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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
ヒメタツの章

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第56話 海藻に隠れた優しさ



 ここは、アクアリス達が暮らしている。オープン前の第三アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。


 海藻エリア。


 揺れる人工海藻の間を、小さな影がぴょこぴょこと進んでいく。


 淡い緑色の髪を揺らす少女は、水槽のガラス越しに海藻の配置を静かに確認していた。服の裾は葉のように揺れ、立っているだけで周囲の景色と溶け込んでいるようだった。


 そんな彼女へ、小柄な少女が駆け寄る。


「あ!いましたわ!リーフィーシードラゴンさん!」


 振り向いた少女は、ゆっくり瞬きをする。


「あら、ヒメタツ」


「リーフィーシードラゴン:『ヨウジウオ目 ヨウジウオ科 ヨウジウオ亜科 リーフィーシードラゴン属 リーフィーシードラゴン』体長は20〜40cmほどで全身に枝分かれした褐藻ににた突起がありこれを皮弁と言う、この突起は皮膚が変化したものである。海藻そっくりに擬態している。プランクトンなどを食べる。オーストラリアの南西部の浅い海にのみ分布する。この生物の住む海域は天敵が多いため海藻に紛れ生き残ったと思われる。アクアリスのリーフィーシードラゴンはオーストラリアの第二アクアリス水族館からやってきた種であり人間の勉強が好きであるが、ストレスに弱く、あまりはかどっていないようだ」


「何か、問題でも?」


「うんん、これ!」


 ヒメタツは大事そうに小包を差し出した。


「小包?」


「えぇ、開けてみて」


 細い指で包みをほどく。


 中から出てきたのは、小さな海藻色のキーホルダーだった。リーフィーシードラゴンを模したデフォルメデザインで、葉のような装飾まで細かく再現されている。


「……!これは、キーホルダー?」


「えぇ!オープンに向けた試作品って言ってましたわ」


「なるほど、確かに売れそうですね」


「やっぱり!貴女もそう思います?」


「うん」


 ヒメタツはぱぁっと顔を明るくする。


「それはよかったですわ!それはあげますわ、複数もらったんですもの」


「うん、ありがと」


 小さく微笑みながら、リーフィーシードラゴンはキーホルダーを胸元へ抱えた。


 その仕草はどこかぎこちなく、それでも大切そうだった。


 ヒメタツはそんな様子を見上げる。


「気に入っていただけました?」


「……えぇ、とても」


 静かな声。


 だが、その声色は少しだけ柔らかい。


 海藻エリアの水槽照明がゆらゆらと揺れ、淡い緑の光が床へ映り込む。


 リーフィーシードラゴンはその光景を眺めながら、小さく息を吐いた。


「ここ、落ち着くんです」


「海藻エリアですか?」


「はい。海藻は騒がないので」


「あら」


「ただ揺れているだけ。でも、それが安心する」


 ヒメタツは少し考えてから、ふわりと笑った。


「リーフィーシードラゴンさんらしいですわ」


「そうでしょうか」


「えぇ。穏やかで、静かで、でもちゃんと周りを見ていますもの」


 その言葉に、リーフィーシードラゴンは少し目を丸くした。


 褒められることに慣れていないのか、視線を海藻へ逃がす。


「……ヒメタツは、よく周りを見ていますね」


「そうです?」


「うん。皆のことを気にしている」


「まぁ、最古参ですもの!」


 胸を張るヒメタツ。


 しかし次の瞬間、ふにゃりと笑う。


「……なんて、少し背伸びしているだけですけれど」


「背伸び?」


「第三アクアリス水族館には、新しい子がいっぱい来ましたでしょう?だから、不安にならないようにしたいんですの」


 リーフィーシードラゴンは静かに聞いている。


「わたくしも、最初は怖かったですもの。知らない場所、人間、知らない生き物……いっぱいでしたわ」


「……」


「だから、少しでも安心してほしくて」


 海藻がゆっくり揺れる。


 その音だけが静かな空間に響いた。


 やがてリーフィーシードラゴンは、小さく口を開く。


「……ヒメタツは、優しい」


「え?」


「だから皆、安心するんだと思う」


 不意に返ってきた言葉に、ヒメタツは目をぱちぱちと瞬かせた。


「そ、そうでしょうか……?」


「うん」


 短い返事。


 けれど、まっすぐだった。


 ヒメタツは少し照れくさそうに頬を掻く。


「なんだか、照れますわね……」


「ふふ」


「あ!笑いましたわね!?」


「少しだけ」


「もう!」


 ふたりの声が重なり、海藻エリアへ穏やかな空気が広がっていく。


 その時だった。


 遠くの通路から、ぱたぱたと慌ただしい足音が聞こえてくる。


「た、大変です〜!」


 勢いよく現れたのは、小柄なミナミメダカだった。


 肩で息をしながら、慌てた様子で駆け寄ってくる。


「ミナミメダカさん?」


「ミナミメダカ:「棘鰭上目 ダツ目 メダカ亜目 メダカ科 メダカ亜科 メダカ属 ミナミメダカ」

日本在来種の小型淡水魚で緩やかな川や水田に生息し身近な存在でしたが環境悪化により絶滅危惧種に指定されています。アクアリスとなったミナミメダカは頑張り屋でお手伝いが大好き」


「ヒメタツさん!リーフィーシードラゴンさん!さ、探しました!」


「どうかされました?」


「えっと、その、オープン準備の飾り付けなんですけど……クラゲ館のほう、人手が足りなくて……!」


「あらまぁ」


 ヒメタツはリーフィーシードラゴンを見る。


「どうします?」


「……行きましょうか」


「ふふっ、えぇ!」


 ミナミメダカはほっと胸を撫で下ろした。


「ありがとうございます!」


 三人は並んで通路を歩き出す。


 ヒメタツは楽しそうに前を歩き、ミナミメダカはその後ろをちょこちょこと追いかける。


 そしてリーフィーシードラゴンは、少し後ろからそんな二人を眺めていた。


 胸元では、先ほどもらったキーホルダーが小さく揺れている。


 その揺れをそっと指先で触れながら、彼女は小さく呟いた。


「……悪くないですね」


 誰にも聞こえないほど小さな声は、海藻エリアの静かな空気へ溶けていった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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