第45話 中央広場の交流会
第三アクアリス水族館、中央広場。
巨大な円形水槽を囲むように造られた広場には、淡い青色の照明が揺れていた。天井へ反射する水の光はまるで海の中にいるようで、開館前の静かな館内に心地よい波音だけが響いている。
今日は少しだけ特別な日。
新しいアクアリスとの交流会。
その話を聞きつけたアクアリス達が、少しずつ中央広場へ集まり始めていた。
「ねぇねぇ!新しい子ってどんな子なんだろ!」
元気よく広場へ飛び込んできた半透明の少女。
ミズクラゲである。
その後ろを、白く透き通った少女がゆっくり追いかけていた。
「ミズクラゲ、走ると危ないですよ」
「ミズクラゲ:「旗口クラゲ目 ミズクラゲ科 ミズクラゲ属 ミズクラゲ」
半透明の傘の中央に4つの胃(四つ葉のクローバーに見える)を持つクラゲです。
毒性は弱く刺されてもかゆい程度大量発生することもあり別名「ヨツメクラゲ」
アクアリスとなったミズクラゲは好奇心旺盛元気活発な少女です。」
「だって気になるんだもん!」
ハダカカメガイは小さくため息をつく。
ハダカカメガイ「翼足目 裸殻翼足亜目 ハダカカメガイ科 ハダカカメガイ亜科 ハダカカメガイ属」
クリオネや流氷の天使として知られている。
殻を持たない巻貝の仲間でオホーツク海などに生息。
透明な身体と翼足を羽ばたかせて泳ぐ。
大きいもので3cmほどになり肉食でミジンウキマイマイなどを捕食し捕食シーンを見れるのは珍しい。
捕食する時はバッカルコーンと呼ばれる6本の触手を出して捕食しその姿は天使とは似ても似つかない
アクアリスとなったハダカカメガイは落ち着いていて面倒見がよく海獣の幼体の世話などもやっていたりする。
「でも、館長さんが“特別な子”って言ってたよね!」
「そうですね……」
ハダカカメガイは静かに広場を見渡す。
すでに何人ものアクアリス達が集まっていた。
モンハナシャコは腕を組みながら壁にもたれ、オニイトマキエイはのんびりと椅子へ座っている。
モンハナシャコ:「シャコ目 フユトビシャコ上科 ハナシャコ科 ハナシャコ属 モンハナシャコ」インド洋 西太平洋の熱帯・亜熱帯域に生息しカラフルな体色が特徴の甲殻類です。時速80km超の協力なパンチで貝や甲殻類の殻を粉砕しガラス水層を簡単に破ることができます。10万以上の色を識別できる非常に優れた視力を持つ、地上ではシャコパンチは弱くなるがそれでも危険なので素手で触ることはおすすめしない。海のボクサーのようだ。シャコパンチの衝撃だけでなく、海水が沸騰する「キャビテーション」という現象で気泡が爆縮し、約100kgの力で獲物を攻撃する。パンチは捕脚(前脚)を高速で打ち出し、獲物を仕留める
「オニイトマキエイ:「トビエイ目 イトマキエイ科 イトマキエイ属 オニイトマキエイ」日本でも、マンタと呼ばれ、熱帯の海のごく、表層を遊泳し泳ぎながらプランクトンを食べる。毒はない。頭部先端の両側には頭鰭と呼ばれるヘラ状の鱗がありこれは、伸ばしたり丸めたり自由に形を変形できて、餌を取るのに役立つと考えられている。最大で横幅6〜8メートル、体重3トンにも達する世界最大級のエイである。ダイバーに人気がある。アクアリスとなったオニイトマキエイはよく飼育員の手伝いをしてくれる」
その近くでは、ミミックオクトパスがそわそわしながら周囲を見回していた。
「ミミックオクトパス:「八腕形目 マダコ科 ミミックオクトパス属 ミミックオクトパス」インドネシアで発見数が多いがフィリピンやグレート・バリア・リーフなどにも生息、比較的小型のタコで腕を広げた大きさは最大で60cmにもなる、本来の身体は赤茶褐色、擬態する時は、白と茶色の縞模様になる。ミノカサゴ、ウミヘビ、カレイ、クラゲ、ウミウシなどになれる頑張れば何にでもなれるかもしれない、別名ゼブラオクトパス。アクアリスとなった茶色い髪のミミックオクトパスちゃんは臆病でよく飼育員に擬態する」
「す、すごい人数ですね……」
「まぁ交流会だからな!」
「楽しそう〜」
モンハナシャコはにやりと笑う。
「お前もだいぶ慣れたじゃねぇか」
「え?」
「前ならこんな人の多いところ、震えてただろ?」
ミミックオクトパスは少し考える。
確かに最初は、人と話すことすら怖かった。
けれど今は違う。
友達ができた。
一緒に歩く相手がいる。
そう思うだけで、少し勇気が出る。
「……はいっ」
小さく笑うミミックオクトパスを見て、オニイトマキエイが嬉しそうに目を細めた。
その一方。
別の場所では。
「わぁ〜!広い〜!」
「チョウチョウオちゃん、ぶつかるよ〜」
「だ、大丈夫!」
直後。
ゴンッ。
「いたぁ!?」
「だから言ったのに〜……」
「カブトガニ:「カブトガニ目 カブトガニ科 カブトガニ亜科 カブトガニ属 カブトガニ」ドーム状の殻に剣のような尾を持った背中全体が背甲でその下に脚などの付属肢が隠れている。カニと名前につくがカニ類ではなく蜘蛛やサソリに近い。血が青く大昔から姿を変えず生きてきた「生きた化石」である。背泳ぎで泳ぎ行きたい場所につくと落下して逆さまのまま着地し起き上がる。起き上がれないと死んでしまうらしい。アクアリスとなったカブトガニは巡回をして暇をつぶしている」
カブトガニが呆れたように見つめる。
その横では、ウデフリツノザヤウミウシが慌てて駆け寄っていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ウデフリツノザヤウミウシ:「後鰓目 裸鰓亜目 フジタウミウシ上科 フジタウミウシ科 ミズタマウミウシ属 ウデフリツノザヤウミウシ」インド洋、西太平洋、メキシコ湾などに生息。黄色から山吹色の体色に触覚、突起、尾の先端が黒や青に染まっている。別名「海のピ◯チュウやピ◯チュウウミウシ」として有名でダイバーからも人気。水深10メートルほどの砂底に住む、藻を食べ雌雄同体。触覚の根本にある腕のような指状突起をフリフリ動かして歩く様子が観察される。アクアリスとなったウデフリツノザヤウミウシは尻尾に見える触覚と頭の触覚があり尻尾のような触覚は感情が高ぶるとフリフリとゆれて頭の触覚は警戒しているとフリフリとゆれる」
「へへっ、大丈夫大丈夫!」
チョウチョウオは笑っているが、額を押さえている。
チョウチョウオ「ニザダイ目 チョウチョウオ科 チョウチョウオ属 チョウチョウオ」
模様は目を通る太い黒帯が一本と白い帯が特徴的で藻類やカイメンなどを食べ、水深1〜30mまでの岩礁やサンゴ礁域に生息し水温10どの低温にも耐える。チョウチョウオ科の中でも温帯域に生息。アクアリスのチョウチョウオは元気で活発でよく壁にぶつかるほど危なっかしい。
「ほんと元気だね〜……」
「交流会って楽しいじゃん!」
ウデフリツノザヤウミウシは周囲を見回しながら、少し感心したように呟く。
「みんな、仲良しなんですね」
「ん〜?」
カブトガニはゆっくり首を傾げた。
「気づいたら〜こうなってた〜」
その言葉に、ウデフリツノザヤウミウシは少し笑う。
どこか、キンギョハナダイ達の言葉に似ていた。
中央広場の反対側。
ショープール組もやってきていた。
「わぁ〜!人いっぱい!」
マイルカが目を輝かせる。
「マイルカ:「鯨偶蹄目 ハクジラ亜目 マイルカ科 マイルカ属 マイルカ」世界中の熱帯から温帯の海に生息し背ビレが尖っていて側面前部に黄色と灰色の斑紋があり背中は黒く腹側は白い、イカや魚の群れを襲い食べる。通常は50頭ほどの群れを作るが1000頭以上の群れになることもある。非常に好奇心旺盛で野生でも船の引き波に乗って平速したり海面をジャンプしたりする。アクアリスとなったマイルカは原種と同じく好奇心が強く飼育員にもよく遊んでとせがむことがあります。」」
「交流会だからね〜」
シロイルカは嬉しそうにくるくる回る。
「シロイルカ:「鯨偶蹄目 イッカク科 シロイルカ属 シロイルカ」別名「ベルーガ」で北極海周辺に生息、よく、スナメリと同一視される。アクアリスとなったシロイルカはマイルカのアクアリス同様遊ぶことが好きでマイルカといっしょに遊んでほしいと飼育員に頼むことがある」」
一方で、シャチは少しだけ後ろに下がっていた。
「シャチ:「鯨偶蹄目 ハクジラ亜目 マイルカ科 シャチ亜科 シャチ属 シャチ」シャチ属唯一の現生種で北極から南極に加えて熱帯海域までと、世界中の海洋環境に生息する。頂点捕食者で天敵が人間以外に存在しない。海洋系で食物連鎖の頂点であるが弱った個体はサメなどに攻撃される。マイルカ科最大である。アクアリスとなったシャチは物静かで誰とでも仲良くなりたいと思っているがうまく行動に出せない、」」
「……ちょっと……多い……」
「シャチちゃん人混み苦手だもんね〜」
イロワケイルカが苦笑する。
「イロワケイルカ:「ハクジラ亜目 マイルカ科 イロワケイルカ属 イロワケイルカ」南アメリカの南端 フエゴ島、フォーグランド諸島、インド洋南部、ケルゲレン諸島周辺の海に生息、その色合いからパンダイルカなどと言われたりする。頭、背びれ、尾びれが黒くそれ以外が白い、世界最小クラスの小型イルカ、イルカには明確な分類上の区別はなくクジラの仲間」
スナメリは静かに周囲を見ながら、小さく呟いた。
「スナメリ:「鯨偶蹄目 クジラ目 ハクジラ亜目 マイルカ上科 ネズミイルカ科 スナメリ属 スナメリ」
スナメリは日本を含むアジア沿岸部の温厚な海域で生息し野生個体は警戒心が強くあまりたくさんの群れを作りません。
魚類や甲殻類、頭足類などを食べ、名前の由来は海底の砂のなかに隠れた獲物を探す姿が砂をなめるように見えることから「砂なめり」→スナメリと言う説がある。
シロイルカと同一視されるがスナメリは小型のイルカでシロイルカのほうがデカい」
コガシラネズミイルカが両手でボールを差し出した。
「新しい子、緊張してるかな」
「してるかも!」
「なら優しくしないとね〜!」
コガシラネズミイルカが元気よく頷く。
「コガシラネズミイルカ:「鯨偶蹄目 ネズミイルカ科 ネズミイルカ属 コガシラネズミイルカ」メキシコのカルフォルニア湾北部に生息。最大全長148センチメートル、体形は太くて短く背鱗は鎌状、丈が高く胸鱗は三日月形で先端が尖る。胸ビレは幅が狭く小さい、背ビレは大きく後方に傾いた三角形で尾ビレは両端が尖り、中央にはっきりとした切れ込みがある、背面は暗灰色、体側面は淡灰色で腹面は白く、目の周辺や口の周りが黒い、水深40メートルの沿岸部に生息し同科他種と同じく群れをつくる。差し網やトロール漁による乱獲により生息地が激減しているが狙って乱獲しているわけではなく同じくらいの大きさのトトアバと言う魚を密漁、捕獲するための網に誤ってかかってしまっている。トトアバの密漁は禁止されている。コガシラネズミイルカはただのとばっちりのようなものである。確認されているだけでも10頭ほどしか確認されておらず絶滅危惧種である。保護しようとプログラムが動いたがデリケートなためストレスで捕まえても死んでしまうため断念された。アクアリスとなったコガシラネズミイルカは好奇心旺盛で危なっかしい」
その時だった。
広場の照明が少しだけ落ちる。
ざわついていたアクアリス達が、自然と静かになった。
中央通路。
館長がゆっくり歩いてくる。
「みんな、集まってくれてありがとう」
優しい声が広場へ響く。
アクアリス達が一斉に館長を見る。
「今日は仲間を紹介するわ」
「新しい子〜?」
「どんな子だろ」
「楽しみ〜」
ざわざわと期待の声が広がる。
館長は後ろを振り返った。
「大丈夫よ。おいで」
静かな沈黙。
そして。
通路の奥から、ゆっくりと一人の少女が姿を現した。
群青色の長い髪。
深海のような静かな瞳。
胸元には、大事そうに抱えられたカード束。
少女は少し俯きながら、一歩ずつ歩いてくる。
広場はしんと静まり返っていた。
初めて見るアクアリス。
どこか儚げで、静かな存在感。
ミズクラゲが小さく呟く。
「……あの子が」
ハダカカメガイも静かに目を細める。
少女は館長の隣まで来ると、ぎゅっとカードを抱きしめた。
緊張しているのが誰の目にもわかった。
館長は優しく微笑む。
「紹介するわ」
「この子は――五二ちゃんよ」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




