第2話「初めてのバトル」
二人のアクアリスが、剥き出しになった通路を進む。
まだ整備途中の館内は、ところどころ床材がむき出しで、配線が壁を這うように伸びていた。
静かだった空間に、足音だけが響いていく。
「ねぇ!アビスってなんなの?」
ミズクラゲの少女が、不安と好奇心の混じった声で問いかける。
「アビスは海の塵から生まれる存在で、全ての生き物の敵、ここはそういうのを倒すための施設、....ぁ、こっちのが早い、」
ハダカカメガイは歩みを止めず、短く答えた。
曲がり角を抜けた先に、それはあった。
浅い水の張られたプールのような空間。
しかしそれは展示用ではない。どこか機械的で、中央に向かって微かに光が流れ込んでいる。
「え!?ここ使うの?、でも、浅いよ」
ミズクラゲは首をかしげる。
ハダカカメガイは何も言わず、壁の一部を指さした。
そこには透明な管が、建物の奥へと続いていた。
「あそこから移動できる。行くよ!」
「え、あ、うん!」
二人は迷いなくその水へ飛び込む。
瞬間、世界の感覚が変わった。
水の中にいるのに、呼吸が止まらない。むしろ、呼吸そのものが自然に続いていく。
「すごい、息ができる水中なのに、」
ミズクラゲが驚いたように呟く。
「あなた、ほんとにアクアリス?アクアリスは水生生物が人型になったもの、水中で息ができる生物ならできて当然よ、」
「あ、そうか、」
納得したように頷くミズクラゲ。
水流に身を任せながら、二人は管の中を進んでいく。
光が流れるように、視界が次々と切り替わっていく。
「他に聞きたいことはない?あなた、一応新人でしょう」
「え~っと、アクアリスってどうやって生まれるの?」
ミズクラゲの問いに、ハダカカメガイは少しだけ間を置いて答えた。
「月光、月の光を浴びた水生生物はアクアリスになる。原理はわかんないけど、月にはまりょく?があってそれでアクアリスになるって、飼育員さんが言ってた」
「そうなんだ、ねぇ、水族館の外って、見たことない、私ここで生まれたから、知ってる?」
「そうね、この星は地球って言って、外にはたくさんの人間が暮らす街?っていうのがあるって聞いた、」
「そうなんだ、行ってみたいな〜」
「そうね、」
その言葉の途中で、ハダカカメガイの表情が変わった。
「っ!....近い」
「!」
空気が一瞬、重くなる。
やがて二人は、大きな空間へと出た。
そこは巨大な水槽だった。
しかしその中は、本来の“水族館”の光景とはまるで違っていた。
黒い煙のような、汚れのようなものが漂っている。
それは水ではなく、まるで空間そのものを侵食しているかのようだった。
「........」
それは、静かだった。
だが確かに“そこにいる”と分かる存在。
「あれは、」
「アビス!殺るよ!」
「え!?どうやって!」
ミズクラゲは一歩後ずさる。
ハダカカメガイは落ち着いたまま言った。
「......新人だったね、教えるよ、私達は生物特性を月光を媒体として、増幅させ攻撃や防御、回復、拘束などに使うことができる、私の場合、拘束型、あなたも、できるはずよ、」
「月光.......あのきれいな光、.....」
その瞬間、アビスが動いた。
「ッッッ!!!!!!」
「来る!」
「え!?」
「バッカルコーン!」
何もない空間に、六つの陣が浮かび上がる。
そこから無数の触手が伸び、アビスへと絡みついた。
拘束。
ハダカカメガイの能力が形となって現れる。
「あなたも!」
「どどど、どうすれば....」
「感じるの、月の光をそして感じたら手に集中させるように念じて、あなたもアクアリス、そこまで難しくないよ」
「.......うん」
ミズクラゲは目を閉じる。
静かに、深く。
(……月の光……)
それは遠い空の記憶のように、確かにそこにあった。
(あたたかい……手に集中……!)
その瞬間。
「!!...............ッ!!ニードル・オーレリア!!!」
光が形を変える。
四つ葉のクローバーのような陣が浮かび、そこから無数の毒針が放たれた。
アビスに突き刺さる。
「ッッ!?!?!?.......ァァァ!!?」
黒い存在が揺らぐ。
まるで形を保てなくなっていくように。
「さすが、どうやら毒状態になってるみたい、.....ッ、.....とどめ!お願い!」
「うん!ニードル・オーレリア!!!」
再び放たれる光。
その瞬間、アビスは月光に触れたかのように揺らぎ、崩れ、そして消えた。
そこにはもう、何も残っていなかった。
「はぁ......はぁ、....」
ミズクラゲはその場に立ち尽くす。
「あなた、けっこうやる、いい攻撃ね」
「うん、ありがとう」
そのときだった。
水中全体に、柔らかい声が響く。
「二人とも、よくやったわね、ほかのアクアリスが向かってたけど、到着前に終わらせるなんて」
「この声は、」
「館長よ、」
「館長?」
「この水族館の主、偉い人」
「へぇ〜」
館長の声は、穏やかだった。
「君が、ミズクラゲだね、生まれたばかりの新人らしいけど、よろしくね」
「はい!」
声はそれだけを残し、静かに消えた。
「館長はいい人、きっと仲良くなれる」
「うん!」
その頃、館長室。
「....ふぅ、」
「館長、どうされました、」
「いえ、あの子達の戦った個体が弱かったから良かったわ、それだけ、」
「そうですね、」
「本当は、アクアリス達には幸せ生きてほしいけど、アビスがいるからね、私達人間がどうにかできたらいいけど、」
「そうですね、」
静かな会話の中、館内のどこかで再び装置が微かに脈動した。
まだ、この水族館は始まったばかりだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




