた。


「それ、中には何が入ってるんですか?」


「新しい展示用の模型……かな。深海魚は飼育が難しい子も多いから、模型や映像も大事」


「なるほど……」


 ミナミメダカは周囲を見回した。


 深海エリアには生き物だけでなく、大きな骨格標本や深海探査艇の模型なども置かれている。


 他のエリアとは雰囲気が全然違う。


「深海って、ちょっと怖いイメージがありました」


「うん……よく言われる」


「でも、ここは静かで綺麗ですね」


 その言葉に、メガマウスザメは少しだけ目を丸くした。


 そして、小さく微笑む。


「……ありがとう」


 深海水槽の青い光が、彼女の瞳に映った。


「深海は、怖いだけじゃない。静かで、ゆっくりで……落ち着く場所」


「メガマウスザメさんは、このエリアが好きなんですね」


「うん……好き。騒がしくないから」


「あはは、確かに静かです」


 ミナミメダカが笑う。


 すると遠くの水槽から、小さな泡がぼこぼこと上がった。


 メガマウスザメはそちらを見る。


「あっち、行ってみる?」


「いいんですか?」


「うん」


 二人は並んで歩き始めた。


 通路の横には発光する深海生物の展示。


 青白く光るクラゲ。


 巨大なダイオウイカの模型。


 細長いリュウグウノツカイの写真。


 ミナミメダカは見るたびに目を輝かせる。


「すごい……!この魚、口が大きい!」


「チョウチンアンコウ……かな」


「こっちは牙があります!」


「オニキンメ」


「深海ってすごいですね!」


 興奮するミナミメダカを見て、メガマウスザメは少しだけ楽しそうに目を細めた。


「ミナミメダカは、元気」


「え?」


「見てると、明るい気持ちになる」


「そ、そうですか?」


「うん」


 ミナミメダカは少し照れくさそうに笑った。


「でも私、全然強くないですよ?」


「強さだけが全部じゃない」


 メガマウスザメは静かに言う。


「深海生物も、強いだけじゃ生きられない。隠れたり、待ったり、工夫したり……それぞれ生き方がある」


 ミナミメダカはその言葉を聞いて、小さく瞬きをした。


 デンキウナギのことを思い出す。


 戦って守ってくれる存在。


 それに比べて自分は――。


 そんなことを考えていた。


 だが、メガマウスザメの声はとても穏やかだった。


「ミナミメダカは、頑張ってる」


「……」


「それは、ちゃんとすごいこと」


 深海エリアの青い光が、静かに揺れる。


 ミナミメダカは少しだけ俯いたあと、ふわりと笑った。


「ありがとうございます」


「うん」


 その時だった。


 奥のほうから、何かを引きずる音が聞こえた。


 ガラ……ガラガラ……


 二人はそちらを見る。


 すると、大量の箱を抱えた白髪の小柄な少女が、ふらふらと歩いていた。


「うぅ……重い……」


 ダイオウグソクムシだった。


「ダイオウグソクムシ『ウオノエ亜目 スナホリムシ科 オオグソクムシ属 ダイオウグソクムシ』

等脚類としては世界最大であり体長は20〜40センチメートルで最大50センチメートル近くにもなる世界最大のダンゴムシの仲間。鎧のような外殻を持った甲殻類でクジラの死骸などを食べることから『海の掃除屋』として知られる。5年以上断食した個体などもいるらしい。白髪の小柄な少女。」


「あっ、大丈夫ですか!?」


 ミナミメダカが駆け寄る。


 箱は今にも崩れそうだった。


「うぅ……資料……多い……」


「持ちます!」


「ありがと……」


 メガマウスザメも無言で箱を持つ。


 三人で荷物を運び始めた。


 静かな深海エリアに、小さな足音が響く。


 今日もまた、第三アクアリス水族館では、穏やかな時間が流れていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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