表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
デンキウナギの章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/101

第36話 月夜にゆれる小さな群れ


「ここは、アクアリス達が暮らしている。アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。」


第三アクアリス水族館、川魚エリア。


夜の巡回を終えたデンキウナギとミナミメダカは、水槽沿いの通路をゆっくり歩いていた。


月光照明に照らされた水層は青白く輝き、魚たちの影が静かに揺れている。


「夜の水族館って、不思議ですね......」


ミナミメダカは水槽を見上げながら呟いた。


「昼と違って、静かで......でも、生きてる感じがする」


「うん、夜のほうが落ち着く子も多いから、」


デンキウナギはゆっくり歩きながら答える。


その時、水槽の隅で小さな影がぴょこんと跳ねた。


「あっ」


ミナミメダカが顔を近づける。


岩陰から現れたのは、小さなエビだった。


透明な身体を月光が照らし、きらきらと光っている。


「綺麗......」


「ヤマトヌマエビ、かな」


「知ってるんですか?」


「掃除屋として有名だから、」


エビは水草の葉をつつきながら、小さな脚を忙しなく動かしていた。


ミナミメダカはじっと見つめる。


「なんだか、働き者ですね」


「うん、みんな役割があるから」


「役割......」


ミナミメダカはその言葉を小さく繰り返した。


自分の役割。


守る力を持つデンキウナギ。


掃除をするエビ。


群れを作る魚たち。


それぞれにできることがある。


「私にも、ちゃんと役割、見つかるかな......」


ぽつりと漏れた言葉。


デンキウナギは少しだけ立ち止まる。


「もうあると思う、」


「え?」


「ミナミメダカは周りをよく見てる、」


デンキウナギは静かに言った。


「危険に気づけるのも才能だから」


「で、でも......」


「戦うだけが全部じゃない、」


その言葉に、ミナミメダカは目を丸くした。


デンキウナギは水槽へ視線を向ける。


小魚たちが群れを作りながら泳いでいた。


「小さい魚たちは群れで助け合う、強い魚が一匹いるより、みんなで生きるほうが得意、」


「......」


「だから、ミナミメダカもそのままでいいと思う」


ミナミメダカはしばらく黙っていた。


それから、小さく笑う。


「......はい!」


その返事は、少し前より明るかった。


通路を歩いていくと、前方からぱたぱたと慌ただしい足音が聞こえてきた。


「うわぁぁっ!?」


次の瞬間、小柄な飼育員が曲がり角から飛び出してきた。


工具や紙束を抱えている。


「あっ」


「きゃっ!?」


ミナミメダカとぶつかりそうになる。


だがその瞬間。


バチッ。


デンキウナギの腕から微弱電流が走り、空気を震わせた。


飼育員の身体が一瞬だけふわりと減速する。


「おっとっと......!」


飼育員はなんとか転ばずに踏みとどまった。


「す、すみませんっ!」


ミナミメダカが慌てて頭を下げる。


「いやいや、こっちこそ!急いでて......って、デンキウナギちゃん?」


「大丈夫?」


「う、うん......助かったぁ......」


飼育員は胸を撫で下ろす。


抱えていた書類を見直しながら苦笑した。


「オープン準備でバタバタしててねぇ......」


「忙しそう、」


「うん、でも楽しみでもあるよ。みんなが来る日、近いからね」


その言葉に、ミナミメダカの目が輝く。


「お客さん、いっぱい来るんですか?」


「きっとね。魚が好きな人、海が好きな人、アクアリスに会いたい人も」


「すごい......!」


飼育員は笑いながら手を振った。


「それじゃ、またね!」


ぱたぱたと走り去っていく。


その背中を見送りながら、ミナミメダカは呟く。


「なんだか、みんな頑張ってるんですね」


「うん、」


「飼育員さんも、アクアリスも、生き物たちも......」


デンキウナギは静かに頷いた。


「みんなで水族館を作ってる、」


その時だった。


川魚水槽の奥で、小さな魚群が一斉に方向転換する。


銀色の波。


月光照明を反射し、まるで夜空の星みたいにきらめいた。


「わぁ......!」


ミナミメダカは目を輝かせる。


「すごい......星みたい......」


デンキウナギもその光景を見上げる。


「綺麗、」


静かな夜。


誰もいない館内。


けれどそこには確かに、生き物たちの営みがあった。


ミナミメダカはその光景を見つめながら、そっと胸元で手を握る。


「私も、頑張ろう」


小さな声。


けれどその瞳には、少しだけ自信の光が宿り始めていた。


デンキウナギはそんな彼女を見て、小さく微笑む。


そして二人は再び、静かな夜の水族館を歩き出すのだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ