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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
ミナミメダカの章

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第58話 小さな水槽とかくれんぼ



 ここは、アクアリス達が暮らしている。オープン前の第三アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。


 翌日、小魚エリア。


 通路の壁には、小型水槽がいくつも埋め込まれていた。


 色鮮やかな小魚。


 小さなエビ。


 岩陰へ隠れるタコ。


 海藻の間を泳ぐ稚魚たち。


 中には展示準備中なのか、生き物のイラストや説明看板だけが置かれている場所もある。


 柔らかな照明に照らされた通路を、ミナミメダカが軽い足取りで歩いていた。


「オープン楽しみだな~♪」


 その時だった。


「あ!ミナミメダカちゃん!おはよー!」


 後ろから元気な声が響く。


 振り向くと、丸っこいシルエットの小柄な少女が、ぴょこぴょこと駆け寄ってきていた。


「フウセンウオちゃん!おはよー!」


「うん!」


「フウセンウオ:『スズキ目 カジカ亜目 ダンゴウオ科 ダンゴウオ亜科 イボダンゴ属 フウセンウオ』ダンゴウオ科に属する冷たい海の魚で、その名の通り丸く膨らんだ体とクリっとした瞳が特徴でダイバーたちにも「北の海のアイドル」として人気。泳ぎが大の苦手で腹ビレから進化した吸盤で岩や海藻に張り付いて生活し、体長3〜10cmほど。オレンジ、黄色、茶色など色彩が豊かで水族館でも人気があります。肉食で甲殻類などを食べる。」


 フウセンウオは元気いっぱいに両手を広げた。


「ミナミメダカちゃん、どうしたの?」


「うん!アタチね!新しい遊びを思いついたの!」


「新しい遊び?」


「うん!来て!」


 フウセンウオはミナミメダカの手を引っ張るようにして、小魚エリアの奥へ駆けていく。


「わわっ、待って〜!」


 小さな身体同士、ぱたぱたと通路を走っていく。


 やがてフウセンウオが立ち止まったのは、まだ展示準備中の区画だった。


 壁一面に小型水槽が並び、その前には脚立や掃除道具が置かれている。


「ここ?」


「うん!」


 フウセンウオは得意げに胸を張った。


「この水槽いっぱいあるでしょ?」


「あるね」


「だからね!かくれんぼするの!」


「かくれんぼ?」


「うん!アクアリスはみんな見た目が生き物っぽいから、水槽の中にまぎれたら難しいかなって!」


 ミナミメダカは目をぱちぱちさせる。


「た、確かに……?」


「でしょ!」


 フウセンウオは嬉しそうにくるくる回った。


「アタチ天才!」


「ふふっ」


 その時だった。


「何してるの?」


 静かな声。


 振り返ると、小型水槽の陰からメンダコが顔を出していた。


 オレンジ色の髪を揺らしながら、ぼんやりと二人を見ている。


「メンダコちゃん!」


「メンダコ:『八腕形目 ヒゲダコ亜目(有触毛亜目) メンダコ科 メンダコ属 メンダコ』深海性のタコの仲間であるため、詳しい生態は不明である。水深200〜1000mの深海に生息、平たいUFOのような形をした小型のタコで全長約20cm。耳のようなヒレをパタパタ動かしてふわふわと泳ぎ、墨を吐かず、匂いが強い。デリケートで長期飼育が難しく「深海のアイドル」として人気。底生生物などを食べる。深海の高い水圧下で身体を維持する構造で低圧では支えがないためぺったんこになる。オレンジ色の髪をした少女」


「かくれんぼするの!」


「かくれんぼ?」


「うん!水槽にまぎれて隠れるの!」


 メンダコは少し考えてから、小さく頷いた。


「面白そう」


「でしょー!」


 さらに奥から、今度は小さな白い影が現れる。


「楽しそうなことしてる〜」


 ダイオウグソクムシだった。


「ダイオウグソクムシ:『ウオノエ亜目 スナホリムシ科 オオグソクムシ属 ダイオウグソクムシ』等脚類としては世界最大であり体長は20〜40センチメートルで最大50センチメートル近くにもなる世界最大のダンゴムシの仲間。鎧のような外殻を持った甲殻類でクジラの死骸などを食べることから「海の掃除屋」として知られる。5年以上断食した個体などもいるらしい。白髪の小柄な少女」


「ダイオウグソクムシちゃんもやる!?」


「うん〜」


 こうして、小魚エリアで突然のかくれんぼ大会が始まった。


 鬼はミナミメダカ。


 フウセンウオ、メンダコ、ダイオウグソクムシの三人が隠れることになる。


「じゃあ数えるよ!」


 ミナミメダカは壁に向かって目を閉じる。


「いーち、にー、さーん……」


 その瞬間。


「わー!」


「急げ〜」


「……ふわぁ」


 三人は一斉に散っていった。


 ぱたぱたと小さな足音が遠ざかっていく。


 やがて。


「……じゅう!もういいかーい!」


「「「もーいーよー!」」」


 ミナミメダカは振り返る。


 だが。


「……あれ?」


 本当に誰もいない。


 小型水槽がずらりと並ぶ空間は、静まり返っていた。


「す、すごい……!」


 ミナミメダカは感心しながら歩き始める。


 水槽の中には小魚たちが泳ぎ、小さなカニが岩陰を歩いている。


「フウセンウオちゃん〜?」


 返事はない。


 その時。


 ぺたっ。


「きゃっ!?」


 壁に張り付いていた丸い何かが動いた。


「みつかったー!」


「フウセンウオちゃん!?」


 海藻装飾に吸盤で張り付いていたフウセンウオが、ぺりっと剥がれる。


「えへへ!すごかった?」


「びっくりしたよ〜!」


 次の瞬間。


「……こっち」


 水槽下の棚から、ぬるっとメンダコが出てくる。


「メンダコちゃんもいた!?」


「狭いとこ落ち着く」


 さらに。


「まだ見つかってない〜」


 通路端の展示岩が、もぞもぞ動いた。


「わぁ!?」


 岩に紛れていたダイオウグソクムシが、のそのそ現れる。


「すごいです……!」


 ミナミメダカは目を輝かせた。


 三人とも、生き物の特徴を使って完璧に隠れていたのだ。


 フウセンウオは得意げに胸を張る。


「アタチの勝ち!」


「でもみんなすごかったよ!」


「えへへ〜♪」


 その時だった。


 通路の向こうから飼育員の声が響く。


「あれ?みんな何してるの?」


 四人はぴたりと固まった。


 床には移動した展示岩。


 開いた小型水槽の掃除用扉。


 散らばった案内札。


 そして満面の笑みのフウセンウオ。


「あっ」


 数秒の沈黙。


 その後。


「……片付けましょうか〜」


「「「はーい……」」」


 小魚エリアには、今日も賑やかな声が響いていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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