第46話 五二のはじめて
第三アクアリス水族館、中央広場。
大水槽から差し込む青い光が広場全体を包み込み、集まったアクアリス達の髪や服をゆらゆらと照らしていた。
館長の隣。
群青色の髪を揺らす少女――五二は、胸元にカード束を抱えながら小さく肩を震わせている。
視線が集まる。
それだけで胸が苦しくなる。
けれど逃げ出したくはなかった。
館長がそっと背中を撫でる。
「大丈夫よ、ほら」
五二は恐る恐る前を見る。
そこには、たくさんのアクアリス達。
不思議そうな目。
興味津々な目。
優しそうな目。
様々な視線が集まっていた。
その中で、一人の少女がゆっくり前へ出る。
二枚貝の殻を思わせる帽子と長いマフラー。
どこか落ち着いた雰囲気を持つ少女だった。
「ん、もしかして、3人目の古参アクアリス、」
オオシャコガイ「ザルガイ目 ザルガイ科 シャコガイ亜科 シャコガイ属 オオシャコガイ」
二枚貝の一種、インド太平洋の熱帯海域で見られる。現生する二枚貝の中では、最大種、殻長は120cmを超え野生での平均寿命が100年を超える。体内の褐虫藻と共生していて褐虫藻の光合成で栄養を得ている。人食いとか言われているが殻を閉じるのに時間がかかる閉じても少し隙間があるため嘘である。幼生の時期は場所を探すため泳ぐが成長すると海底に定着して移動能力を失う。オオシャコガイのアクアリスは、二枚貝を思わせる帽子とマフラーが特徴。
その隣で、小さなアホ毛を揺らす少女が静かに頷く。
「えぇ、わたくしと、オオシャコガイさんと、あの方が、3人目の古参アクアリス……」
ヒメタツ『トゲウオ目 ヨウジウオ科 タツノオトシゴ亜科 タツノオトシゴ属 ヒメタツ』
タツノオトシゴ類は外見がにており分類学的に混同され、2017年にタツノオトシゴとは頭部の突起が小さいこと、ハナタツと背びれの基底付近に側方へ張り出す突起があるとして新種として認定された。卵を抱えたメスがオスのお腹の袋(育児嚢)に卵を入れる、その姿はまるでハートに見える。卵を受け取り体を動かし袋の中で受精させる。約1ヶ月後の夜にオスは付加した赤ちゃんヒメタツを生む。タツノオトシゴ類のアクアリスはアホ毛が生えておりヒメタツのアホ毛は小さい、水俣の海からやってきた、過去のトラウマか、水銀が嫌いであり昔は人間嫌いだったが、第一、第二アクアリス水族館の飼育員や館長や地元の人達とのふれあいによって、普段の性格に戻った、第三アクアリス水族館を作ることが決定した才、送られた最古参のアクアリスの一人。
「かわいい~♪」
赤と白の鮮やかな少女が五二を見ながら嬉しそうに笑う。
オトヒメエビ『十脚目 抱卵亜目 オトヒメエビ下目 オトヒメエビ科 オトヒメエビ属 オトヒメエビ』
成体は40〜60mmほどで身体は半透明の白色で頭部と腹部の中、尾扇に赤帯がありそれぞれ白帯が隣接する。第三歩脚は紅白の帯各4本で彩られ、また、体下面の歩脚の付け根分は青い。体表は細かい棘に覆われ、5対の歩脚のうち3対の先端に鋏がある。特に第三歩脚は太く長く発達している。世界中の熱帯やサンゴ礁域に生息、波の静かない岩棚の割れ目などに常にオスメスでつがいで同居する。オスメスの結びつきは強くどちらか片方を別個体に入れ替えるとオスがメスを排除してしまう。ウツボやニザダイやハタなどの底生大型魚と同所的に生息するがオトヒメエビはこれらの魚の体表を這い回り食べかすや寄生虫を食べて共生しこれと同じ仲間もいる、これらをまとめてクリーナーと称し大型魚は小型魚を捕食する肉食性のものもいるが、クリーナーとなる生物は体色が標識となり、捕食されるのを防いでいると考えられている。アクアリスとなっても、クリーナーとしての性質はあるようだ。
「うん、」
ゆったりした声。
長いフリル袖を揺らすクラゲの少女が頷く。
パシフィックシーネットル『旗口クラゲ目 オキクラゲ科 ヤナギクラゲ属 パシフィックシーネットル』
カルフォルニア州とオレゴン州の海岸沿いで良く見られる。最大1m以上で傘の色が金色で触手が赤色なのが特徴、強い毒を持ち痒みや腫れをを引き起こす。和名『アメリカヤナギクラゲ』水族館でイサザアミと呼ばれるエビのような見た目をした生き物を食べる。長いフリル袖を揺らす少女だった。
金色がかった淡い髪と、ゆったりした口調が特徴的だ。
「確かに、かわいいです、それに美しい」
ふわふわした桃色の髪の少女がのんびりと笑う。
センジュナマコ「板足目 クマナマコ科 センジュナマコ属 センジュナマコ」
深海数千メートルの深海に生息するクマナマコ科の生き物です。ピンク色の風船のような半透明の身体を持ち長く伸びた管足で海底を歩く姿から海の豚の愛称で親しまれる。深海の泥中に含まれる有機物を食べる。集団で同じ方向を向いて移動する。一ふわふわとしたピンク色の髪を揺らす、どこかのんびりした雰囲気の少女。
「うん、」
小柄な白髪の少女も静かに頷いた。
ダイオウグソクムシ「ウオノエ亜目 スナホリムシ科 オオグソクムシ属 ダイオウグソクムシ」
等脚類としては世界最大であり体長は20〜40センチメートルで最大50センチメートル近くにもなる世界最大のダンゴムシの仲間。鎧のような外殻を持った甲殻類でクジラの死骸などを食べることから「海の掃除屋」として知られる。5年以上断食した個体などもいるらしい。白髪の小柄な少女。
「だね~」
オレンジ色の髪をした少女がふわふわ笑う。
メンダコ「八腕形目 ヒゲダコ亜目(有触毛亜目) メンダコ科 メンダコ属 メンダコ」
深海性のタコの仲間であるため、詳しい生態は不明である。水深200〜1000mの深海に生息、平たいUFOのような形をした小型のタコで全長約20cm。耳のようなヒレをパタパタ動かしてふわふわと泳ぎ、墨を吐かず、匂いが強い。デリケートで長期飼育が難しく「深海のアイドル」として人気。底生生物などを食べる。深海の高い水圧下で身体を維持する構造で低圧では支えがないためぺったんこになる。オレンジ色の髪をした少女。
他にも、中央広場には多くのアクアリス達が集まっていた。
ざわざわ。
ひそひそ。
けれど、その空気は決して冷たいものではない。
むしろ歓迎するような、柔らかな空気。
しかし五二は耐えきれず、小さく唸る。
「うぅ~…」
視線が多い。
緊張する。
逃げたい。
館長はそんな五二の肩を優しく支えた。
「大丈夫よ、ほら」
五二はぎゅっとカード束を抱きしめる。
すると。
「ねぇねぇ!」
元気な声が響いた。
ミズクラゲが人混みをかき分けながら前へ飛び出してくる。
「あなたが五二ちゃん!?」
五二はびくりと肩を震わせた。
だがミズクラゲは気にせず目を輝かせる。
「歌すっごく綺麗だった!」
五二の瞳が揺れる。
ミズクラゲは続けた。
「聞こえにくいところもあったけど、なんかね、海の奥みたいだった!」
「ふわ〜って感じ!」
「優しい感じ!」
説明が雑だった。
だが、その言葉に嘘はなかった。
五二は困ったようにカードをめくる。
『……ありがとう』
「わぁ!カードかわいい!」
ミズクラゲはさらに顔を近づける。
「いっぱい描いてある!」
ハダカカメガイが後ろからため息をついた。
「ミズクラゲ、近いですよ」
「あ、ごめん!」
五二は慌てて首を横に振る。
それから、おそるおそる新しいカードを出した。
『へいき』
その文字を見た瞬間。
中央広場の空気が少しだけ柔らかくなった。
誰かが笑う。
誰かが安心したように息を吐く。
その輪の中心で。
五二はまだ緊張しながらも、ほんの少しだけ。
ほんの少しだけ、笑っていた。
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