第33話 水面の向こう側
「ここは、アクアリス達が暮らしている。アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。」
「ショープール」
水面に揺れる光が、青い床へゆらゆらと映っている。
六人のアクアリス達はゆっくりと泳ぎながら、先ほどのトレーニングの余韻に浸っていた。
イロワケイルカが背泳ぎでぷかぷか浮かぶ。
「ん〜……やっぱりみんなで泳ぐと楽しい〜」
マイルカが勢いよく横を通り抜けた。
「ねー!」
大きな水しぶきが上がり、スナメリが目をぱちぱちさせる。
「わっ……」
シロイルカが笑いながら近づいた。
「マイルカちゃん元気すぎ〜」
「えへへ〜」
コガシラネズミイルカは潜ったり浮かんだりを繰り返している。
「次はなにする〜?」
シャチはプールの中央で静かに浮かんでいた。
黒い髪が水の中でゆっくり広がっている。
「休憩……では……?」
「えぇ〜?」
マイルカが少し不満そうに頬を膨らませる。
だがシャチは真顔だった。
「大事……」
「うっ……たしかに」
マイルカがしゅんっとする。
その様子に、イロワケイルカがくすくす笑った。
「シャチちゃんって静かなのに説得力あるよね〜」
「ある〜」
シロイルカも同意する。
その時、プールサイドの向こうから機械音が聞こえてきた。
ガコン。
ウィィィン。
設備点検の作業が始まったらしい。
スナメリが少し耳を押さえる。
「今日は本当に大きい音するね〜」
コガシラネズミイルカがきょろきょろ辺りを見回した。
「なにしてるんだろ?」
イロワケイルカが水面から顔を出す。
「ん〜、フィルターとかかな?」
すると、プールサイドにヘルメット姿のスタッフ達が現れた。
工具を持ちながら、水槽上部の設備を確認している。
マイルカが目を輝かせる。
「おぉ〜!かっこいい!」
「邪魔しちゃだめ……」
シャチが小さく注意する。
「わかってるよ〜」
だが次の瞬間。
コガシラネズミイルカが勢いよく飛び上がった。
「やっほ〜!」
「うわっ!?」
スタッフの一人が驚いて尻もちをつく。
「あっ……」
プールの中が一瞬静まり返った。
コガシラネズミイルカは青ざめる。
「ご、ごめんなさい……」
スタッフは苦笑しながら立ち上がった。
「はは、大丈夫だよ。びっくりしただけだから」
「ほんとに?」
「うん」
それを聞いて、コガシラネズミイルカはほっと胸を撫で下ろした。
スナメリが小さく笑う。
「コガシラネズミイルカちゃん、勢いあるからね〜」
「うぅ〜……」
シロイルカがぽんぽんと頭を撫でた。
「元気なのはいいことだよ!」
「ほんと?」
「うん!」
マイルカも勢いよく頷く。
「元気担当って感じ!」
「げんきたんとう……!」
コガシラネズミイルカの顔がぱっと明るくなる。
イロワケイルカがふわふわ漂いながら呟いた。
「じゃあシャチちゃんは安心担当〜」
シャチがきょとんとする。
「安心……?」
「うん、シャチちゃんいると落ち着く」
シロイルカが笑顔で手を上げた。
「わかる〜!」
スナメリも頷く。
「静かだからかなぁ」
シャチは少し照れたように目を逸らした。
「そ、そう……?」
マイルカがくるりと回転する。
「じゃあスナメリちゃんは癒し担当!」
「えぇっ!?」
「なんかわかる〜」
「ふわ〜ってしてるもんね」
「え、えっと……」
スナメリが困ったように笑う。
するとイロワケイルカが指を差した。
「シロイルカちゃんは賑やか担当!」
「やった〜!」
「マイルカちゃんは騒がしい担当〜」
「ちょっと!?」
みんなが一斉に笑い出す。
水面がぱしゃぱしゃ揺れ、プールいっぱいに楽しそうな声が広がった。
その様子を、プールサイドのドルフィントレーナーが見守っている。
「みんな仲良しですねぇ」
スタッフの一人が感心したように言った。
「ですね。まだオープン前なのに、もう一つの群れみたいです」
その言葉通り、六人は自然と集まり、自然と離れ、また集まっていく。
まるで本物のイルカ達の群れのようだった。
その時だった。
ぐぅ〜……
静かな音が響く。
全員の視線が一点に集まった。
お腹を押さえているのはイロワケイルカだった。
「あっ」
数秒の沈黙。
そして。
「あははははっ!」
マイルカが真っ先に吹き出した。
シロイルカも笑い転げる。
「お腹空いたんだ〜!」
イロワケイルカが顔を赤くする。
「し、しょうがないじゃん〜!泳いだから〜!」
コガシラネズミイルカが勢いよく賛同する。
「わかる!」
スナメリもくすっと笑った。
「いっぱい動いたもんね〜」
シャチが静かに立ち上がる。
「ご飯……行く……?」
「行く〜!!」
六人の声が重なる。
その瞬間、また大きな笑い声がショープールに響き渡った。
今日もアクアリス水族館には、穏やかで優しい時間が流れている。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




