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ようこそ、アクアリス水族館へ!  ―深淵を祓う秘密の楽園―  作者: れんP
ウデフリツノザヤウミウシの章

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第25話 はじめての案内役


「ここは、アクアリス達が暮らしている。アクアリス水族館、今日も今日とて平和です。」


「活魚車の中。運転席」


業者は前方に見えてきた巨大な建物を見ながら、ゆっくりと速度を落としていった。


白と青を基調とした大きな施設。


第三アクアリス水族館。


まだ正式オープン前だが、既にたくさんの命の気配が集まり始めている場所だった。


「さ、もうつくぞ、」


「.....」


助手席では、小柄な少女が窓の外を見つめていた。


緊張しているのか、頭の触覚がふりふりと揺れている。


業者はその様子を見て笑った。


「はっはっはっ!そんなに警戒しなくてもいいさ、君は君らしく、生きていけばいい」


少女は少しだけ肩を震わせ、それから小さく頷く。


「....はいっ!」


「ウデフリツノザヤウミウシ:「後鰓目 裸鰓亜目 フジタウミウシ上科 フジタウミウシ科 ミズタマウミウシ属 ウデフリツノザヤウミウシ」インド洋、西太平洋、メキシコ湾などに生息。黄色から山吹色の体色に触覚、突起、尾の先端が黒や青に染まっている。別名「海のピ◯チュウやピ◯チュウウミウシ」として有名でダイバーからも人気。水深10メートルほどの砂底に住む、藻を食べ雌雄同体。触覚の根本にある腕のような指状突起をフリフリ動かして歩く様子が観察される。アクアリスとなったウデフリツノザヤウミウシは尻尾に見える触覚と頭の触覚があり尻尾のような触覚は感情が高ぶるとフリフリとゆれて頭の触覚は警戒しているとフリフリとゆれる」


活魚車はゆっくりと搬入口へ入っていった。


     ◇


「第三アクアリス水族館 搬入口」


エンジン音が止まる。


静かになった車内で、ウデフリツノザヤウミウシは少しだけ深呼吸した。


「ふぅ、さっ、ついたぞ、」


業者が扉を開ける。


高い位置から地面を見たウデフリツノザヤウミウシは、ぴたりと固まった。


「……」


「ん?どうした?」


「た、高いです……」


業者は思わず笑ってしまう。


「あぁ、待っていなさい、」


車を降り、反対側へ回り込む。


扉を開けると、業者はそっと両手で彼女を抱え上げた。


「わっ……」


「はいよっと。」


地面へゆっくり降ろされる。


足が床につくと、ウデフリツノザヤウミウシはぺこりと頭を下げた。


「ありがとうございます。」


「いや、いいんだよ」


その時だった。


「運転お疲れ様です。、それと、いらっしゃい、ウデフリツノザヤウミウシちゃん、私はここの館長です。」


優しい声が響く。


ウデフリツノザヤウミウシが顔を上げると、そこには館長が立っていた。


柔らかな笑顔。


それだけで少し安心できる。


「....あっ、ウデフリツノザヤウミウシですっ!」


緊張したせいか、少し大きな声になってしまった。


業者は笑いながら館長に書類を渡す。


「館長さん、頼まれてたウミウシとアクアリスのウデフリツノザヤウミウシ、連れてきましたよ。馴染むといいですね」


「えぇ、なにかわからないことがあったら、私やスタッフや周りのアクアリス達に言うのよ」


「はい!」


その返事と同時に、頭の触覚がまたふりふりと動いた。


だが今度は、少しだけ警戒が薄れているように見える。


すると奥から別の少女がやってきた。


茶色い髪。


ゆったりした歩き方。


どこかのんびりした雰囲気を纏っている。


「新しい子?」


館長が頷いた。


「あら、カブトガニちゃん。えぇ、そうよ。この子はウデフリツノザヤウミウシちゃん、インド洋から来たのよ」


「おぉ~はるばる遠くから、私はカブトガニ、よろしくね。」


「カブトガニ:「カブトガニ目 カブトガニ科 カブトガニ亜科 カブトガニ属 カブトガニ」ドーム状の殻に剣のような尾を持った背中全体が背甲でその下に脚などの付属肢が隠れている。カニと名前につくがカニ類ではなく蜘蛛やサソリに近い。血が青く大昔から姿を変えず生きてきた「生きた化石」である。背泳ぎで泳ぎ行きたい場所につくと落下して逆さまのまま着地し起き上がる。起き上がれないと死んでしまうらしい。アクアリスとなったカブトガニは巡回をして暇をつぶしている」


「ウデフリツノザヤウミウシです。今日からよろしくお願いします。」


「えぇ、」


館長が微笑む。


カブトガニはじーっとウデフリツノザヤウミウシを見つめていた。


「……」


「……?」


「触覚、動いてる〜」


「はっ!?」


ウデフリツノザヤウミウシは慌てて頭を押さえる。


だが触覚はぴこぴこと動き続けていた。


カブトガニは楽しそうに笑う。


「かわいいね〜」


「ぅぅ……」


恥ずかしくなったのか、今度は尻尾のような触覚までぱたぱた動き始めた。


「おぉ〜、そっちも動く〜」


「や、やめてくださいぃ……」


業者が吹き出す。


館長も口元を隠して笑っていた。


少しだけ空気が柔らかくなる。


館長はそんな様子を見てから言った。


「そうだ、カブトガニちゃん、ウデフリツノザヤウミウシちゃんの案内をお願いできる?」


「うん、いいよ~、それでいいかな?」


ウデフリツノザヤウミウシはぱちぱち瞬きをした。


自分のために案内役をしてくれる。


そんなことをされるとは思っていなかった。


「はい!」


元気よく返事をすると、今度は尻尾の触覚がふりふり揺れる。


カブトガニはそれを見てまた笑った。


「それじゃあ、決まりだ、行こう」


「はい!!」


二人は並んで歩き始める。


搬入口の向こうには広い通路。


様々な水層。


忙しそうに動く飼育員達。


そして、どこかから聞こえるアクアリス達の笑い声。


ウデフリツノザヤウミウシは辺りをきょろきょろ見回した。


「す、すごい……」


「ふふ〜、まだまだいっぱいあるよ〜」


「こんなに大きいんですね……」


「うん。巡回してると迷うくらい。」


「め、迷うんですか!?」


「うん、よく迷う〜」


「だ、大丈夫なんですか!?」


「大丈夫大丈夫〜、そのうち戻れるし〜」


本当に大丈夫なのだろうか。


ウデフリツノザヤウミウシは少し不安になった。


だが、カブトガニののんびりした声を聞いていると、不思議と安心する。


「まずどこ行く〜?」


「え、えっと……」


迷っていると、遠くから子供のような笑い声が聞こえた。


「あははははっ!」


どこかで誰かが走り回っているらしい。


カブトガニは笑う。


「あっちは今日もにぎやかだね〜」


ウデフリツノザヤウミウシはその声の方を見つめた。


この水族館には、まだ知らないアクアリス達がたくさんいる。


少し怖い。


でも、それ以上に——


楽しみだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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